AI関連株の先行きをめぐって、投資家の意見が分かれています。
AI関連企業への巨額投資、株価の割高感、そしてデータセンター建設を支える資金調達の拡大。こうした状況から、現在のAIブームを1990年代後半の「ITバブル」と重ね合わせる見方が増えています。
実際、AI関連企業の信用リスクに対する警戒感も強まっています。
ところが、こうした市場の雰囲気に対して、少し異なる見解を示している著名投資家がいます。
米大手運用会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同会長、ハワード・マークス(Howard Marks)氏です。
マークス氏は、2026年10月18日付のBloombergの報道で、現在の市場には典型的なバブルに見られるような投資家の極端な熱狂が十分には確認できない、という趣旨の見解を示したとされています。
この指摘は、なかなか興味深いものです。
なぜなら、「バブルを心配する投資家が多いこと自体が、むしろ市場の規律を保つ要因になっているのではないか」という、一見すると逆説的な考え方だからです。
では、現在のAI相場は本当にバブルではないのでしょうか。そして、私たち投資家は何を警戒すべきなのでしょうか。
バブルの本質は株価ではなく「投資家心理」にある
一般的に、株価が大きく上昇すると「バブルではないか」という議論が始まります。
しかし、株価が高いことと、バブルであることは必ずしも同じではありません。企業の利益が大きく成長していれば、株価が上昇すること自体は自然だからです。
マークス氏が重視するのは、株価の水準以上に「投資家の心理状態」です。
過去のバブルには、ある共通点があります。
それは、多くの投資家がリスクを軽視し、「今回は違う」「まだまだ上がる」と信じ切ってしまうことです。
1990年代後半のITバブルでは、利益をほとんど生み出していないインターネット企業にも巨額の資金が流入しました。
当時は、インターネットが世界を変えるという期待が投資家を熱狂させていました。
そして、実際にインターネットは世界を変えました。
しかし、「技術の将来性」と「投資家が利益を得られるかどうか」は、まったく別の問題でした。
どれほど将来性のある技術であっても、投資価格が間違っていれば、大きな損失につながります。
今回のAIも同じです。
AIが社会や産業を大きく変える可能性は極めて高いでしょう。しかし、だからといって現在のAI関連企業の株価がすべて正当化されるわけではありません。
ここは明確に分けて考える必要があります。
一方、現在の市場ではAIバブルを警戒する議論が日常的に行われています。株価の割高感だけでなく、設備投資の回収可能性や信用リスクにまで関心が広がっています。
こうした警戒感が存在することは、投資家がリスクをまったく意識しなくなる典型的なバブルの最終局面とは異なる特徴といえるかもしれません。
ただし、警戒する声が多いからといって、バブルが存在しないと証明できるわけではありません。
今回のAI相場は「ITバブル」と何が違うのか
私は、現在のAI相場を1990年代後半のITバブルと単純に比較することには、少し違和感があります。
その理由は、現在のAI投資を牽引している企業の「収益基盤」が、当時とは大きく異なるからです。
ITバブル期には、将来の収益がほとんど見通せない赤字企業にも、極端に高い評価額が付けられていました。
一方、現在のAI投資を主導しているMicrosoft、Alphabet、Amazon、Metaなどは、すでに巨大な既存事業と豊富なキャッシュフローを持っています。
AI関連の設備投資が膨らんでいることは事実ですが、その多くは、すでに大きな利益を生み出している企業によって行われています。
この違いは非常に重要だと思います。
もちろん、現在の株価が割安だと言いたいわけではありません。
S&P500の長期的なバリュエーションは依然として高く、一部の大型テクノロジー株への集中も進んでいます。
また、企業の収益基盤が強固であっても、投資家が将来の成長を過大評価していれば、株価が大きく調整する可能性はあります。
ただし、「株価が割高であること」と「金融市場全体が崩壊すること」の間には、大きな距離があります。
この点を冷静に見極める必要があります。
本当に注視すべきは「株価」より「資金調達の構造」
では、現在のAI相場に大きなリスクはないのでしょうか。
私は、そうは考えていません。
むしろ、注意すべきリスクの所在が、従来の「株価の評価」だけでなく、「資金調達の構造」にまで広がっていると感じています。
これまで市場の関心は、AI関連株の株価やPER(株価収益率)に集中していました。
しかし最近は、「AIインフラの建設資金を誰が負担し、その巨額投資をどのように回収するのか」という問題が重要になってきています。
AIデータセンターの建設には、半導体だけでなく、土地、電力設備、冷却設備、通信インフラなど、巨額の資金が必要です。
