【米国市場 DAILY INSIGHT 2026年10月21日】
10月20日の米国株式市場では、NYダウが1.02%上昇し、S&P500も0.28%上昇しました。一方、NASDAQ総合指数は0.02%下落しました。さらに、小型株で構成されるRussell 2000は1.65%上昇し、S&P500のバリュー指数もグロース指数を大きく上回りました。
今回の市場で注目したいのは、株価指数の上昇そのものではありません。
これまで市場を牽引してきた大型テクノロジー株以外にも、投資資金が向かい始めている可能性があることです。
ただし、1日の株価変動だけで、持続的な資金移動が始まったと断定することはできません。
今回は、原油・金利環境、企業決算、バリュエーションの三つの観点から、この変化を考えてみたいと思います。
原油価格の反落と長期金利の低下
まず、10月20日の市場を支えた要因の一つが、原油価格の反落です。
北海ブレント原油先物は、取引時間中に1バレル112ドル近くまで上昇しましたが、その後は109ドルを下回る水準まで低下しました。
中東情勢を巡る供給不安は続いているものの、外交交渉への期待などから、原油価格は一方向に上昇する展開にはなっていません。
原油価格が落ち着くことは、インフレ懸念の緩和を通じて株式市場を支える可能性があります。
一方、原油価格が再び上昇すれば、企業のコスト負担や家計の購買力への懸念が強まります。
したがって、今回の原油安をもって供給問題が解消したと考えるのは早計です。
米国長期金利も小幅に低下しました。
米財務省のデータによれば、10年国債利回りは19日の5.15%から20日には5.12%へ、3bp低下しています。
ただし、5%を超える金利水準そのものは変わっていません。
つまり、株式市場にとっては、金利上昇圧力が一時的に緩和したものの、バリュエーションに対する制約は引き続き残っている状況です。
今後は、原油価格の安定がインフレ期待の低下につながり、長期金利の持続的な低下をもたらすのかが重要になります。
株式市場では、銘柄の選別が進んでいるのか
10月20日の米国市場では、ヘルスケア株が上昇を主導しました。
金融株、不動産株、公益株も堅調で、S&P500のバリュー指数は0.9%上昇しました。
一方、グロース指数は0.2%下落しています。
この動きは、先週までのAI関連株の調整を考えるうえでも興味深いものです。
これまで市場では、AI関連企業の高い成長率や設備投資の拡大が株価を押し上げてきました。
しかし、最近では設備投資の回収可能性や資金調達コストに対する懸念が強まっています。
こうした環境では、投資家が高い成長期待を織り込んだ企業から、利益やキャッシュフローの見通しが比較的安定している企業へ投資対象を広げることは合理的です。
ただし、今回のヘルスケア株の上昇を、業績見通しの改善だけで説明することはできません。
実際、10月16日に公表されたFactSetの集計では、ヘルスケアセクターの利益予想は下方修正されていました。
株価の上昇と企業利益の改善は、必ずしも同時に起こるわけではないのです。
したがって、今回の動きを評価するには、資金移動による株価上昇なのか、利益見通しの改善によるものなのかを区別する必要があります。
今後、バリュー株や小型株の上昇が数日から数週間にわたって続き、上昇銘柄数や業種の広がりも確認できれば、相場の牽引役が変化している可能性が高まります。
反対に、大型テクノロジー株の反発とともに資金が再び集中するのであれば、今回の動きは一時的なポジション調整だったと考えるべきでしょう。
好決算でも株価が下落する理由
今回、もう一つ注目したいのが企業決算に対する市場の反応です。
10月20日に決算を発表した3Mは、第3四半期の調整後EPSが2.50ドルとなり、前年同期比12%増加しました。
さらに、2026年通期の調整後EPS見通しを9.10〜9.15ドルに引き上げています。
同社は生産性改善や利益率の向上に加え、データセンター向け製品の需要拡大にも言及しています。
なお、今回の利益見通しには調整後利益の算定方法の変更が含まれるため、従来予想との比較には注意が必要です。
一方、GM(ゼネラル・モーターズ)も、決して悪い決算ではありませんでした。
第3四半期の売上高は前年同期比2.9%増加し、調整後EPSは3.70ドルと32.2%増加しました。
