155円突破が引き金に、全方位的な円高進行
2026年9月8日の国内金融市場は、為替と株式の双方で大きな動きとなりました。対ドルの円相場は一時1ドル=152円台後半まで急伸し、2月中旬以来およそ半年ぶりの円高水準となりました。対ユーロでも一時1ユーロ=177円86銭近辺と約10カ月ぶりの高値を更新しており、対ドルのみならず主要通貨全般に対して円が買われる「全方位的な円高」が進んだ点が特徴です。
背景にあるのは、長らく意識されてきた「155円の壁」の突破です。通貨当局による為替介入でも突破できなかった水準を明確に上抜けたことで、円買い・ドル売りの勢いに弾みがついたとみられています。市場関係者からは、投機筋の円売りポジション解消の動きが強まったとの見方が出ています。
また、単なる短期的な需給要因にとどまらず、日本の経済政策の枠組みそのものが変わるとの期待が円高を後押ししているとの指摘もあります。日銀の利上げペース加速観測に加え、米国側からの円安是正圧力や、公的年金による国内債券投資拡大への思惑など、円買い材料が重なっている点が従来の局面と異なるとされ、円売りポジションを積み上げてきた市場参加者にとって「逃げ場がなくなりつつある」との声も聞かれます。
自動車株が急落、想定為替レートとの乖離が直撃
急激な円高進行は、輸出関連企業の業績懸念を一気に高めました。8日の東京株式市場では業種別の自動車株が前日比4.7%下落し、約1カ月ぶりの安値となりました。日経平均株価も1000円超下落し、終値は前日比1130円51銭(1.70%)安の6万5269円33銭で取引を終えています。
トヨタ自動車は、終値で2968.5円と4.1%下落しました。ホンダも5%安となったほか、マツダやSUBARUなど主要自動車株も軒並み大幅安となりました。
背景には、各社が期初に設定した想定為替レートと実勢相場との乖離があります。トヨタは今期の想定レートを1ドル=160円、ホンダやマツダ、SUBARUなどは155円に設定していましたが、足元の相場は152円台後半まで円高が進み、いずれの想定水準も上回る事態となりました。トヨタは対ドル1円の円高進行で年間営業利益が約500億円押し下げられる為替感応度を持っており、153円近辺での推移が定着すれば想定レートとの乖離による影響は3500億円規模に達する計算になります。7月以降、出遅れ銘柄として見直し買いが進んでいた自動車株にとって、今回の急伸は大きな逆風となりました。
ニトリHDなど「円高恩恵銘柄」は逆行高
一方、輸入コストの低下が追い風となる内需型企業には買いが集まりました。ニトリホールディングスの株価は一時3435円まで上昇し、2月下旬以来およそ半年ぶりの高値を更新、終値でも5.5%高と逆行高を演じました。輸入食材を多く扱う神戸物産も前日比4.1%高となっています。
ニトリHDについては為替メリットに加え、家具や大型家電の販促強化、疲労回復をうたう新商品投入などの営業努力も評価されており、8月の既存店売上高は前年同月比4.4%増と回復基調が明確になっています。
AI・半導体株に一部買い戻しの動きも
これまで「割高な自動車株を買い、AI・半導体株を売る」流れが続いていましたが、今回の円高進行を機に一部で反転の兆しも見られました。国内長期金利の上昇一服を背景に、ソフトバンクグループは一時前日比約8%高の6745円まで上昇し約2カ月ぶりの高値をつけたほか、半導体関連銘柄にも買いが入りました。ただし村田製作所や太陽誘電は大幅安となるなど、ハイテク株全体が一様に買われたわけではなく、本格的な回復トレンドへの転換かどうかは不透明な状況です。
155円突破という節目通過は、円安を前提としてきた市場構造の転換を意識させる出来事となりました。今週予定される米国の物価指標発表など重要イベントを控え、円相場が150円台へ向けてさらに上値を試すのか、市場は神経質な見極めを続けています。

