近年、株式市場で存在感を高めているのが「アクティビスト(物言う株主)」です。アクティビストは具体的にどのような投資行動をするのか、どのような企業が狙われやすいのかについて解説します。
アクティビストとは
アクティビスト(物言う株主)とは、割安銘柄を取得し、さまざまな手法を駆使して株価をつり上げたり、経営陣に株主還元を迫ったりして最終的に売り抜ける投資家のことです。あくまでも「利ざや」の獲得が目的なので、発行済み株式数の数%~10%程度の株式を取得し、株価が上昇したら、さっさと売り抜けてしまいます。
しかも最近は、年金基金などの機関投資家も味方につけて影響力を高めており、経営の主導権を巡る攻防が激しさを増しているのです。仮に経営陣と対立した場合は、株主総会での多数決で議案を決めます。
これがプロキシーファイト(委任争奪戦)です。アクティビストは高い利回り(年率20%以上)の達成のため、グリーンメーラーめいた行動にでることも少なくありません。グリーンメーラーとは、経営に参画する意思がないのに経営陣にゆさぶりをかけ、割安な価格で取得した株式を高値で買い取らせて「利ざや」を稼ぐ業者のこと。
自社株買いや増配などの資本政策のほか、事業のリスクや株価低迷の責任追及、役員報酬の反対まで要求するケースが目立っています。
アクティビストがターゲットにする日本企業
2019年は、株主総会で株主提案を受けた企業が65社と過去最高になりました。株主提案が増えた背景には、アクティビストの存在があります。アクティビストは株主総会で自社株買いや増配、社外取締役の選任といったさまざまな株主提案をだします。
2019年6月の株主総会でアクティビストが行った主な株主提案は、以下の通りです。
対象企業 | 提案企業 | 課題 |
---|---|---|
JR九州 | Fir Tree Capital Management | 株主還元、取締役 |
新生銀行 | Dalton Kizuna | 取締役の選任 |
安藤ハザマ | Oasis Investment Ⅱ Master Fund Ltd | 安全衛生管理の徹底 (定款一部変更) |
株主総会以外でもアクティビストは経営陣と水面下で接触し、オリンパスや東芝、川崎汽船などはアクティビストが推薦する取締役を受け入れています。アクティビストがターゲットにするのは、株価が低迷していて資本効率が低い企業です。2018年にアクティビストから提案を受けた企業のほとんどがPBR1倍未満かつROE8%未満でした。この2つの指標でふるいにかけた上で、株主還元余力のある企業をターゲットにするのです。
たとえば、ため込んだ資金を増配としてだしたり、多額の自社株買いをさせたりして短期的に株価を上げることができます。そのための資金的な余地がどの程度をあるかを判別するための指標として、純資産のうち現預金や有価証券といった金融資産が占める比率をあらわした「金融資産比率」や、財務の健全性を示す「自己資本比率」が高い企業は、アクティビストに狙われやすくなります。どちらも20%を超える企業は注意が必要です。
また最近のアクティビストは、自らが大株主になって直接影響力を行使するのではなく、外国人投資家や機関投資家といった自分たち以外の株主を巻き込む形へと変貌しています。ですから、外国人持株比率が10%以上、機関投資家の持株比率が20%以上など、それぞれ高い企業はアクティビストのターゲットになりやすいといえるでしょう。
存在感を増すアクティビスト
日本で活動するアクティビストは2019年に31社となり、2014年の7社から大きく増えました。しかし、世界のアクティビストのうち日本で活動しているのは2割にすぎず、これからさらなる増加が見込まれています。
アクティビストにとって、日本はブルーオーシャン(競争相手のいない市場)です。米国では経営にゆがみのある企業が減り、アクティビストが儲からなくなりました。たとえば、日本企業は多額の現金を保有しています。
時価総額に対する現金の比率を見ると、日本のTOPIX構成銘柄の現金比率が平均20%程度なのに対し、S&P500では6%程度にとどまります。日本企業は、自社株買いや増配など、余剰資金を株主還元できる余地が大きいのです。
2019~2020年でもっとも話題になったのが、村上ファンド系のオフィスサポートと東芝機械の対立です。オフィスサポートは敵対的TOBの実施、臨時株主総会の招集を要求しました。
しかし、2020年3月27日の臨時株主総会では、会社側が提案した買収防衛策の導入・発動案が62%の支持で可決され、村上ファンドは東芝機械へのTOBを取り下げたのです。企業統治(コーポレートガバナンス)重視の流れが強まる中、それに逆行するかに見える買収防衛策が可決されたことは、海外投資家に驚きのニュースとなりました。
米議決権行使会社ISSが買収防衛策に賛成を推奨したという事情があるにせよ、過去に買収防衛策を成立させ、海外投資家の日本株離れの原因になったブルドックソースの二の舞にならないかと懸念されているのです。
アクティビストから身を守る方法
上場している企業は、アクティビストに株を買うなとはいえません。上場企業である以上、アクティビストを防ぐ絶対的な有効策はないのです。
海外のアクティビストが日本に注目するきっかけになったのが、「日本版スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」です。もともとはイギリスの制度で、コードとは規範や指針を意味します。
銀行や保険会社など、機関投資家に求められる行動規範が「日本版スチュワードシップ・コード」で、経営の枠組みへの指針が「コーポレートガバナンス・コード」です。2つのコードは、日本経済成長の車の両輪になると期待されています。
両コードは、機関投資家と上場企業それぞれにプレッシャーをかけることで、企業価値の向上や株価を引け上げることが狙いです。企業は通常のIR活動の中で、機関投資家からさまざまなことをいわれているはずです。
現在のアクティビストは単独での株主提案ではなく、機関投資家など他の株主の協力を得ながら対応を迫ってきます。日頃から株主が抱える問題意識に耳を傾け、問題を長期間放置しないことがアクティビスト対策の第一歩となるのです。
まとめ
アクティビストの対象は、主に上場企業です。上場している以上、アクティビストに株を買うなとはいえません。PBRやROEなどが明らかに割安な状態で株価を放置せず、機関投資家など株主の意見に耳を傾けることが、アクティビストから身を守る方法になるのです。
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