世界の投資資金が再び新興国市場へと向かい始めています。4月2日にトランプ米大統領が友好国・敵対国を問わず「相互関税」を発表した後、市場の反応はより鮮明になりました。発表直後はほぼ全指標が下落しましたが、その後の週で新興国株と米国株に明確な乖離が生じたからです。
この動きを牽引しているのは、トランプ大統領の関税政策を受けた「米国離れ」の潮流と、ドル高の一服感、そして各国の利下げ期待の高まりです。ブラジルのボベスパ指数や南アフリカ株は相次いで高値を更新し、MSCI新興国株指数は先進国を含む世界株指数を上回る伸びを記録しています。
4月9日から21日の期間で、S&P500指数が5%超下落する一方、MSCI新興国市場指数は7%上昇しました。その後米国株と国債は若干反発したものの、最近のムーディーズによる米国格下げが投資家の懸念を再燃させています。
インドの関税見直しが長期成長の契機に
例えば、インド政府は米国との貿易摩擦回避に向け、大胆な関税見直しに踏み切っています。インドは米国からの輸入品の55%について関税引き下げを検討しており、現在5~30%の関税を大幅に削減するか完全撤廃する方針です。
具体的には、鉄鋼や自動車部品、医薬品について一定量まで関税をゼロにする提案を米国に提示しました。これは今秋までの二国間貿易協定締結を目指す交渉の一環で、過去数年で最大規模の関税引き下げとなります。
トランプ政権が4月に発表したインドへの26%相互関税は現在90日間停止されており、この期間中の合意が焦点となっています。興味深いことに、インドの関税率26%は中国の34%、ベトナムの46%より低く設定されており、アパレルや靴製造業界では競争上の優位性が期待されています。
これまで高関税や複雑な制度が海外企業の参入障壁となってきたインドにとって、今回の見直しは経済開放の好機です。世界的なサプライチェーン再構築の拠点としての地位向上と相まって、インド株市場の反発材料として市場関係者が注目しています。
金融緩和期待が新興国株を押し上げ
2025年に入りドル指数が下落傾向を示す中、新興国にとって追い風環境が整いつつあります。ドル安進行により、ドル建て国債の返済負担軽減や企業の資金調達コスト低下といった恩恵が生まれ、海外投資家の資金流入を促進しています。
さらに重要なのは、新興国中央銀行の金融政策に与える影響です。自国通貨の相対的上昇により通貨安懸念が後退し、景気刺激のための利下げが実施しやすい環境となりました。メキシコ中銀は5月15日に7会合連続の利下げを実施し、同国株価指数は前年末比18%上昇を記録しました。インド準備銀行も4月に金融政策スタンスを「緩和的」とし、成長重視姿勢を鮮明にしています。
歴史的に見ても、2001〜2010年のドル安局面では新興国株が先進国株を大幅に上回るリターンを記録しており、現在の状況との類似性が指摘されています。
持続性には不安要素も
ただし、この資金流入の持続性については慎重な見方もあります。米国の通商政策が世界貿易に与える不透明な影響や、新興国経済基盤の構造的脆弱性は依然として懸念材料として残っているからです。IMFは2025年の新興国成長率予測を3.7%に下方修正し、特に貿易鈍化の影響を重視しています。
新興国市場への投資マネー回帰は確かに始まっていますが、その勢いが長期にわたって継続するかは、米国の政策動向と新興国自身の経済構造改革の進展にかかっているでしょう。
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