リスクシナリオにおけるS&P500の下値目処は?

リスクシナリオにおけるS&P500の下値目処は?

超保守的な資産管理チャンネルで配信中

本日はイールドスプレッド分析を使って、S&P500の下値目途をお伝えします。今後のリスク管理を行うさい、株価の下落目途をどのくらいと想定しておけばいいのでしょうか。

25~26日にFOMCが開催されました。内容がタカ派だったこともあり、株価、金利で落ち着かない展開が続いています。

決算も発表され、いいものもあれば悪いものもありますが、なかなか下支えにはならずに株価が落ち着かいない状況です。

FOMC振り返り

想定よりもタカ派という印象

まずは、簡単にFOMCの振り返りをします。

一言で言えば、非常にタカ派でした。

タカ派と思うのは、パウエル議長が今後の経済状態によって、いくらでも利上げ回数を増やせる、QTのスピードアップができるニュアンスを漂わせたことです。

明確なアナウンスメントというより、少しバッファを持たせた内容だったことに、今後は注意する必要があるかと思います。

QT(資産売却について)

一方、明るい材料としては、QTについて逃げることなくしっかりアナウンスしたことです。

声明文と別にQTの実施、原則について伝えています。その意味では、今後も透明性を持ってQTを進めていくことが分かっています。

また、開始時期については次回FOMCで議論した後にスタートするとしています。ある程度の開始時期が決まったと言えます。

次に、償還を迎えたものの買入は行わないと、方法を伝えています。

皆さんが予測できるような量で進めていく、透明化を行うとしています。安心材料も一緒に出ていることになります。3月、5月と進むにつれて、今年の金融政策の方向性が出てくるでしょう。

そこまでは落ち着かない可能性がありますが、それ以降はある程度落ち着いてくるでしょう。あとはインフレと経済状況を踏まえて、今後FOMCがどういう判断をしていくか、トータルで考える必要があります。

今後の株価動向

S&P500の推移

現状、マーケットとしてはまだまだ荒れた状況が続いています。どのぐらいの下値目途があるのか。S&P500のチャートをご覧ください。

本当に大きく上昇してきました。それだけに谷が深いのではないかと心配されている方も多いかと思います。

このチャートを見れば、コロナショック水準である2500ポイントまで下がるのではないかと懸念されている方もいるでしょう。リーマンショックの水準で、1000ポイントを切ってくると想像される方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、基本的にこういったものはチャートの水準感です。実際には企業収益が伸びてきているところもあります。経済自体も大きくなっています。

そう考えると、チャートだけを見ずに、1株当たりの利益がどうなっているのか、PERがどうなっているのかを踏まえて分析する必要があるでしょう。

S&P500のEPSコンセンサス

EPSの成長を確認します。

EPS(1株当たりのS&P500成長率)は2021年に206ドルだったのが、今年末には223ドル、2023年には246ドルまで上がるとされています。EPSの成長は今後も堅調です。

2021年のように50%も伸びることはないにしても、9%程度の成長が続くというのが現在のコンセンサスです。

もちろん景気が後退すれば下がる可能性もありますが、今はそこまで考えられていません。順調にEPSが伸びるというのが、マーケットの中心値となっています。

S&P500のPER推移

そんな中、気になるのはPERの低下です。株価はEPS×PERで表されます。マーケットが持つのは、EPSが伸びてもPERが下がるのではないかの懸念です。

過去のPERの推移を見ると、コロナショック時は13倍まで、リーマンショック時は9倍まで下がりました。

今年末のPER予想値は223ドルです。コロナショック時の水準で計算すると、223ドル×13倍=2,899ドルなので、今から33%のマイナスです。

もしくは、リーマンショック時の水準で計算すると、223×9倍=2,007ドルなのでマイナス53%にもなります。

イールドスプレッド分析

次に、PERの分析をさらに細かく行うにあたり、イールドスプレッドを見てみましょう。

イールドスプレッドとは、債券と株の利回りの差がどのぐらい縮まったか、どのぐらい広まったかによって株や債券、どちらの方がお金が入ってきやすいか、どっちが今いいタイミングなのか、割安感を洗い出したものです。

