本日のテーマは、『米国株見通し 原油高は米国株の追い風か逆風か?』です。
先週末、アメリカがイランに対して空爆を行いました。中東情勢の緊迫が非常に高まっており、原油価格が上昇するのではないかとの見通しが大方を占めています。
そこで本日は、原油高が進んだ場合、米国株にとって追い風となるのか、あるいは逆風となるのかを分析したいと思います。ぜひ最後までご覧ください。
[ 目次 ]
地政学リスク高まる
利下げ期待が高まる中、地政学の逆風
まずは先週行われたFOMCの内容から、確認したいと思います。

先週はFOMCに加え、週末にはウォーラーFRB理事の発言もありました。そのため、週後半に向けて利下げへの期待が高まっていたのですが、週末に突如、地政学的リスクが高まり利下げ期待には逆風となりました。
FOMCは、「経済見通しに関する不確実性は低下しているものの、依然として高水準にある。FOMCは、デュアルマンデート(雇用最大化と物価安定)の両面に引き続き注意を払う」との見解を出しています。つまり、不確実性は低下しているものの、失業率やインフレに対する警戒は依然として崩していないことが分かりました。
FOMC開催後時点では、このような内容でしたので金利は大きくは下がりませんでしたが、20日にインフレの鈍化傾向が続けば、「7月以降に利下げが実施される可能性がある」とウォーラーFRB理事がコメントしたことで、週末にかけて金利がやや低下し、年2回の利下げが実現するのではないかという期待感が高まった矢先に、地政学的な逆風が吹いたという状況です。
週末にアメリカ軍によるイランへの空爆が行われたことで、エネルギー価格を通じてインフレ懸念が再燃する可能性が出てきました。利下げという道筋が見えてきたかと思われた金融政策の行方も、再び不透明感を増している状況です。
こうした背景を踏まえ、改めてFOMCの内容を見てみましょう。
今回のFOMCでは、2025年6月時点での経済見通し(SEP)が発表され、ドットチャートも示されました。
FOMCにおけるドットチャートに注目
ドットチャートでは、FRBメンバーのうち7名が「年内の利下げはなし」としました。3月時点では「年内利下げなし」と答えたメンバーは4名だったため、3名増えたことになります。
さて、今後の据え置き派の数は、今回の中東情勢の悪化を受けて、今後さらに増える可能性があります。そうなれば、年内の利下げの可能性が低下するという懸念が台頭し、マーケットの中でも意識されるようになれば、株式市場にとってマイナス材料となる点に注意です。
図表はインフレに関連する指標です。ニューヨーク連銀、ミシガン大学、カンファレンス・ボードなどのインフレ指標が一部高止まっていることが、「年内の利下げなし」の投票判断につながっていることを考えると、今回の中東情勢の悪化は、金融政策の面で逆風になる可能性がある、ということが1つ目のポイントです。
中東情勢について
ホムルズ海峡の封鎖の可能性は?
こうした地政学的リスクの台頭がどのような形で影響を及ぼすのか、少し掘り下げて見ていきたいと思います。

