本日のテーマは『米国株 急落 S&P500は買い場か?見送りか?2つの底値シナリオ』です。先週1週間でS&P500、NASDAQは、-10%と大幅下落になりました。ご存知の通り、トランプ大統領による相互関税が予想を大きく上回ったことが原因です。
ちなみにS&P500は直近の高値から-17%、先週だけで-10%ですが、投資家としては「今が買い場なのか」、「それとも見送るべきなのか」を考える方も多いことでしょう。
そこで本日は、2つの底値シナリオとして、景気後退と景気減速の場合、どういったシナリオが考えられるか、過去の事例を基に算出しました。ぜひ最後までご覧ください。
トランプ・プットとパウエル・プットは期待できるか?
トランプ政権の相互関税が想定を超える内容
トランプ政権の相互関税をきっかけに今回は株価が大きく下落したわけですから、そのきっかけが改善されないと株価はなかなか元の状態に戻りません。トランプ政権によるトランププットが期待できるのでしょうか。例えば、相互関税に関する軟化、もしくは修正が行われるトランププットが期待できるのか、また、パウエル議長によるFRBプットがあるかを確認したいと思います。

今回の相互関税は、予想を大きく超える内容となりました。当初は、4月2日に相互関税が発表され、材料出尽くしで株価が反転するのではとの予想が多かった中で、それを大きく上回る内容であったため失望の売りが広がりました。
上記の図表のようにS&P500の海外の売上は30%近くあります。そのため、関税を引き上げるとなれば当然ながら無傷では済みません。さらに注目すべきは、テクノロジー企業は50%を超える海外での売上があることです。ここまでの株式市場はテクノロジー株が牽引してきたということもあり、結果として大きく下落する原動力になってしまいました。
そんな中、今朝ラトニック商務長官が「相互関税の延長はしない」と発言したことから、関税に関する米国側の軟化が期待できず、今後も不安定な相場が続く可能性が高いと考えらえます。また、関税の引き上げがどれだけ経済に影響を与えるかもまだまだ読めない状況が続くことから、株価は引き続き厳しい状況が続く可能性が高そうです。
パウエル議長は様子見継続姿勢
4日にはパウエル議長がビジネスジャーナリスト協会で講演を行いましたが、現時点ではパウエルプットもあまり期待できないのではとマーケットでは捉えています。

パウエル議長は「関税引き上げはインフレを少なくとも一時的に押し上げる可能性が高く、その影響はより持続的なものになる可能性もある」と発言しています。今回の関税導入でインフレが長期化する可能性があり、利下げを急ぐ必要はないと発言したのです。
関税導入による影響は5月、6月、7月まで出てこないため、その経済指標を確認できるまでは、早期の利下げ(パウエルプット)を期待できないだろうと市場は考え、マーケットではマイナス材料と捉えられました。
スライドにはパウエル議長の発言を記載していますが、要点としては「利下げをすぐに行うことはない」という内容です。
注意点です。JPモルガンのジェイミーCEOは「今の状況を踏まえると、FRBは緊急の会合を6月前に開く可能性がある」と発言しています。ウォールストリートの重鎮が発言したことで、その可能性が少し出てきていますが、パウエルプットがあるかどうかで潮目は変わる可能性はあります。そのため、非常に大きな注目ポイントとなります。
では、パウエルプット、トランププットが現時点ではあまり期待できないなかで、今のマーケット状況を簡単に確認していきます。
米国株は「陰の極」か?
現状(1)VIXが45を超える
これから見ていく現状についての注意点です。今回のマーケットが崩れている根源には相互関税が非常に厳しいことがあります。このような事例は初めてであるため、そのため、これからご紹介する過去の事例がそのまま通用するとは限りません。ただ、現状を同時に知っておく必要もあります。そこで4つのポイントをご紹介したいと思います。

1つ目はポジティブな内容で、需給環境が少し改善する可能性があるというものです。
VIXは4日に45を超えました。S&P500のVIXが45を超えた事例は青いチャート、青網掛けのラインをご覧ください。リーマンショック、コロナショック以来の高水準となっています。
ポイントは赤のチャート、S&P500です。VIXが大きく上昇して45を超えた後、下げに転じた時には、S&P500が大きく上昇に転じています。大幅に株価が上昇するきっかけにもなりますから、VIXが大きく低下することがあれば、S&P500もが上昇するとの期待があります。
ニュース等では「恐怖指数のVIXが45超えたことで、これからも暴落する」とのコメントがありますが、こちらは注意が必要です。
現状(1)VIX指数が45に到達後の株価とVIXの動き
左の図表をご覧ください。S&P500のVIXが45を超えた後は、1日後から2週間後、S&P500は平均+2.6%となっています。下がった時期もありますが、45をつけた極端に行き過ぎた状況から落ち着きが出てきています。