注意していただきたいこと

今からお伝えする内容はあくまでも過去の事例を基にした分析となります。下落の幅や未来の下落を予想するものではありません。

あくまでも皆さんの資産管理上、イールドスプレッド分析において、S&P500がそれぐらいまで下がる可能性があるのだと頭の片隅においていただきたいのです。

ご自身の資産がその%まで下がったとき、資産がゼロになることなく耐えきり、マーケットに残り続け、上昇局面をしっかり捉えていくための判断材料だとお考えください。

この内容を見てショートポジションを作ろうとか、全部株を売ってしまおうと決断していただきたいのではありません。

あくまでも皆さんのリスク管理として、そういったリスクがあるとお伝えしているのだと、ぜひご理解いただければと思います。よろしくお願いします。

今回確認するイールドスプレッドについて

株式の益利回り-10年名目金利がよく使われています。例えば、株式益利回りが5.5%、10年国債が1.85%で回っていたとします。この差がイールドスプレッドです。

今はインフレが進んで、実質金利に非常に注目が集まっています。

そのため、S&P500と実質金利の差がどうなってくると、割安、割高感が出てくるのかを話したいと思います。

S&P500の益利回りとは何か

その前に、S&P500の利回りとは何かを見てみましょう。計算方法は、(1株当たりの純利益÷株価)×100=株式益利回りです。

ですから、S&P500の予想EPS÷4,326(現在の株価)×100=5.15%となります。この5.15%が今の予想利回りとなります。

簡単に言い替えれば、株式に投資すると約5.15%の企業収益が出るということです。これが益利回りです。分配金利回り、配当利回りとは異なり、株式の稼ぐ能力だとお考えください。

イールドスプレッドで何を見るのか

10年国債が1.85%でインフレ率が2.35%なので実質金利はマイナス0.5%です。それと比べて株式益利回りの5.15%はどうなのかを、見ることになります。

ちなみに益利回りが10%になればどうなのでしょうか? 1,000ドルの株に投資して、100ドルの利益が上がります。それは非常に魅力的ですよね。ですから、益利回りが上がるということは株は割安という判断になります。

一方で、1,000ドルに投資しても10ドルしか稼げない、益利回りが1%だったとします。株に投資して1%しか利益が出ないのなら、債券に投資をしても1.85%ももらえるので株は割高だと取られます。株式の益利回りが下がると、割高感が出るのです。

その結果、国債と株式の益利回りが縮まると、株式が割高と認定されます。一方、この差が広がると株価が割安だとして、ある段階から株式が買われやすくなります。

債券と株価のスプレッドが広がってきたとき、株が売られ過ぎだと思われ、買われるようになる水準を見るのがイールドスプレッドなのです。では、どの程度スプレッドは広がると割安感が出るのでしょうか?

S&P500の益利回りと10年実質金利

チャートをご覧ください。緑の線がS&P500の益利回りです。今は5.15%ですが、リーマンショック時には一時10%の益利回りになりました。株が割安になった後、5%程度まで益利回りが低下してきているのです。株のPERが上がってきていると言えます。

一方で、赤線と青線は10年実質利回りです。実質利回りの低下が株価の評価を上げ、結果として益利回りが下がってきています。

債券実質利回りのマイナスが指すもの

債券の実質利回りがマイナス0.5%は何を指すかも、改めてお伝えしておきます。

今10年国債は1.85%、10年インフレ率は2.35%程度で、0.5%ほどインフレが上回っている状態です。

債券に投資すると年間1.85%の金利が出てきますが、物価が2.3%進んでいるため、お金の価値としては減っていることになります。

インフレを上回る金利を受け取らないと、お金がどんどん減ってしまうのが、実質金利マイナスです。

今は債券に投資しても実質マイナスになるため、株にどんどんお金が回り、益利回りに期待が集まり、益利回りが下がってきています(株価の評価が上がっています)。

ただし、今後は実質金利が恐らく上がってくることを考えれば、同じくスプレッドは広がる、もしくはパラレルで並行します。そうなれば益利回りが上がり、株価の評価が下がることを意味するとお考えください。

では、歴史的にスプレッドはどのぐらいあったのでしょうか。

想定されるイールドスプレッドのレンジ

こちらをご覧ください。実質利回りと株式の益利回りの差は、2012年以降のように企業業績が成長している間は、青網掛けで示したように約5~6.5%のレンジに収まっています。

