米連邦準備理事会(FRB)は、2026年9月15~16日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.25ポイント引き上げ、3.75~4.00%とすることを全会一致で決定しました。
利上げの実施は2023年7月以来、実に3年2カ月ぶりとなります。これにより、2025年12月まで続いていた利下げ局面はいったん終了し、FRBの金融政策はインフレ抑制を優先する方向へ転換しました。
ただし、今回の利上げが継続的な利上げ局面の始まりを意味するかは、今後の原油価格やインフレ指標を確認する必要があります。
FOMCが公表した声明では、今回の金融引き締め措置が、物価上昇率の2%目標への「より速やかな回帰を後押しする」との見解が示されています。
ウォーシュ議長、高インフレへ強い警戒感を表明
政策決定後の記者会見で、ウォーシュFRB議長は、インフレ率が高すぎる状態が長期間続いていると述べ、物価上昇への強い警戒感を示しました。
財やサービスの幅広い項目で、前年比および半年前比の年率換算で3%を超える価格上昇が観察されており、この夏の指標を見ても、基調的なインフレ傾向に目立った改善は見られないとの分析を示しています。
ウォーシュ議長は、個々の経済指標は振れが大きいため、単月の数値ではなく、基調的なトレンドを重視する姿勢を強調しました。また、現在の金融政策では、雇用よりも物価安定に重点を置いていることを明確にしています。
インフレ圧力の背景には、米国・イスラエルとイランの軍事衝突の長期化に伴うガソリンや軽油などのエネルギー価格上昇、関税政策の影響、AI関連を中心とする大規模な設備投資などがあります。
直近8月の消費者物価指数(CPI)も市場予想を上回り、根強い物価上昇圧力が確認されました。特に軽油価格の上昇は、輸送費や生産コストを通じて、幅広い商品・サービス価格へ波及する可能性があります。
FRBは物価安定への決意を改めて示した一方、インフレ率が目標の2%に到達する時期の予想を1年先送りし、2029年と見込んでいます。
ドットチャートが示す年内追加利上げの公算
同時に公表された経済・政策金利見通し、いわゆるドットチャートでは、2026年末の政策金利予想の中央値が、6月時点の3.8%から4.1%へ上方修正されました。
現在の政策金利レンジの中央値が3.875%であることを考えると、FOMC参加者の中心的な見通しは、年内にもう一度0.25ポイントの利上げを行うことを示しています。
FOMC参加者19人のうち、ウォーシュ議長を除く18人が金利見通しを提出しました。18人中16人が、年内に少なくともあと1回の追加利上げを予想しています。
内訳は、あと1回の追加利上げを予想した当局者が12人、2回が4人、据え置きが2人となりました。
また、2027年末の政策金利見通しの中央値は据え置きを示したものの、8人の当局者は2027年末までに、さらに0.25ポイントの引き上げを支持しています。
一方、米国経済や労働市場の強さは維持されています。2026年の失業率見通しの中央値は4.1%に改善し、実質GDP成長率の見通しも2.3%へ引き上げられました。
今回の利上げは、景気後退に対応するための金融政策ではなく、経済が予想以上に底堅いなかで、インフレの再定着を防ぐための利上げという性格が強いと考えられます。
もっとも、ドットチャートは将来の政策を約束するものではありません。現時点の経済・物価見通しを前提とした、FOMC参加者それぞれの予測です。
年内の追加利上げはFOMC参加者の中心的なシナリオとなっていますが、今後の原油価格やインフレ指標によって変更される可能性があります。
トランプ大統領の利下げ要求と政治的緊張
今回の利上げ決定は、かねてより低金利を要求してきたトランプ米大統領の主張に直接反する格好となりました。
トランプ氏はSNS上で「高金利は米国を不公平な立場に置く」「FRBはたまには愛国者になれ」と投稿し、利上げ論の台頭を強くけん制していました。
記者会見で、トランプ氏との協議やメッセージについて問われたウォーシュ議長は、「大統領との協議について話せることは何もない」と述べるにとどめ、政治的圧力に左右されず、金融政策の独立性を維持する姿勢を示しました。
次回10月のFOMCは中間選挙の直前に開催される予定です。仮に追加利上げが実施されれば、FRBと政権との緊張が一段と高まる可能性があります。