VIX自体でも、45を超えた後、2ヶ月後には大きく下がっています。過去の事例を見ると、VIXが大きく下がると株価が上がっています。VIX自体は株価に対して、ある程度底値圏を示し始めていることはご承知おきください。
現状(2)PUT/Call Ratioが1を超える
2つ目はPUT/Call Ratioです。オプションにはPUTとCallというものがあり、弱気が多いとPUTが増え、強気が多いとCallが増えます。現在のPUT/Call Ratioは1を超え、プットのほうが多くなっている、つまり弱気派が多くなった状況です。

チャートの矢印箇所は、PUT/Call Ratioが1を超えた箇所を表しています。上のピンクのS&P500を見ると、PUT/Call Ratioが1を超えると株価が上昇に転じていることがわかります。今回もVIXと同じように、過去の事例からすれば相場のチャンスとなり得る水準に近づいていると言えます。
現状(3)CNN Fear and Greed Indexで恐怖が優勢
3つ目はCNN Fear and Greed Index(恐怖と貪欲指数)です。今は6と恐怖が大きく上回っている非常に稀な状況にあります。

図表の青いチャートはFear and Greed Indexで、恐怖が大きくなると下に向かいます。青いチャートが下に大きく下がると、赤いチャートのS&P500が上昇する傾向にあるとわかります。その意味では、今回もチャンス圏が近づいていると言えるでしょう。

ただ、Fear and Greed Indexの恐怖が低下しても、引き続き株価は下がる傾向があります。株価が遅行してついてくるためです。ですから、今は極端に恐怖が高まっていますが、ただちに上昇に転じるというわけではありません。とはいえ恐怖が多く偏った取引であるため、近いうちに反動が起こる可能性があることがポイントです。
現状(4)AAII Bearishで弱気派が過去3番目に
4つ目です。左のAAII(全米投資家協会)が出した資料を見ると、弱気派が60%を超えています。これは2015年から見ても非常に高い水準です。

次に右側をご覧ください。1990年以降、弱気派が60%を超える弱気派が多い今の状況は、90年、リーマンショックの時以来、過去3番目に高いことがわかります。ただ、その後は上の青いチャート、S&P500が反転しています。
1990年、2009年のケースは1ヶ月後に+3.7%、+17%となっていますし、1年後であれば+28%、+57%となっています。弱気が増えたということは、逆に言えば買いのチャンスとなるのです。(1)から(4)でご紹介した投資家マインドの観点でいくと底値に近づいていることが期待できる状況になっています。
これだけを見ると買い場との判断となりますが、実際はどうなのでしょうか。次に過去の景気後退と減速の局面を見てみましょう。
2つの株価シナリオ
【シナリオ分析】2025年の予想EPSの推移
シナリオ分析として、まずは2025年の予想EPS推移をご覧ください。2024年の実際のEPSは246ドルでした。25年予想は268ドル、26年予想は307ドルと、時間とともに少しずつ下がってきている状況です。

ファクトセットで表された25年ボトムアップリサーチでは269ドルまで下がってきています。一時期、24年9月には25年予想EPS が279ドル、前年比24年に対して13.4%でしたが、現在は269ドルと前年比+9.3%まで低下しています。
ただ、相互関税の影響を受け、世界経済にどれだけ影響が出るかはまだ確認をできていませんから、EPSにどのくらい影響があるかの想定は非常に難しくなってきています。ただ、現在のEPS予想は269ドルとなっていますが、今後のシナリオ次第ではEPSの低下度合いは異なってくるため、このまま横ばいなのか、もしくは上昇に転じるのか、景気後退・減速するのかは、これから考える必要があります。
現状から考えると、当然ながらEPSが下がっていくことがベースシナリオになると思っています。そこで、ここからは景気減速と景気後退の2つのシナリオで数字を見ていきたいと思います。
景気減速にとどまった場合のEPS推移
まずは景気減速にとどまった場合です。どうにか踏ん張った場合、S&P500のEPSは基本的に、景気の拡大期に前年比でのEPSは+8~12%が平均値となります。一方、景気減速では若干のプラス成長となっていますので、EPSとしては0~5%の範囲にとどまる傾向があります。そして景気後退であればマイナス成長となっています。