特に注目されているのが、「ホルムズ海峡の封鎖があるのかどうか」です。ホルムズ海峡は、非常に多くの原油や天然ガスが通過する重要な海域であり、世界の原油供給量の約20%、日量で2,000万バレルが海峡を通じて輸送されています。
そのため、イランがこのホルムズ海峡を「封鎖する・しない」を判断できる立場にあるというのは、市場にとって非常に重要な関心事となっています。
今回のアメリカによるイラン空爆により、再び「ホルムズ海峡が封鎖されるのではないか」という懸念が高まりました。これまでは「現状では海峡の封鎖は現実的ではない」とする見方が主流でしたが、今回の空爆によって、その見通しが一度振り出しに戻った印象です。
では、仮にホルムズ海峡が封鎖された場合、どのような影響があるのでしょうか。
左の図表をご覧ください。アメリカは近年、エネルギーの自給率を高めてきており、白色で示されたチャートがそれを表しています。
アメリカは多くを輸入に頼っておらず、中東からの原油輸入依存度も非常に低くなっています。ホルムズ海峡情勢が悪化しても、アメリカへの直接的な影響は限定的と考えられています。これは非常に重要なポイントです。
一方で、中国や日本にとっては、ホルムズ海峡の情勢悪化が非常に大きな影響を及ぼすとされています。左の青いチャートは、中国がどれほど原油を輸入に依存しているかを示したもので、こうした情勢の変化による影響が非常に大きいと考えられています。
また、日本に関しては、それ以上に大きな影響が懸念されています。日本が輸入している原油の約9割がホルムズ海峡を通過しているからです。そのため、中国と同様、日本にとっては深刻なリスクとなります。
ホルムズ海峡の緊張状態は、日本や中国にとって、まさに「経済の生命線に直結する」重大なリスクなのです。
このような背景から、原油価格の急騰、エネルギー価格全体の上昇により、日本や中国を起点としてインフレリスクが再び高まる可能性があると見られています。
アメリカは、エネルギー自給率が高まっており、中東からの輸入依存度も低いため、直接的な影響は限定的です。しかし、日本や中国における経済的影響がアメリカにも波及することは十分に考えられます。
そのため、アメリカ国内でもインフレ再燃への懸念が再び強まる可能性があります。
さらに、今回の中東政策、つまり空爆の実施については、トランプ大統領の支持層からも批判的な声が上がっています。
このような批判が中間選挙の見通しに影響を与えたり、税制改革法案などの可決が難航したりすることが予想されます。結果として、アメリカ国内の経済に波及する可能性が指摘されています。
一方で、ホルムズ海峡の封鎖というシナリオについてですが、イラン、サウジ、UAEといった中東諸国の多くが、この海峡を経由して原油を輸出しています。
イランが一方的にホルムズ海峡を封鎖してしまえば、中東諸国にとっても深刻な打撃となります。結果として、イランが孤立するリスクも高まることになります。そういった点を踏まえると、「ホルムズ海峡の完全封鎖」という事態は現実的には回避されるのではないか、という見方が依然として強く残っています。
もちろん、今後の展開次第では、そうした予想とは異なる展開になる可能性も否定できません。したがって、現時点では予断を持たずに状況を見守る必要があります。
ただし、マーケットは、現実に何が起こるかとは別に、最悪のシナリオを織り込む傾向があります。ホルムズ海峡が封鎖されるという「最悪の事態」を想定して、原油価格が上昇する可能性は十分にあり得るため、警戒が必要な状況と言えるでしょう。
不景気へのトリガーは原油120ドル超え
では、原油価格が上昇した場合、不景気につながるのかどうかを見てみましょう。

原油価格が1バレルあたり120ドルを超えてくるような状況になれば、不況の引き金になる可能性があるとされています。
まず、左側の図表をご覧ください。こちらは、WTI原油価格と、米国10年期待インフレ率の関係を示したものです。ご覧の通り、両者には非常に強い相関があります。
原油価格が100ドルを超えてくると、インフレの脅威となる3%を上回る水準に達し、利上げも視野に入ってくるでしょう。原油価格が100ドルを超えた段階で、インフレ率の上昇が金融政策に影響を与える可能性が出てくる、というのが1つのポイントです。
さらに右側の図表をご覧ください。グレーの網掛け部分は、過去のリセッション(景気後退)を示しています。過去の例を見ると、原油価格が125ドルを超えた水準で、景気後退が発生していることが確認できます。
現状のように原油価格がまだ100ドル程度であれば、リセッションに陥る可能性は比較的低いのではないか、という見方が一般的です。
加えて、市場関係者の多くは、アメリカとイランの間には軍事力に大きな差があることから、紛争が長期化するリスクは低いと見ています。その意味では、原油価格が125ドルを超えるリスクは低いとされています。
また、仮に原油価格が上昇したとしても、必ずしも長期的に続くとは限りません。たとえば、1990年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争においても、アメリカが軍事介入を行った後、原油価格はむしろ下落していました。
そのため、景気への影響、介入後の原油の動きを見ると、投資家が冷静な姿勢を保ち、原油価格の急騰が抑えられると、今の段階では予想されています。
もしも原油価格が上昇したら
原油価格の変動がポートフォリオ全体に及ぼす影響を無視できない
原油価格が今後も変動するような事態が起きた場合、ポートフォリオにどのような影響があるのかを分析したいと思います。
ホルムズ海峡が封鎖されることはなかったとしても、原油価格がある程度高止まりするような状況が続けば、経済にマイナスの影響を与えるのではないか、という懸念は当然出てきます。
しかし、実際のデータを見てみると、少し話が違ってくるようです。原油価格の上昇は、株式市場や為替市場に対して明確な影響を与えていることが確認されています。
左の図表、国別をご覧ください。アメリカやノルウェーは、原油高によって恩恵を受ける国となっています。