FOMC当日の債券・為替・株式・商品市場は大きく動揺
FRBのタカ派的な姿勢と追加利上げ見通しを受け、FOMC当日のグローバル金融市場は大きく反応しました。
ただし、政策発表直後の値動きには、短期筋によるポジション調整や機械的な売買も含まれます。市場の評価を確定するには、少なくともその後1営業日の動きを確認する必要があります。
金利・債券市場では、米10年国債利回りが一時5.01%と節目の5%台に乗せ、金融政策に敏感な2年国債利回りも4.73%付近まで上昇しました。
一方、FOMC発表後は短期金利が上昇する一方で、超長期金利が低下し、イールドカーブは大きくフラット化しました。2年債と30年債の利回り差は約0.61ポイントまで縮小しています。
これは、債券市場が目先の追加利上げを織り込む一方、その先では金融引き締めによって景気やインフレが抑制される可能性も意識していることを示しています。
もっとも、これは将来的な景気減速を市場が織り込み始めたということであり、現時点ですでに米国経済が明確な減速局面に入ったことを意味するものではありません。
為替市場では、日米金利差の拡大が意識され、円売り・ドル買いが加速しました。円相場は1ドル=155円90銭台から、一時156円19銭まで下落しました。
株式市場では、利上げと高金利の長期化に対する懸念から、ダウ工業株30種平均が一時900ドルを超えて下落しました。終値は前日比631.21ドル安の5万1,461ドル90セントと、約3カ月ぶりの安値を記録しています。
S&P500種株価指数は0.45%安となった一方、ナスダック総合指数は前日比3.15ポイント安の2万5,978.42と、ほぼ横ばいでした。
市場全体が一律に売られたわけではなく、エネルギー株や景気敏感株の下落が目立つ一方、テクノロジー株は比較的底堅い動きとなりました。
原油市場では、NY原油先物(WTI)が、サウジアラビアからの供給に対する懸念が後退したことなどを受け、1バレル=102.43ドルと3.2%下落し、3営業日ぶりに反落しました。
金市場では、NY金先物が一時1トロイオンス=4,387.5ドルまで上昇しましたが、利上げ発表後は金利の先高観とドル高を受け、スポット価格は4,240ドル付近まで下落しました。
インフレヘッジとしての需要は残るものの、政策金利の上昇とドル高は、利息を生まない金にとって短期的には逆風となる可能性はあります。
ただし、翌17日には金価格が反発するなど、FOMC直後の市場反応がそのまま定着したわけではありません。原油価格の上昇も一服しており、株式、債券、為替、商品市場が最終的にどのような水準で落ち着くかを見極める必要があります。
今後の展望|追加利上げは中心シナリオだが、既定路線とは言い切れない
今回のFOMCでは、年内の追加利上げが中心的なシナリオとして示されました。ただし、SEPやドットチャートは将来の政策を約束するものではなく、現時点の経済・物価見通しを前提とした予測です。
今後の最大の焦点は、インフレ再加速の大きな要因となっている原油価格です。原油高が長期化し、輸送費や製造コスト、サービス価格へ波及すれば、追加利上げの可能性は高まります。一方、供給不安が緩和され、原油価格が落ち着けば、年内の金利見通しが修正される可能性もあります。
次回FOMCへの注目は高まりますが、それまで相場が一方向に動き続けるとは限りません。CPI、PCE、期待インフレ率、賃金、消費などの変化に応じて、市場の追加利上げの織り込みは何度も変動するとみられます。
また、FOMC直後の値動きだけで市場の評価を確定するのは早計です。政策発表直後は短期的なポジション調整も増えるため、少なくとも米国市場が1営業日を一巡した後の株式、債券、為替、商品市場の動きを確認する必要があります。
現時点で米国経済に明確な減速兆候は見られず、企業業績も総じて底堅さを維持しています。このため、株式市場全体が継続的に売られるというより、金利上昇に耐えられる企業と耐えられない企業の選別が一段と強まる展開が想定されます。
当面は、金利上昇によるバリュエーション調整に注意しながら、決算、ガイダンス、利益率、キャッシュフローを確認することが重要です。原油価格とインフレの変化を慎重に見極めつつ、業績の裏付けがある銘柄が選別され、買われる相場は続く可能性が高いと考えています。
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