本日分析する投資信託は、米国株に投資する三井住友米国ハイクオリティ株式ファンドという、アメリカの優良株に超集中投資を行うファンドです。
ハイクオリティ株式という名称からわかる通り、質の高い優良株に投資することを謳っています。高い銘柄選定能力を持っていれば、ファンドのパフォーマンスは当然ながら向上します。実際の実力はどうかを分析したいと思いますので、最後までご覧いただけますと幸いです。
お願い
この記事は情報提供を目的として作成されています。投資の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。また、取り上げている投資信託はランダムに選ばれたものであり、運用会社や販売会社との間に業務提携等は存在しません。あくまでも中立的な立場からの分析となります。
投資信託概要
概要
三井住友米国ハイクオリティ株式ファンドは、三井住友DSアセットが運用しています。投資対象は米国株で、NISA成長枠での投資が可能です。信託報酬は1.86%、純資産総額は81億円です。
今回取り上げた理由は、米国株に集中投資を行っているためです。保有銘柄は20銘柄と、他の集中投資ファンドが30銘柄を保有する中、銘柄数をかなり絞り込んでいることが特徴です。
投資対象は大型株と中型株です。20銘柄に絞っているため、スタイルリスクにやや影響されそうですが、大型株、中型株に投資を広げることでスタイルリスクを和らげている可能性があります。
ベンチマークは、S&P 500を上回る成果を出すことが目的です。S&P 500への投資を考えている方々にとって、ファンドがS&P500を上回る魅力となるかを分析したいと思います。
チェックポイント
チェックポイントは3つです。
- S&P 500を上回るパフォーマンスを残せるか?
- ハイクオリティ銘柄とは、どのような銘柄を選んでいるのか?
- インデックスファンドや他のアクティブファンドとの比較
こちらを確認したいと思います。
パフォーマンスです。過去5年間は同カテゴリーを上回っています。3年も上回っていますが、ここ1年は少し下回っています。その理由は後ほど確認します。
標準偏差は、全期間でマイナスです。ハイクオリティ銘柄がボラティリティをある程度コントロールできていることを示しており、標準偏差が低く抑えられていることがファンドの評価にどう繋がるかも、後ほど確認します。
投資戦略
まずは投資戦略です。米国の大型、中型株式の中から徹底したリサーチを通じて、「持続的に安定的かつ高い収益成長が見込める銘柄」(ハイクオリティ銘柄)、20銘柄に厳選投資しています。皆さんが預けた資金はマザーファンドに入りますが、運用主体はアライアンス・バーンスタインです。銘柄選定の能力に長けており、銘柄選定が期待できるファンド構造となっています。
ハイクオリティ銘柄を選定する際には、定量的な面と定性的な面が考慮されます。定量的な面では、高い利益や成長率、安定したキャッシュフローが重視されています。定性的には、着実な売上成長が今後も見込めるか、景気が少し悪化しても安定性があるか、ポジショニング、財務体質を定性的に分析しています。こういったことを全て行い、パフォーマンスがいいのであれば、素晴らしいファンドと言えます。では、実際のリターンはどうでしょうか。
銘柄戦略
投資信託のリターンを確認する前に、どのような銘柄が選定されているかを確認します。
徹底的にリサーチし、「持続的に安定的かつ高い収益成長が期待できる銘柄」を選んでいます。具体的には、S&P 500で情報通信セクターが29.8%であるのに対し、ファンドでは22%となっているように、情報技術セクターに対して少し割合を減らしています。
ヘルスケアはS&P 500で12.5%ですが、ファンドでは20%となっており、ややディフェンシブに見えます。
20銘柄に絞る戦略により、1つ1つの銘柄に対するボラティリティの影響が大きいため、ボラティリティを抑える方針が1つの戦略として存在すると思われます。
上位20銘柄を見ると、マスターカードが9.5%、マイクロソフトが9.5%となっています。マスターカードが他のインデックスと比べると大きな割合となっています。
ポートフォリオの特性値をご覧ください。S&P 500が503銘柄に対して、ポートフォリオは約20銘柄と銘柄数は少なくなっています。EPSの成長率はS&P 500の16.3%に対して、14.1%と低いように見えます。EPSの成長が低いことで、株価の上昇が期待できないのではとの不安がよぎります。
