不動産は、相続税の負担を抑える手段として、富裕層を中心に広く活用されています。
現金や預貯金を不動産に組み替えるだけでも節税効果が得られますし、特例制度を併用することで資産承継をより戦略的に進めることが可能です。
本記事では、不動産が相続税対策として有効とされる理由と活用方法について解説します。
[ 目次 ]
不動産が相続税対策に活用される理由
相続財産は通常、相続開始時点の価値を基に相続税評価額を計算します。
たとえば、1億円の預貯金がある場合、相続税評価額はそのまま1億円です。
一方、土地と建物については評価方法が個別に規定されており、相続税評価額は時価の8割程度にとどまります。
同じ1億円の資産でも、預貯金を不動産に組み替えることで課税対象額を2,000万円程度圧縮できるため、相続人が負担する相続税を数百万円単位で軽減できる可能性があります。
さらに、不動産を賃貸用として活用すれば、家賃収入によるキャッシュフローを確保しつつ、相続税評価額を抑えることができるため、資産承継の観点からも有効です。
相続税における不動産評価の仕組みと評価減のポイント
不動産は、実際の価値よりも相続税評価額を低く抑えることができる資産です。
土地・建物の相続税評価額の計算方法
戸建住宅を保有している場合、土地と建物を別々に評価することになります。
土地の相続税評価額は、国税庁が定める路線価方式または倍率方式によって算定されます。
どちらの方式を用いるかは所在地によって決まっていますが、いずれの場合も評価額は時価のおおむね8割程度となります。
一方、建物は固定資産税評価額をそのまま相続税評価額として用います。
建物は経年劣化するため、購入後に固定資産税評価額が大きく上昇することはほとんどありません。
マンションも戸建住宅と同様に、建物と土地をそれぞれ評価しますが、マンションの相続税評価額は時価との差が大きくなりやすい傾向があります。
特に高層マンションでは、評価額が時価の6割程度にとどまるケースもあり、相続税対策として選ばれる理由のひとつです。
貸宅地・貸家建付地による評価減
不動産を貸付用として利用している場合、貸付によって所有者が自由に利用できない制約が生じるため、相続税評価額の減額補正の対象となります。
貸宅地として利用している土地は、借地権相当額を控除した金額が相続税評価額として算定されます。
たとえば、借地権割合が60%の地域にある土地であれば、自用地の40%に相当する金額が評価額として扱われます。
また、貸付アパートや貸付マンションの場合、敷地は貸家建付地としての評価減が適用され、建物については借家権割合(一律30%)が控除されるため、土地・建物双方の評価額が低く算定されます。
賃貸用として運用することで節税効果を享受できる点は、不動産ならではのメリットです。
小規模宅地等の特例の活用ポイント
小規模宅地等の特例は、居住用や事業用などの敷地として利用している土地を対象に、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。
たとえば、居住用宅地であれば330㎡まで評価額を80%減額できる「特定居住用宅地等」が適用されます。
また、貸付以外の事業用として利用している宅地については、400㎡まで評価額を80%減額できる「特定事業用宅地等」の対象となります。
この特例を適用するには、対象用途で利用していることなど、満たすべき要件が複数あります。
そのため、生前から小規模宅地等の特例を見据え、不動産の取得や利用形態を計画的に検討することが、相続税対策の成否を左右します。
不動産を活用した相続税対策の注意点
不動産は相続税の節税手段として有効ですが、実務上のリスクや課題も存在します。
相続税の納税資金不足に陥るリスク
不動産を活用した相続税対策を行う際には、納税資金を確保するための流動性を意識した資産設計が欠かせません。
相続税は原則として現金で一括納付する必要があるため、相続財産の大半を不動産に組み替えた場合、相続人が納税資金を十分に確保できず、対応に窮する可能性があります。
相続税には延納制度や物納制度がありますが、適用するためのハードルは高いため、不動産を売却して資金を捻出せざるを得ない状況に陥ることも想定されます。
税制改正による節税スキームの破綻
不動産を利用した節税スキームは、税制改正によって効果が大きく変わる可能性があります。
小規模宅地等の特例は、過去に適用要件が変更されたことがありますし、近年ではマンションの相続税評価額と市場価格の乖離を是正する新しい算定ルールが導入されるなど、相続税対策への規制は強まっています。
税制は社会情勢や財政状況に応じて改正されるため、不動産を活用する場合には、制度改正のリスクを常に念頭に置き、複数の選択肢を準備しておくことが重要です。
まとめ|不動産を活用するだけでは十分ではない
不動産の活用は、相続税の節税効果が期待できる一方で、納税資金の確保や税制改正の影響を軽視すると、予期せぬトラブルを招く可能性があります。
そのため、節税効果だけに着目するのではなく、現金資産とのバランスを踏まえた資産承継戦略の一部として位置づけることが、効果的な相続税対策につながります。
自身の状況に適したスキームを構築するには、税の専門家を交えた事前のシミュレーションが不可欠です。
まずは将来の相続に備えた具体的な「健康診断」として、専門家へ相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
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