一方で、原油価格の上昇がマイナスに作用するのは、ドイツやスイスといった欧州株で、下げ圧力が強くなると言われています。
右側の図表を見ると、エネルギーが最も強い正相関となっている一方で、工業、金融は原油高により相対的にパフォーマンスが悪くなると言われています。
また、原油高はドル高・ユーロ安の要因ともなります。原油が主にドル建てで取引されていることに加え、エネルギーを輸入に依存している欧州では、貿易赤字の拡大が懸念されるため、ユーロ安となる傾向があります。
ユーロ高が続くような局面では、米国のエネルギー株高、ドル高が起こる可能性があり、資金流入が多かった欧州株、工業株、ユーロに対して、慎重な姿勢を取られる可能性があります。
今年前半に見られた資金の流れが、ここから大きく変わる可能性があるとして、そうなれば、ポートフォリオの見直し、ドル資産の見直しが起こり得ることは、1つ考えておく必要があるでしょう。
地政学イベント時に見る原油と金融市場の”ゆがみ”
次に、地政学的イベントにおける、原油と金融市場のゆがみについてです。
こちらの図表は、原油価格とMSCI World、およびVIXの2ヶ月間の相関を示したものです。2020年以降、ウクライナ戦争や中東情勢の悪化といった地政学イベント直後に、原油と株式・VIXとの相関がどうなっているかが確認できます。

ここで注目したいのは、通常時においては原油価格と株価の相関関係は中立、もしくはやや正の相関にあるという点です。つまり、原油価格が緩やかに上昇していく局面では、株価も比較的堅調に推移する傾向があります。
しかし、地政学リスクが高まった直後には、負の相関が生じることが知られています。原油価格の急騰がインフレを呼び、市場全体がリスクオフになる傾向があるのです。
今回、原油価格が急騰する事態となった場合、米国市場、エネルギーセクターにとってはプラス、欧州からの資金がシフトする可能性もありますが、急騰直後には株式市場全体がリスクオフになる可能性がある、という点には注意が必要です。
もちろん長期的に見れば、アメリカ、エネルギー輸出国は相対的に恩恵を受けやすい傾向があります。短期の動きと長期の動きは異なることは、しっかりと区別しておく必要があります。
VIXが45に到達したら『警戒でなく準備』
ホルムズ海峡が封鎖され、極度に緊張が高まった場合、VIXが大きく上昇する可能性があるとされています。前の資料でもお見せした通り、原油価格が大きく上昇する局面では、VIXも連動して上昇する傾向が見られます。今回も同様に、地政学リスクの高まりとともに、VIXの急騰が起こる可能性があるというわけです。

ただ、下の図表をご覧ください。過去のデータでは、VIXが45に達するほどの急激な緊張状態が生じた後、S&P500は1~2週間のうちに高い確率で反発していることが確認されています。
実際、VIXが45に達した1週間後の平均リターンは+4.28%、勝率は83%ですから、明確な傾向が確認できています。
一方で、VIXが45を超えた後には下落に転じるケースが多いです。VIXの45は、恐怖のピークと判断できる可能性があります。
今後の状況については、予断を持たずに見守る必要があります。ホルムズ海峡が封鎖される可能性も十分にあります。その際にVIXが大きく上昇しても、必要以上に恐れる必要はありません。冷静に見ると、45は恐怖のピークの可能性があるとして、冷静にマーケットと向かい合う必要があるでしょう。
カナダドルは原油の”先読みシグナル”となるか?
原油価格が今後さらに上がるのか、それとも高止まりするのか、下落していくのかは状況次第です。
そこで、最後に原油の先読みシグナルとなり得るカナダドルをご紹介します。

カナダドルは、原油を輸出する国の通貨、原油通貨とも呼ばれています。WTIとも相関が強く、市場では原油に先行してカナダドルが上昇することもあるため、原油の先物を読む際にカナダドルを利用する方もいます。
これは、為替市場の流動性の高さや取引量の大きさ、原油需給、地政学リスクを先取りして織り込む傾向があるためです。
当然ながら、カナダドルは中央銀行の政策や他国通貨の影響も受けるため、条件付き先行指標であり、100%の先行とはなりません。
ただ、原油価格(WTI)が大きく上昇している中で、それを追いかけるようにカナダドルも上昇しています。
今後カナダドルが落ち着いて下落するような動きが見られれば、それは市場が原油市場に何らかの変化を感じ取っている可能性があるかもしれません。WTIだけでなく、カナダドルの動きも併せて見ると、今後のマーケットが見られることでしょう。
先週末に起きた、アメリカによるイランへの空爆により、原油高が懸念されています。
原油高=株安と連想する方も多いかと思いますが、大きな上昇がマイナスに関係する可能性がある一方で、緩やかな原油高はアメリカに資金がシフトするきっかけとなる可能性もあります。
ホムルズ海峡が閉鎖され、VIXが上昇する局面では冷静になる可能性もあります。今後の展開次第で様々な想定がなされるなかで、複数のシナリオを立ててマーケットに向かっていただければと思います。
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