しかし、ポートフォリオの平均ROEは25.3%と、S&P 500全体の22.6%を上回っています。ROEが高いということは、1株当たりの純資産に対するEPSの割合が高いことを意味します。EPSの成長が低く見えても、1株当たりの純資産に対するEPSの割合は大きくなっています。純資産をしっかり使って稼いでいる企業を選んでいるということは、業績の安定を見込める作り込みだと言えます。
ファンドパフォーマンス
パフォーマンス
実際のパフォーマンスをご覧ください。ここまでは好感の持てる内容でしたが、中長期的なパフォーマンスを見ると、残念ながらS&P 500には劣っています。5年間、3年間のチャートを見ると、S&P 500の円換算に劣っています。世界株に対しては、5年間では勝っていますが、3年間では劣っています。3年間では、世界株、S&P500の両方に負けていることとなります。
銘柄数が非常に少ないため、個別要因でファンドのパフォーマンスが大きく影響を受けているのでしょう。
また、タイミングにズレがある点が気になります。2020年から2021年にかけては、S&P 500を10%以上上回る好調な時期がありました。ですが、2022年から2023年にかけては大きな差がつきました。この要因は非常にわかりやすく、情報技術セクターへ多く投資していたことで、金利の上昇の影響を強く受けたためです。
銘柄が絞られているため、1つの銘柄の上昇の影響を大きく受けやすくなっています。パフォーマンスが低迷していたメタ・プラットフォームズへの投資が長期にわたって続いていましたが、2023年には全売却しています。
2023年後半から2024年にかけて、メタ・プラットフォームズはM7企業の中でも、NVIDIAに次ぐ大きなパフォーマンスを残しています。このような銘柄を外してしまったタイミングのズレが、パフォーマンス低下に繋がっています。2023年までは、メタ・プラットフォームズがパフォーマンスを引き下げ、上昇する際には既に全売却している点が気になります。
最近では、ヘルスケア製品のクーパーを買い増ししています。さらに遺伝的機能・変異を大規模解析するツールを開発しているイルミナを新規に買い付けています。
次にリターンです。基本的には長期保有の方針を取っており、ファンド内の売買も頻繁には行われていません。方針によって、大きな値上がりを取れる場合もあります。今回のMetaのように売却タイミングを外すとパフォーマンスに影響が出ますが、基本的には長期保有しているため、大きく価値が上がる可能性もあります。タイミングさえ見誤らなければパフォーマンスは向上しますが、現状ではタイミングが少しズレている印象です。
他の資料を見ると、集中投資を行っている割にリスクが低く抑えられており、米国株ファンドの中でも低リスクの部類です。ROEを見る限り、1株当たりの純資産に対するEPSが高い銘柄を選んでいることで非常に安定しており、リスクを抑えることが可能だと思います。リスクは15程度と、平均の20に対して抑えられています。
パフォーマンスにタイミングのズレがあったはいえ、シャープレシオは1.1と高いですから、ファンドの運用自体は効率的だと言えます。ROIが高い銘柄を選んでいることから、ボラティリティが抑えられている印象がありました。ただ、現状としては中長期的な目立ったパフォーマンスが上がっていないため、優秀なファンドとまでは言えない状況です。外部の投資信託の評価サイトでは高評価を出しているものもありましたが、私が分析する限り、現時点ではそこまで優秀とは言えないと感じています。
大胆な集中投資と売買のタイミングがうまく効いてくれば、パフォーマンスの向上も期待できるファンドです。戦略としては非常に興味深いですが、現状の結果は伴っていません。
資金流出入
資金の流出入を見ると、結果としては流出が増えている印象です。パフォーマンスを考えても、現段階での資金流入は難しいと感じています。
評価
評価は2つ星です。銘柄選定のうまさはあるものの、タイミングのズレが気になります。20銘柄ということで、基本的には長期保有が前提ですが、銘柄変更のタイミングを逃すとパフォーマンスに大きく影響します。そういった点がうまくかみ合えば、面白いでしょう。リスクを抑えているため、リターンがしっかりと得られると高い評価を得られるファンドです。ポテンシャルとしては評価が4に上がる可能性も十分にありますが、現時点では2となります。
20銘柄に集中している割にボラティリティを抑えているなど、EPSやROEなどできめ細かな配慮をしています。タイミングのズレもあって、パフォーマンスが伴っていませんが、そこの改善が見られるようであれば、今後さらに注目を集める可能性があります。現時点では他のファンドとしっかり比較し、判断する必要があるファンドだという印象です。