パウエル議長の利下げ示唆が市場に与えた衝撃
2025年8月22日、米カンザスシティー連邦準備銀行主催のジャクソンホール会議において、パウエルFRB議長が行った講演が世界の金融市場に大きな波紋を広げました。議長は「雇用の下振れリスクの高まり」を指摘し、「見通しとリスクのバランスの変化は政策の調整を正当化しうる」と述べ、9月の利下げ再開への道筋を示しました。
この発言は、利下げに慎重な姿勢を維持するとの見方が強かった市場に驚きをもって受け止められました。パウエル議長は「金融政策は既定のコースにはない」と述べ、データ次第で判断する姿勢を強調しましたが、市場では「リスクテイクに対するゴーサインがともった」と解釈され、米長期金利の低下とともにハト派的な内容として評価されました。
議長は米経済の減速傾向と労働市場の「特異なバランスの状態」を警戒し、トランプ政権の関税政策による物価への影響についても言及しました。7月のFOMC議事要旨では物価上昇リスクへの懸念が多く示されていただけに、議長が失業率上昇リスクを指摘したことは予想外であり、9月利下げの可能性を大幅に高める結果となりました。
米株高から東京市場への波及効果
パウエル議長の発言を受け、22日の米株式市場では幅広い銘柄に買いが入りました。ダウ工業株30種平均が最高値を更新し、ナスダック総合株価指数も1.87%高で終了しました。S&P500種株価指数やラッセル2000も上昇し、暗号資産のビットコインまで値上がりするなど、市場全体に安堵感が広がりました。
この米株高の流れを受けて、25日の東京株式市場では日経平均株価が続伸しました。終値は前週末比174円53銭(0.41%)高の4万2807円82銭となり、午前中には289円04銭(0.68%)高の4万2922円33銭まで上昇する場面もありました。
特に注目されたのは、8月に入って上昇の勢いが強かったソフトバンクグループやアドバンテスト、信越化学工業などへの買いが継続したことです。また、米長期金利の低下を受けて、リクルートホールディングスやメルカリなどのグロース株も買われました。日経平均は一時500円高に達し、4万3000円台に乗せる場面もありました。
市場の「いいとこ取り」への警戒感
しかし、この株高に対して市場からは警戒の声も聞かれます。「パウエル議長の講演は想定通りで、いいとこ取りの株高だ」との指摘があるように、米国の利下げの前提となっているのは米労働市場の悪化です。株式市場が米経済の変調に目を向けず、利下げという株高要因のみを前のめりに取り込んでいるとの懸念が浮上しています。
米金利先物市場では9月のFOMCでの利下げ確率が8割を超え、年内複数回の利下げ予想も高まっていますが、「利下げ期待が先走りすぎるリスクは残る」との慎重な見方もあります。
日銀動向と今後の展望
ジャクソンホール会議に参加した日銀の植田和男総裁は、「日本の労働者の賃金には上昇圧力がかかり続ける」との見方を示しました。しかし、この発言は「9月や10月会合での短期的な利上げを示唆したものではない」との印象が強く、25日の市場では銀行株が方向感を欠きました。
為替市場では、米利下げ期待にもかかわらず円の上昇余地は限られています。「FRBプット(米国の金融政策への期待によって、投資家がリスクを取る余裕)」効果により投資家のリスク許容度が高まる中、金利水準が極めて低い日本円には重荷となっています。ただし、年内にFRBが2~3回の利下げ、日銀が1回の利上げを行うとの見方が広がり、「1ドル=140円を超えて円高が進む可能性」も指摘されています。
今後の焦点は、9月5日発表の8月米雇用統計と9月11日発表の8月米消費者物価指数です。これらの指標が9月16~17日のFOMCでの利下げ期待を左右する重要な材料となります。日経平均については、11~12月に4万4000~5000円に達するとの強気な見方も出ていますが、関税によるインフレ懸念の再燃や政治不安といったリスク要因も抱えており、市場参加者は慎重な動向見極めが必要な状況が続いています。
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