FOMCの政策据え置きと異例の反対票
米連邦公開市場委員会(FOMC)は2026年7月28 、29日に開いた定例会合で、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を3.50%〜3.75%のレンジで据え置くことを決定しました。政策金利の据え置きは5会合連続となります。
しかし今回の投票結果は賛成9、反対3となり、FOMC内部における金融政策を巡る強い意見の相違が浮き彫りになりました。反対票を投じたのは、ダラス連銀のローガン総裁、クリーブランド連銀のハマック総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁の連邦準備銀行総裁で、再燃するインフレへの懸念から0.25ポイントの追加利上げを実施すべきだと主張しました。ローガン総裁は「インフレ率が目標の2%に下がらないなら、少なくとも何らかの金融引き締めが必要になる」と指摘し、ハマック総裁も雇用よりインフレ抑制を重視し、経済界の声に応えるべきだとの姿勢を示していました。
一方、2026年5月に就任したウォーシュFRB議長は、記者会見でインフレ抑制への強い決意を表明しました。「5年にわたる高インフレを受けて、FRBが2%を超えるインフレ率を事実上容認しているとの認識は誤りである」とし、「インフレの緩やかな目標など存在しない」と明確に否定しました。「必要かつ適切な場合にはためらわずに行動する」と語る一方、今会合での利上げ実施については明言を避けました。
FOMC声明では、経済活動が「堅調なペース」で拡大しており、設備投資や生産性の伸びが力強いとの認識が維持されました。雇用も着実に増加し、失業率は安定しています。しかしインフレ率はFRBの2%目標に対して高止まりしており、エネルギーなど一部分野での供給ショックも反映されていると指摘されました。
インフレ長期化への懸念材料
インフレ圧力が持続する背景には、複数の要素が複雑に絡み合っています。FRBが重視する個人消費支出(PCE)コア価格指数は5月に前年同月比3.4%へと加速しました。6月の消費者物価指数(CPI)はガソリン価格の下落などにより前月比で6年ぶりに低下し、生産者物価指数(PPI)の伸びも予想を下回ったため、即座の利上げ圧力はやや後退していました。
しかしながら、中東情勢の悪化に伴うエネルギー高に加え、関税による輸入コスト増、人工知能(AI)ブームに伴うハイテク製品の需要増などから、インフレの長期化懸念が強まっています。レギュラーガソリン価格は割高感の節目とされる1ガロンあたり4ドル(約650円)を再び超え、輸送費や包装費の上昇要因となっています。
さらに政治的な圧力も加わっています。トランプ米大統領は27日、FRBを「非常に政治的だ」と批判し、低金利を求める自身の意向に反して利上げを訴えるFRB高官を牽制しました。新体制下のFRBは極めて難しい舵取りを迫られています。
中東情勢緊迫化とエネルギー市場の急変
FOMCの決定と並行して米国市場に大きな衝撃を与えたのが、中東における地政学リスクの急速な高まりです。イラン革命防衛隊が28日にヨルダンの米軍基地を弾道ミサイルで攻撃し、米中央軍がこれを迎撃しました。これに対しトランプ米大統領が「イランを激しく攻撃する」と発言したことで、米イラン間の衝突激化観測が広がりました。
この影響を受け、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のWTI原油先物相場(9月物)は1バレル84.46ドルと、前日比5.2ドル(6.6%)高へ大幅反発しました。米エネルギー情報局(EIA)発表の週間石油在庫統計で原油在庫が720万バレル減少し、2018年以来の水準(4億450万バレル)まで落ち込んだことも、需給引き締め感を強めました。
一方、ニューヨーク金先物相場(8月物)は1トロイオンス4036.3ドルと続落しました。原油高を受けたインフレ懸念や米長期金利の上昇が重荷となったものの、FOMCで利上げが見送られた直後には資金流入細りへの警戒感が和らぎ、買われる場面も見られました。
株式・債券・為替市場の反応
米イランの衝突激化による原油高と、FRBの金融政策を巡る不透明感が嫌気され、株式市場では大幅な売りが先行しました。ダウ工業株30種平均は前日比1152ドル46セント安の5万1594ドル86セントとなり、4営業日ぶりに大幅反落しました。ナスダック総合株価指数も433.970ポイント安の2万4442.942となり、6日続落しています。S&P500種株価指数も下落しました。FOMCの据え置き発表直後は一時買い戻されたものの、地区連銀総裁3名の利上げ主張や新FRB議長のタカ派姿勢を受けて不透明感が拭えず、主力銘柄が広く売られました。半導体製造装置メーカーが良好な決算にもかかわらず物足りない業績見通しを示したことも、半導体関連株全般への売り圧力となりました。
債券市場では年限によって異なる動きが見られました。インフレ懸念や原油高を背景に、30年債利回りは一時10bp以上上昇して5.20%を突破し、2007年以来約19年ぶりの高水準を記録しました。対照的に、政策金利の動向に敏感な2年債利回りは、次回9月会合での利上げ観測が後退したことで6bp低下し、4.23%となりました。
外国為替市場では29日午後、FOMCの政策発表後に円相場が対ドルで上げ幅を拡大し、一時1ドル=163円40銭台まで買われる場面がありました。
まとめ
今回のFOMC会合は5会合連続の政策金利据え置きという結論に至ったものの、3名の地区連銀総裁が利上げを求めて反対票を投じるなど、インフレ抑制策を巡る深刻な意見対立が明確になりました。中東情勢の緊迫化に伴う原油高や関税、AI需要といった複合的なインフレ圧力に加え、政治的な牽制も加わり、新体制下のFRBは難しい局面を迎えています。市場でも地政学リスクと金融政策の不透明感が株式市場の急落や超長期債利回りの急騰を引き起こしており、今後の物価指標や中東動向次第では次回会合で利上げも想定しておく状況にあります。そのため、今後発表される経済指標次第では、金利感応度の高いアセットは大きく動く可能性が引き続き高い点には注意が必要です。
関連記事

2026.07.30
FOMC、5会合連続の金利据え置き決定~中東情勢緊迫化で市場に動揺広がる
FOMCの政策据え置きと異例の反対票 米連邦公開市場委員会(FOMC)は2026年7月28 、29日に開い...
- 債券(金利)
2026.07.15
市場は安心していいのか? CPI下振れでも消えない2つのリスク
CPI下振れで利上げ観測が急後退 2026年7月14日に発表された6月の米消費者物価指数(CPI)は、...
- 債券(金利)

2026.07.10
日本の長期金利が30年ぶり高水準、中東情勢が招く「内憂外患」とは
30年ぶりの高水準まで上昇した長期金利 2026年7月9日、日本の金融市場は大きな節目を迎えまし...
- 日本株
- 債券(金利)