本日分析する投資信託は、BNYメロン米国株式ダイナミック戦略という、米国株式に投資を行う投資信託です。
このファンドは、米国株とドル円の上昇・下落という両局面でもリターンを最大化することを謳っています。米国株やドル円の水準が気になる方にとって適したファンドかどうか、長期的に保有できるファンドかを分析していきたいと思います。ぜひ最後までご覧ください。
お願い
この記事は情報提供を目的として作成されています。投資の勧誘や売買の推奨を目的としたものではございません。また、取り上げている投資信託はランダムに抽出されています。運用会社や販売会社との業務提携は一切ございません。中立な立場でお伝えしていきます。
投資信託概要
概要
BNYメロン米国株式ダイナミック戦略(愛称:亜米利加)は、BNYメロンが運用し、米国株に投資を行う投資信託です。信託報酬は2.04%、純資産総額は137億円です。
このファンドは、主にアメリカの製造業関連の株式に投資をしています。米国の株式市場および円に対する米ドルの為替レートの上昇・下落の各局面においてリターンを最大化することを目的とし、株式指数先物取引および為替の先渡取引を用いて、実質的な米国株式の組入比率を調整しています。
つまり、株式については現物でロングポジションを構築し、下落が見込まれる場合には先物でショートポジションを取り、ネット・ショートというポジションを構築しヘッジを行うなど、組み入れ比率を調整しリターンの最大化を目指します。
株式だけでなく為替も含め、モメンタムの変化による影響を抑える方法として、US Risk Appetite Indexを利用しています。独自に作成したUS Risk Appetite Indexを用いて、現在のマーケット環境を踏まえ、株式に投資する割合を、先物で調整する仕組みとなっています。
このファンドは、特定口座での投資です。NISA積立、NISA成長投資枠では投資ができないため、特定口座での投資に値するかを検討する必要があります。
また、このファンドは上昇下落局面においてリターンの最大化を目指しています。実際にリターンが本当に最大化できるのかが重要なポイントです。
簡易パフォーマンスを見ると、カテゴリーに対して大きく上回っていることがわかります。1年で+25%、3年で+6%という実績を残していますが、株式に投資を行う他のインデックスと比較しながら、本当にパフォーマンスが良いのかを後ほど分析したいと思います。
また、同カテゴリーのファンドの中ではリスクが高くなっていますが、カテゴライズされて同カテゴリーが異なる可能性がありますので、こちらはあまり参考にせず分析を進めていきたいと思います。
投資戦略
株式だけでなく為替の影響も調整させる運用手法は、US Risk Appetite Indexを利用しています。US Risk Appetite Indexとは、投資家のリスク選好度を測るために、各国の様々な金融データやニュースセンチメントを独自の手法で組み合わせて算出したもので、日興グローバルラップ社が指数化しています。この中にはVIX指数やハイイールド債券のスプレッドなどから算出されているとのことです。簡単に言えば、金融市場のリスクが大きくなった局面では投資比率を下げ、リスクが小さくなった場合には投資比率を上げるという戦略です。
米国の実質経済が非常に強いモメンタムの時には、先物で150%の株式ポジションを取り、相場が弱くなる時には先物をショートしネットショートポジションを構築する仕組みを取っています。このようにして、他のファンドよりも株式の上昇でプラス・アルファ、下落局面では下落によるアルファを取り、リターンを最大化することを目的としています。
このような戦略を聞くと、非常にリスクが高いのではないかと思われるかもしれません。しかし、実際にはリスクが低くなった瞬間にポジションを大きく取り、リスクが高くなった時にはポジションを小さくするというのは運用の世界ではよくある運用手法の一つです。仮に、この手法がうまく機能していれば、ファンドとしての価値は非常に高いと言えます。
銘柄戦略
次に、実際の銘柄戦略とポジションの増減を確認しましょう。金融市場のリスクが大きくなった局面では投資比率を下げます。リスクが大きいことはボラティリティが高くなることを意味しますので、そのような時にはロング・ポジションを減らします。
一方、リスクが小さくなった場面では投資比率を上げ、大きく上昇を取りにいきます。現物の投資銘柄は30銘柄で、主に製造業に投資を行っています。現状では、ヘルスケア、資本財、技術セクターの3セクターに投資しています。インデックスであるS&P500と比べると、ヘルスケアの割合、資本財の割合が非常に高いです。そのため、S&P500と同じような動きをすることは難しいですが、投資割合を調整することでディフェンシブセクターの変動率の低さをカバーしていきます。
