19年半ぶりの節目到達が示す時代の変化
12月19日、日本の債券市場で象徴的な出来事が起こりました。新発10年物国債の利回り(長期金利)が、2006年5月以来、約19年半ぶりに節目の2%に到達したのです。一時2.015%と、26年ぶりの水準まで上昇する場面もあり、市場は明らかな「時代の転換」を映し出しています。
かつて、日本銀行による異次元緩和や長短金利操作(YCC)が行われていた時期、長期金利は日銀の介入によって低く抑え込まれ、市場機能が不全に陥っていました。しかし、2024年8月以降、日銀が国債の買い入れを減らし、保有比率をピーク時の54%超から48%台まで低下させたことで、金利が自由に動く環境が整いました。
専門家はこの現象を、景気や物価の先行きを正確に映し出す「経済の体温計」の機能がよみがえったと評価しています。金利が本来の市場機能を取り戻したことで、銀行などの機関投資家が経済情勢をシビアに検証して売買する見通しが、ダイレクトに金利へ反映されるようになりました。
2006年とは異なる経済構造
長期金利が前回2%台を記録した2006年当時と現在を比較すると、日本経済の構造的な変化が浮き彫りになります。2006年当時は、日銀がゼロ金利政策を解除したものの、物価上昇率は0%台にとどまり、依然として「デフレ脱却」が主要なテーマでした。
対して現在は、消費者物価指数(CPI)が3%に達し、3年以上にわたって日銀の目標(2%)を上回るインフレが定着しています。また、失業率は4.1%から2.5%へと低下し、賃上げ率も1%台から5%台へと飛躍しました。バブル期以来の雇用逼迫と、賃金と物価の好循環という、かつての日本には見られなかった「インフレマインド」が市場に浸透しつつあります。
株式市場が示した前向きな反応
通常、金利の上昇は株式市場にとって逆風となりますが、同日の株式市場は意外な反応を見せました。日銀が政策金利を0.50%から0.75%へ、30年ぶりの水準に引き上げることを決定した直後、日経平均株価は一時700円を超えて上昇し、節目の5万円に迫りました。
この背景には、金融政策の不透明感が払拭されたことへの安堵感があります。また、日銀が円安に伴う物価高への懸念を背景に利上げに踏み切ったことで、年末の株高を期待する「掉尾の一振」の動きも加速しました。特にトヨタ自動車やメガバンクなどの大型株が物色され、市場は金利上昇を「経済の正常化」として前向きに捉える姿勢を示しています。
2%は通過点に過ぎないのか
歴史を振り返れば、2%という水準は常に上昇を阻む「厚い壁」となってきました。1999年や2006年にも一時的に到達しましたが、当時は景気停滞による資金需要の乏しさから、銀行が消去法的に国債を買い支えていたため、大台の定着はかないませんでした。
しかし今回は、日銀の継続的な利上げ姿勢や、海外投資家の存在感増大により、2%は単なる「通過点」になるとの見方が強まっています。一方で、高市早苗政権による積極財政がもたらす財政悪化への懸念や、金利上昇が負債を抱える個人や企業に与えるダメージといった、市場が発する「アラート」を注視する必要もあるでしょう。
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