世界の投資家や中央銀行が、いま再び「金」に注目しています。ニューヨーク金先物相場は今年に入り約4割の上昇を見せ、代表的な米株価指数であるS&P500のリターンをはるかに上回っています。もはや“安全資産”の枠を超え、金はグローバル・ポートフォリオの中核的存在に近づいているのかもしれません。
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FRBの利下げと「無利息資産」の逆襲
米連邦準備制度(FRB)が6会合ぶりに利下げを再開したことは、市場に大きな転換点をもたらしました。利下げによって、利息を生まない金の機会コストは相対的に低下し、投資妙味が増します。FRBは年内に追加利下げを2回、さらに来年・再来年も追加利下げの可能性を示唆しており、政策金利は2027年末時点で3%台まで下がるとの見方もあります。
この構図は、インフレ下でも政策金利が下げられる「金融緩和下のインフレ」という、過去にはあまり見られなかった現象を浮かび上がらせています。その結果として金は、インフレや通貨不安への“アンカー”として存在感を増しています。
中央銀行が買い支える“新・需給構造”
World Gold Council(WGC)の最新レポートによれば、2024年の中央銀行による金購入は3年連続で1,000トン超えとなりました。今年前半も勢いは衰えておらず、ETFを通じた投資需要も前年同期比78%増という高水準を維持しています。
特に注目されるのは、地政学リスクの高まりが「金準備の増加」という具体的な行動につながっている点です。ロシア・ウクライナ情勢や中東での緊張が長期化し、ドル一極集中のリスクが顕在化したことで、中央銀行が外貨準備を分散させる動きが広がっています。昨年の調査では中銀の69%が「今後5年で金の保有を増やす」と答えていましたが、今年は76%に上昇しました。
「ドル信認」の揺らぎと投資家心理
FRBの政策決定に対して政治的圧力が強まるとの懸念や、ドルの長期的な信認低下が、投資家の行動に微妙な変化を与えています。かつて“無国籍”と評された金が、今やドルへの依存度を下げる「準備資産」として再評価されています。
その背景には、インフレの高止まり、地政学リスクの常態化、そして世界経済の分断といった“長い波”があります。こうしたマクロ環境が続く限り、金の上昇余地はなお大きいと考えられます。
過熱感と転換点――強気の裏にある警戒感
一方で、市場には過熱感も漂っています。
・金利が想定ほど下がらないリスク
・ドル高の逆襲
・投機的マネーの急流入による価格のゆがみ
World Gold Councilは、2025年下半期以降は投資需要がやや鈍化する可能性を示唆しており、短期的には調整局面もありえます。ただし、3,000~3,500ドル程度の調整は「新たな買い場」と見る長期投資家も多いようです。
投資家としての注意点
- 一方向の値動きを過信しないこと
金価格が上昇しているからといって、短期的にさらに上がるとは限りません。過熱局面では利益確定売りが急激に出ることがあります。 - ポートフォリオの一部として位置づけること
金は“全額投資”する対象ではなく、リスク分散の一部として保有するのが基本です。一般的なポートフォリオでは資産全体の5~10%程度が目安とされます。専門家に組成されたポートフォリオであればこの割合を超えることがありますが、それはあくまでも各相関、リスクリターンを踏まえて判断すべきだと思います。 - 為替の影響を考慮すること
円建てで投資する場合、ドル円の動きがリターンに大きく影響します。円高局面では、ドル建てで上昇していても円換算で目減りすることがあります。 - 流動性とコストを確認すること
現物金・ETF・先物など投資手段によって流動性や手数料が異なります。長期保有目的なら低コストのETF、短期なら先物など目的に応じて選択することが重要です。
金の上昇は「静かな反乱」かもしれません
ここ数年、株式市場が熱狂を繰り返す裏で、金は淡々と中央銀行と長期資金に買い支えられてきました。これは単なる価格変動ではなく、「基軸通貨・ドルへの信頼をめぐる静かな反乱」と見ることもできます。
世界の分断、政治リスク、通貨不安――これらが続く限り、金は単なる“安全資産”ではなく「世界のバランスシート調整役」としての役割を強めていくでしょう。
まとめ:$4,000は通過点か、到達点か
データとトレンドを総合すると、金価格が今後$4,000/トロイオンスをうかがう展開は決して誇張ではありません。むしろ、過去最高値の更新は一つの「通過点」に過ぎないのかもしれません。
重要なのは、短期的な値動きに振り回されるのではなく、長期で見て何が需給を動かしているか、どの資金がどこに流れているか、という“潮流”を読み解くことです。
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