ファンドの特徴としては、株式の投資比率を-50%~150%まで調整しています。つまり、最大1.5倍のレバレッジをかけるようなイメージです。毎週リスクの度合いを測定し、それに応じて比率を変動させています。現在は150%、つまり100に対して1.5倍の力で株式市場に投資している状況です。
過去の推移をご覧ください。グレーの棒グラフが青を上に伸びている箇所は現物ポジションの1倍~1.5倍になったケースを示し、棒グラフが下に向かっている箇所はリスク・ポジションをとっていることを示しています。
リスクの感応度としてVIX指数やニュース、ハイイールド・スプレッド、各スプレッドの動き、つまり、炭鉱のカナリアと言われる指標などでリスクを測定しています。個人投資家ではなかなか目が届かないポイントに注目している点が非常に面白いと思います。しかし、一方でヘルスケアを中心とした銘柄がS&P500を上回るパフォーマンスを残せるかどうかは、実際にパフォーマンスから確認する必要があります。
ファンド・パフォーマンス
パフォーマンス
実際のパフォーマンスはあまり芳しくありません。投資目的にある通り、リスク度合いに応じて投資比率を調整することは、主にファンドのリスクを抑えることや大幅な下落を避ける意味があります。
ですが、過去のパフォーマンスを見ると、このファンドの戦略はあまり効果的ではないことがわかってきました。戦略としては洗練されているように見えますが、実際のパフォーマンスはあまり良くありません。
5年前と比較すると、このファンドのパフォーマンスはS&P500の円ベースに対して70%も負けています。また、世界株の平均に対しても60%のマイナスとなっており、アンダーパフォームしています。ファンド自体はプラスに推移していますが、S&P500や世界株に比べて大きく劣っている状況です。
設定来で見ても、設定来ファンドは94%に対してS&P500の円ベースでは168%ですから、代表的なインデックスに劣っています。
毎週機動的に投資比率を変動させていますが、効果的なリターンにはつながっていません。
また、戦略によってファンドのリスクが小さくなっているかといえばそうでもありません。長期的にはファンドの変動率は年率15%程度で、多少リスクは抑えつつ安定しているとは言えますが、市場全体に比べて変動率を抑えきれているかというと、ほぼ平均です。リターンが高くなく、リスクも抑えられていないため、シャープレシオは1を大きく下回っています。資金を預ける側からすると、効率があまり良くないファンドであることは間違いありません。
このようなパフォーマンスになっている理由は、投資の割合を調整することだけでなく、直接投資を行っているポートフォリオ自体に原因があります。ヘルスケアを中心に銘柄を選定し、セクターを絞り込んでいることが影響しています。エンジン部分があまりパフォーマンスを生まないポートフォリオになっています。
ただ、それを加味してもパフォーマンスが良くないため、機動的な投資比率の変更が裏目に出ているとも言えます。ポートフォリオも良くなく、機動的に動かしている部分もあまり効率的に動いていません。週次で変更する超短期的な比率変更は、聞こえは非常に良いのですが、投資効率が高いかというと、あまり成果につながっていないということがパフォーマンスから見えてきました。
資金流出入
2022年以降の後半にかけて流出が続いています。パフォーマンスや中身を分析すると、こういった評価になるのかもしれません。
評価
評価は1.5です。US Risk Appetite Indexという、世の中のニュースや先行指数を見ながらリスクポジションを調整すること自体は、非常によく採られる戦略です。戦略としては非常に良いのですが、実際はS&P500を上回るパフォーマンスを発揮できていません。仮に割合の調整がうまくいっても、オーバーパフォームできるかはやや疑問です。
このように過去の実績を見ると、US Risk Appetite Indexが効果を発揮していないことから、評価は1.5に留まります。
本日は、米国株の製造業に投資するファンドを分析しました。マーケットのリスク選好度によって投資の割合を調整するという非常にスマートなファンドですが、実績ではその効果が確認できませんでした。
アクティブファンドらしいのですが、それがあまり良い方向に出ていません。米国株に関するアクティブファンドは数多くありますので、他のファンドと比較することをお勧めします。