今のイールドスプレッドは5.15%程度です。もしも株価の評価が下がっても、6.5%まで差が広がれば株式はさすがに安いと、株式にどんどんお金が入ってくる可能性がります。それが今回の底値の目途となってくるでしょう。

左の方に目を移すと、9~10%まで開いています。これはリーマンショック、欧州危機のように、極端に株価の評価が下がった時期です。このようなときには、実質金利と株式の利回りは大きく開くことがあります。このような時は、今回の分析が効かなくなる場面で、株価は底割れになります。

ただ、今のように企業業績が伸びている場合は、そこまではないと考えられます。その意味では、イールドスプレッドが広がったとしても、6.5%ぐらいだろうと想定しておく必要があると思います。

今後想定される動き

こちらをご覧ください。青線、赤線が実質金利を表しています。

FRBが想定している利上げ上限が2.5%ですので、恐らく10年金利も2.5%内に収まってくるでしょう。

FRBは物価水準も2~2.5%に収めたいと言っていますから、恐らく実質金利は0%が水準になるのではないかというのが、マーケットの今のコンセンサスです。実質金利は0%ほどまで上がる可能性があると考えられます。

今回は、FRBの引き締めでソフトランディングできなかったり、景気減速が強まればイールドスプレッドが6.5%まで広がる可能性があるかもしれません。その条件で考えると、S&P500のPERは何倍まで低下し得るのか。100÷6.5=PER15.38倍まで低下する可能性があることになります。

2022年末のEPS予想は223ドルですから、223ドル×15.38倍=3,430ドルまでS&P500は下落する可能性があると、イールドスプレッドだけで分析すると出てきます。

現行水準から見ると、約20%の下落が予想されることになります。

もう一度お伝えします。イールドスプレッドが今の5.15~6.5%まで広がってくると、株価に対する期待値が下がり、PERが下がる目途があります。

ただし、企業業績が毎年のように上がっていく状態でそのスプレッドが広がり過ぎると、益利回りの魅力が増し株は評価が低すぎと資金が債券から株へシフトし株価が底打ちをする水準があります。その水準が、業績が伸びている状況では6.5%ぐらいだと、リーマンショック以降のレンジからは考えられます。

金融危機のようなブラックスワンが起こった場合には、この限りではありません。あくまでも平時における数値です。

企業業績が伸びている限りでは、金融政策変更、若干の景気後退が起こったとしても、イールドスプレッドが5~6.5%で収まるでしょう。

そこでワーストケースとして6.5%を想定すると、PERとしては15.38倍と考えられます。

過去のリーマンショックや、コロナショックの時のPERよりも高いと想定することもできます。とはいえ、現行からは20%近く下落する可能性があります。

ワーストシナリオとしてイールドスプレッドが広がったとしても、PERの目途が15.38倍になります。

これを念頭に、資産管理を進めていただければと思います。保有資産が20%下がっても今後の資産運用を辞めるような致命的なポジションになっていないか。リスクを取りすぎ、レバレッジを掛けすぎなどはないか是非再確認をしてください。そのようなリスク管理としてお使いいただければと思います。

本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

続きを読む

「資産を守るために、着実な資産管理を」

ファミリーオフィスドットコムでは無料で⾃信で⾏っていただける資産管理から、
エキスパートによるオーダーメイド型の資産管理まで、様々なサービスを提供しています。

メディアでご紹介いただきました

関連記事

ファミリーオフィスとは  〜 資産運用や資産管理で注目を集める理由 〜

ファミリーオフィスとは 〜 資産運用や資産管理で注目を集める理由 〜

ここ最近、「ファミリーオフィス」という言葉を、新聞や雑誌記事などで見かけることも多くなってきました。そこでは、 …

【第4回】半導体銘柄への投資戦略 〜半導体の製造工程②後工程:日本企業はリードを保ち成長できるのか?今後の展望〜

【第4回】半導体銘柄への投資戦略 〜半導体の製造工程②後工程:日本企業はリードを保ち成長できるのか?今後の展望〜

半導体製造の工程は、ウェーハ上に電子回路を形成する「前工程」と、完成したウェーハを個々のチップに分割し、外部と …

日本株の浮沈を握る決算シーズン到来!注目セクターはココだ!