調整後自動車フリーキャッシュフローも前年同期比40%増加しています。
さらに、200億ドルの新たな自社株買い枠を発表しました。
それにもかかわらず、GM株は決算発表後に大きく下落しました。
背景には、原材料費や物流費の上昇、今後の販売台数や利益率に対する懸念があります。
ここから読み取れるのは、投資家が発表済みの利益だけでなく、将来の利益がどの程度持続するのかを厳しく評価している可能性です。
企業の利益が増加していても、市場がそれ以上の成長を期待していれば、株価は下落することがあります。
反対に、利益成長率がそれほど高くなくても、将来の収益性に対する期待が改善すれば、株価は上昇する可能性があります。
この違いを理解するには、単純な決算の良し悪しだけではなく、決算発表前の市場予想とバリュエーションを確認する必要があります。
現在のバリュエーションは妥当なのか
では、現在の米国株式市場は、こうした変化をどの程度織り込んでいるのでしょうか。
10月16日に公表されたFactSetのデータでは、S&P500の今後12カ月の予想PERは19.0倍でした。
過去5年平均の19.8倍を下回り、過去10年平均の19.1倍とほぼ同水準です。
PER19倍を益利回りに換算すると約5.26%です。
10月20日の米国10年国債利回り5.12%との差は、約0.14%ポイントとなります。
もちろん、この単純な差は、将来の利益成長やリスクを織り込んだ厳密な株式リスクプレミアムではありません。
しかし、現在の金利水準を考慮すると、株式市場全体のバリュエーションに大きな安全余裕があると判断することは難しい状況です。
さらに注意したいのは、予想EPSの変化です。
FactSetによれば、10月16日時点で第3四半期決算を発表したS&P500企業の84%がEPS予想を上回りました。
ただし、利益の上振れ幅は平均2.6%で、過去5年平均の7.5%を下回っています。
決算の上振れ企業数は多いものの、利益の上振れの大きさは必ずしも強くありません。
今後、EPS予想の上方修正が広がれば、現在のPERを正当化しやすくなります。
一方、企業利益の下方修正が始まれば、株価が横ばいでも実質的なPERは上昇します。
その意味で、現在の市場では株価の方向性だけでなく、利益予想の変化を確認する重要性が高まっていると考えています。
今後の市場の見方と対応策について
私は、10月20日の市場の動きを、米国株全体に対する悲観が強まったというよりも、投資対象の選別が進んでいる可能性を示すものとして捉えています。
ただし、現時点で大型テクノロジー株からバリュー株への持続的な資金移動が始まったと断定することはできません。
今後、特に重視したいのは三つの点です。
第一に、バリュー株や小型株の相対的な強さが続くかどうかです。
一日だけの上昇ではなく、上昇銘柄数や業種の広がりが継続するのであれば、市場の資金配分に変化が生じている可能性があります。
第二に、企業決算で利益予想の上方修正が広がるかどうかです。
今回の3MとGMの決算が示すように、企業利益が増加することと、株価が上昇することは別の問題です。
今後はEPSの成長率だけでなく、利益率、フリーキャッシュフロー、経営陣のガイダンスを確認する必要があります。
第三に、バリュエーションです。
仮にバリュー株が相対的に強くなったとしても、株価上昇によって割安感が失われれば、投資妙味は低下します。
反対に、グロース株が大幅に調整し、企業利益の成長見通しが維持されているのであれば、優良企業を割安に取得する機会になる可能性があります。
したがって、現段階でグロース株を一律に売却し、バリュー株へ大きく資金を移す必要はないと考えています。
むしろ、企業ごとの利益成長率、キャッシュフロー創出力、財務健全性、そして現在の株価を比較しながら、投資対象を選別することが合理的です。
市場がグロース株を選ぶのか、バリュー株を選ぶのかという二者択一ではありません。重要なのは、将来の利益とキャッシュフローに対して、現在の株価がどの程度合理的な水準にあるのかということです。
今後の決算シーズンでは、その違いが株価パフォーマンスに一段と明確に表れる可能性があると考えています。
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