トランプ政権の相互関税は、9月新年度から減税、規制緩和を行うための財源にすることが目的になっています。年後半は減税効果などの期待感によって経済がプラスに転じる可能性は十分にあります。まだ景気減速にとどまる可能性があるだろうとの期待をマーケットは持っていることでしょう。
その中で過去、2015年に原油が大きく下落した時、2018年の利上げ&貿易摩擦の時、22年の利上げ時のEPS成長率を見ると、+0~5%内外で収まっています。
今回、もし後半の減税効果などが期待でき、景気減速にとどまった場合、EPSは景気減速時に前年比+0~5%にとどまる傾向があります。そして過去の実績ベースのPERでは、今は21~22倍程度ですが、過去の景気減速時は16~18倍程度となっています。
景気減速時の株価のボトムシナリオ
24年実績EPSの246から前年比+0%だと246、前年比+5%であれば258ドルですから、景気減速にとどまった場合は246~258にとどまる可能性があると考えられます。
次にPERが16~18まで低下した場合を表したのが、ピンク枠の箇所です。景気減速となれば、S&P500は現行水準から、この程度まで下がってくる可能性があると考えられます。

注意すべき点としては、今のマーケットは悪材料を全て織り込んだ状態となっていることです。期待されていないトランププット、パウエルプットが実現すれば即座にプラス材料となり、EPS予想が246~258から260~270に上方シフトすることもあるでしょう。PERも18倍~20倍となってくると、緑網掛けのゾーンまで上がってくる可能性があります。今後の材料次第では底値圏が変わってくると、まずは考えていただければと思います。
また、PERは過去の実績ベースで16~18倍となっていますが、これはエクイティリスクプレミアム、実際の金利動向との兼ね合いで考える必要があります。ベースとしても今の5000という水準から見ても、もし景気減速があればまだまだ下押しの可能性があると言えるでしょう。ですから、底値圏である現状は、材料次第で見極めが非常に難しくなると言えます。
景気後退に突入した場合
読めない景気に対する影響として相互関税が大きく影響を与えた場合は、景気後退、つまりマイナス成長に入る可能性があります。1949年以降、第二次世界大戦以降の景気後退時、EPSは平均-13%です。
また1990年以降、景気後退時のPERが10~14倍に収まっていることを考えると、次のような表が作成できます。

過去の平均EPSが13倍下がるということで、今の24年度246ドルが214ドルまで下がる可能性がある。そして景気後退時にはPERが10~14倍に下がることを考えると、グリーンのゾーンとなる可能性があります。週末などに見られたS&P500が大きく下がるという発言は、過去の景気後退になった事例を踏まえると、この程度まで下がる可能性があることからきているのです。

ただし、景気後退を回復できた場合、または、今はあまり期待されていないパウエルプット、トランププットなどが出てくれば、市場のバリエーションとは大きく変わることがあります。
注意点
今回の下落はある種、政策による人為的な下落と言えます。下落の原因が不明な場合、相場は下げがきつくなる傾向があります。例えばコロナショック、リーマンショックのようにブラックボックスで、どこをどうすれば株価が改善するかが見えない状況とは違い、相互関税が大きなきっかけになっていることがわかっています。そこを修正し、原因を取り除くことができれば、回復することがあると歴史的に証明されています。
相互関税のニュース次第では、緑網掛けで示した酷い底値基準も、ピンク網掛けに戻される可能性も十分にあります。あくまで景気後退に入った場合、緑網掛けレベルまで深くなる可能性があるのだと把握いただければと思います。
本日は、景気後退と景気減速の2つのシナリオをお伝えしました。景気後退になる、景気減速になると決めるのは今後の相互関税次第です。これまで経験がないような関税率ですから、今までの経済事例がすぐに適用できる状況ではなく、これから出てくる経済指標を見ていくしかありません。
私たちが行うべきことは、リスク管理上どれくらい下がる可能性があるのかを踏まえたうえで、投資判断としては景気後退に入るのか、景気減速にとどまるのかを判断しながら底値圏を模索し、ピンチをチャンスに変えることが必要です。ぜひ本日の内容を参考にしていただければと思っています。
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