国内債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時3.000%まで上昇し、1996年9月以来およそ30年ぶりの高水準となりました。長期金利は2024年5月に1%を突破後、2025年12月に2%へ到達し、そこからわずか8カ月ほどで3%の大台に乗せています。超低金利時代が終わり、資金調達コストの上昇が日本経済全体に転換を迫っています。
日米利上げ観測とインフレ圧力
金利上昇の背景には、日米両国での金融引き締め観測とインフレ懸念があります。米国では、FRBのウォーシュ議長がジャクソンホール会議でタカ派的な姿勢を示したことで利上げ観測が強まり、米10年債利回りは一時4.76%台、30年債利回りも2007年以来の5.3%台まで上昇しました。米軍とイランの攻撃応酬による原油高も、グローバルなインフレ懸念と債券売りを誘発しています。
日本国内でも、日銀の追加利上げ観測が強まっています。7月末の日米協調による円買い介入を経て、OIS市場では9月会合での利上げ確率が9割を超えて織り込まれました。ベッセント米財務長官は、日本政府・日銀による円安是正への対応に強い期待を示しています。
また、日銀の氷見野良三副総裁も、金融政策について「次回を含め毎回の会合で検討する」との考えを示しており、政策金利の最終到達点がこれまでの想定より切り上がるとの見方が広がっています。日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利を1.0%程度とし、1.25%への引き上げを求める意見も出ています。日本銀行「当面の金融政策運営について」
過去最大の概算要求と財政不安
膨張する政府債務への不安も、金利上昇に拍車をかけています。高市政権のもとで2027年度予算の概算要求総額は、過去最大の143兆円前後に達する見通しです。飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間、1%へ引き下げる方針や、2040年度までに官民で370兆円規模の成長投資を進める計画により、国債増発や財政規律の緩みへの警戒が強まっています。
9月1日に実施された10年物国債入札(表面利率2.700%)では、最低落札価格が97円64銭と市場予想の下限を下回り、最高落札利回りは3.0110%と約30年ぶりの高水準となりました。
金融政策が財政運営に拘束される「財政優位」への懸念も、長期国債の売り圧力となっています。
日経平均株価への影響
日経平均株価は、米金利高や東京エレクトロン、アドバンテストなど主力半導体株の急落に加え、国内金利上昇への警戒感から一時1,500円を超えて下落する局面がありました。
背景には、国債利回りの上昇に伴う企業の資本コスト、いわゆるハードルレートの切り上がりがあります。石油資源開発は資本コストの前提を8%から10%へ引き上げ、ROE目標を12%に修正しました。めぶきフィナンシャルグループや奥村組なども目標を見直しています。
一方、法人企業統計では、全産業の4~6月期の経常利益が前年同期比25%増の44兆6,668億円となり、企業業績の底堅さも確認されました。トヨタ自動車や三菱商事、三井物産などのバリュー株には買い戻しが入っており、割安株物色と金利上昇への警戒との綱引きが続いています。
銀行株の明暗
金利感応度の高い銀行株は、利ざや改善への期待と景気減速への懸念の間で揺れています。長期金利の3%到達を受け、みずほフィナンシャルグループは後場に一時8,690円まで上昇し、三井住友フィナンシャルグループも高値を付けました。
三菱UFJ銀行による住宅ローンの変動金利引き上げなど、金利の先高観が銀行株の下値を支えています。
ただし、金利上昇が続けば企業の設備投資が抑制され、景気の冷え込みや信用コストの増加につながる可能性もあります。このため、9月1日の朝方には銀行株が売られる場面もありました。
家計・海外市場への影響と今後の展望
住宅ローンでは、長期固定型の「フラット35」の9月最低金利が3.460%と、前月の3.290%から急上昇し、2017年10月の現行制度導入以来の最高水準を更新しました。
米国株でも、長期金利の上昇を受け、将来利益の現在価値が低下しやすい大型テクノロジー株には下押し圧力がかかりました。一方、エヌビディアやテスラは個別材料を背景に逆行高となるなど、金利だけでは説明できない銘柄ごとの違いも表れています。
今後の金利水準については、「2.5~2.8%程度が妥当であり、3%は一時的なオーバーシュート」との見方がある一方、コスト転嫁やインフレの上振れが続けば、「3%も通過点にすぎない」との指摘もあります。
超低金利を前提としてきた日本経済や金融市場にとって、「金利のある世界」への適応が大きな課題となっています。
まとめ
今回、最も重要なのは、長期金利が一時的に3%へ上昇したことだけではありません。日本国債に対し、市場がこれまで以上に「物価」「日銀の政策」「財政規律」の3つを同時に問い始めた点です。
これまでの日本では、景気が悪化すれば日銀が金利を抑えるという見方が市場の前提になっていました。しかし、原油高や円安によるインフレ圧力が残るなかでは、日銀が景気への配慮だけで金融緩和へ戻ることは難しくなります。その一方で、積極財政によって国債発行が増えるとの懸念が強まれば、政策金利とは別に長期金利へ上昇圧力がかかります。
私が今回特に注目しているのは、短期金利ではなく、10年・20年・30年といった長期ゾーンの金利が今後も高止まりするかどうかです。
追加利上げ観測だけが原因であれば、インフレの鈍化や景気減速が確認された段階で、長期金利も落ち着く可能性があります。一方、国債入札の不調や財政拡張への懸念が金利上昇の中心になっているのであれば、日銀が利上げを見送っても長期金利が下がらないという、より難しい状況になり得ます。
株式市場についても、単純に「金利上昇は銀行株に追い風、成長株に逆風」と考えるだけでは十分ではありません。銀行は一定範囲の金利上昇であれば利ざや改善の恩恵を受けますが、金利が急速に上昇して景気や不動産市場を冷やせば、信用コストの増加が意識されます。成長株についても、利益成長が資本コストの上昇を上回れる企業と、期待だけで高い評価を受けてきた企業との差が、これまで以上に広がると考えています。
現時点では、3%が定着したと判断するのはまだ早いでしょう。今後は、消費者物価や賃金、原油価格、日銀の9月会合に加え、国債入札の応札状況と超長期金利の動きを確認する必要があります。
インフレが鈍化し、国債入札も安定すれば、3%は一時的なオーバーシュートだったというシナリオが有力になります。一方、物価の上振れと財政拡張への警戒が同時に続けば、3%が新たな上限ではなく、通過点になる可能性も否定できません。
日本市場はいま、単なる「日銀の追加利上げ」を織り込んでいるのではなく、超低金利を前提としてきた企業経営、資産運用、住宅購入の価格設定そのものを見直し始めています。ここが、今回の金利上昇を考えるうえで最も重要なポイントだと思っています。
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