日本株の浮沈を握る決算シーズン到来!注目セクターはココだ!

日本株の浮沈のカギを握る決算発表シーズンが始まりました。歴史的な賃上げと円安というコストアップ要因が企業にどの …

富裕層が資産運用で一番大切にしていること

富裕層が資産運用で一番大切にしていること

資産運用においては、金額に限らずマイナスになるのは、誰でも避けたいものです。ただし、資産の額が大きくなればなる …

【第3回】半導体銘柄への投資戦略 〜半導体の製造工程①前工程。日本企業の将来は?今後の展望〜

【第3回】半導体銘柄への投資戦略 〜半導体の製造工程①前工程。日本企業の将来は?今後の展望〜

半導体は現代社会のあらゆる分野で重要な役割を果たしており、その複雑かつ高度な製造工程は、現代のテクノロジーの基 …

米国決算シーズンの前半を振り返り 〜今後、想定しておくべき市場展開について〜

米国決算シーズンの前半を振り返り 〜今後、想定しておくべき市場展開について〜

今週の米国の主要企業の決算発表を踏まえて、今後の米国株式市場の見通しについて解説します。 [ 目次 ]1 &n …

グロース株急落!今買うべきか、それとも待つべきか?

グロース株急落!今買うべきか、それとも待つべきか?

東証グロース市場250指数(グロース250)が年初来安値を更新するなど、グロース株の下落が目立っています。4月 …

【第1回】半導体銘柄への投資戦略  〜 半導体が切り拓く未来と投資機会 〜

【第1回】半導体銘柄への投資戦略 〜 半導体が切り拓く未来と投資機会 〜

近年、世界の株式市場の牽引役は間違いなく半導体企業でした。ただ、全ての半導体企業に対して広がった成長神話は、こ …

【第2回】半導体銘柄への投資戦略  〜 半導体業界の概要と市場動向 〜

【第2回】半導体銘柄への投資戦略 〜 半導体業界の概要と市場動向 〜

今回は、半導体業界を理解するために業界の概要と市場動向を見ていきます。 [ 目次 ]1 半導体業界の概要と市場 …

日本企業を動かすアクティビストの台頭 – アクティビストが狙う銘柄の特徴と対策

日本企業を動かすアクティビストの台頭 – アクティビストが狙う銘柄の特徴と対策

近年、日本企業の株主構成が変化し、外国人投資家の保有比率が増加傾向にある中で、企業に積極的に意見を述べるアクテ …

【米国株】‌‌下落が続く米国株は、今回も普通の調整か、それともまだまだ下落が続くのか。【4/22 マーケット見通し】

【米国株】‌‌下落が続く米国株は、今回も普通の調整か、それともまだまだ下落が続くのか。【4/22 マーケット見通し】

本日はテーマは米国株です。先週は、米国株で下落が続きました。今回の下落も、通常の調整なのか、それとも、まだまだ …

日米金利差が招く円安リスク〜日本経済への影響と日銀の舵取り〜 今後の見通しと注目ポイント

日米金利差が招く円安リスク〜日本経済への影響と日銀の舵取り〜 今後の見通しと注目ポイント

1990年6月以来、34年ぶりの1ドル=154円台に到達した力強い動きが続く米ドル円の今後の見通しは? [ 目 …

原油価格の高騰がインフレ再燃の引き金に?米国経済への影響は

原油価格の高騰がインフレ再燃の引き金に?米国経済への影響は

原油価格が再び上昇傾向にあり、米国を中心にインフレ再燃への懸念が高まっています。2022年後半から下落傾向にあ …

【米国株】‌‌米大手金融機関が決算悪化。今後への影響が大きそうだと思われる理由。【4/15 マーケット見通し】

【米国株】‌‌米大手金融機関が決算悪化。今後への影響が大きそうだと思われる理由。【4/15 マーケット見通し】

12日からアメリカの決算発表がスタートし、アメリカのJPモルガン、シティグループ、ウェルズ・ファーゴなど大手金 …

金価格が史上最高値を更新!急騰の背景と今後の見通しを解説

金価格が史上最高値を更新!急騰の背景と今後の見通しを解説

金(ゴールド)の国際価格が急上昇し、1トロイオンスあたり2,300ドルを超える史上最高値を記録しました。金は従 …

おすすめ記事