そして、そのすべてが自己資金で賄われているわけではありません。社債発行や借入など、外部からの資金調達に依存する企業も存在します。
企業間の「財務体力の差」が明暗を分ける
ここで重要になるのが、企業ごとの財務体力の違いです。
例えば、Microsoftのように巨額の営業キャッシュフローを持つ企業と、CoreWeaveのように外部資金調達への依存度が高いAIインフラ専業企業では、同じAI関連企業でもリスクの性質が大きく異なります。
| 比較項目 | 大手IT企業 | AIインフラ専業企業 |
|---|---|---|
| 代表例 | Microsoft | CoreWeave |
| 主な資金源 | 既存事業のキャッシュフロー | 借入・社債・株式調達など |
| 財務上の強み | 多角的な収益基盤 | AI需要拡大による高成長余地 |
| 主なリスク | 設備投資の回収遅延 | 調達コスト・借換リスク |
| 注目指標 | FCF・設備投資・AI売上 | 信用スプレッド・流動性・債務返済能力 |
大手IT企業は、AI需要が多少減速したとしても、既存事業の収益を活用しながら投資計画を調整する余地があります。
一方、外部資金への依存度が高い企業では、金利上昇や信用スプレッドの拡大によって、資金調達コストが上昇する可能性があります。
信用スプレッドとは、企業が資金を借り入れる際に、国債などの安全性の高い資産に対して上乗せして支払う金利のことです。
このスプレッドが拡大するということは、投資家がその企業の信用リスクを以前より高く評価していることを意味します。
最近注目を集めているCoreWeaveの信用リスクは、まさにこの問題を考えるうえで重要な事例です。
実際、10月中旬には同社の社債利回りが15%を超える水準に上昇したことも報じられています。
私が特に気にしているのは、AI需要そのものが失速することよりも、需要が拡大しているにもかかわらず、資金調達環境の悪化によって投資計画を維持できなくなる可能性です。
AI需要が成長していても、資金調達コストが上昇すれば、投資の採算性は悪化します。
つまり、AI市場の成長と、AI関連企業への投資収益は必ずしも一致しないのです。
今後のAI相場を考えるうえでは、株式市場だけでなく、信用市場の変化にも目を向ける必要があると思います。
バブルが崩壊しなくても、株価は大きく下落する
投資家としてもう一つ考えておきたいことがあります。
それは、バブルが崩壊しなくても、株価は十分に下落し得るということです。
株価は、基本的に「1株当たり利益(EPS)× PER」で決まります。
例えば、企業の利益が10%増加したとしても、PERが30倍から25倍へ低下すれば、株価は約8%下落します。
つまり、業績が伸びているにもかかわらず、株価が下がることは十分にあり得るのです。
特に、高い成長期待があらかじめ織り込まれているAI関連株では、決算自体が悪くなくても、市場の期待を下回ったというだけで株価が調整することがあります。
また、金利の上昇や信用リスクへの警戒感が強まれば、企業利益が堅調でも、投資家が許容するPERは低下する可能性があります。
したがって、「AI相場はバブルか否か」という二者択一の議論だけで投資判断をすることには、あまり意味がありません。
重要なのは、現在の株価にどの程度の成長期待が織り込まれており、その期待が現実的に達成可能なのかという視点です。
投資家が今後チェックすべき「3つのポイント」
では、これからのAI相場と向き合うにあたり、投資家は何を確認すればよいのでしょうか。
私は、特に次の三つに注目しています。
第一に、決算とフリーキャッシュフローのバランス
Microsoft、Alphabet、Amazon、Metaなどの決算では、AI関連売上の成長率だけでなく、設備投資額と営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー(FCF)の関係を確認したいと思います。
設備投資が増加しても、それに見合う収益成長が確認できれば、市場の安心感につながります。
一方、投資額ばかりが膨らみ、収益化の時期が後ずれするようであれば、投資家の評価は変わる可能性があります。
特に重要なのは、設備投資の増加が一時的なFCFの減少にとどまるのか、それとも投資収益率の低下につながっているのかという点です。
第二に、信用市場の不安がどこまで広がるか
CoreWeaveのような企業の信用スプレッドが拡大しても、それが財務基盤の弱い一部の企業にとどまるのであれば、市場全体への影響は限定的かもしれません。
しかし、信用不安が他のAIインフラ企業に広がり、さらに大手テクノロジー企業の資金調達コストや設備投資計画にまで影響するようであれば、注意が必要です。
株価だけでなく、社債利回りや信用スプレッドの動向を確認することが重要になります。
第三に、AI関連株の間で強弱が生まれるかどうか
私は、ここが特に重要だと考えています。
財務体力が強く、利益成長を維持している企業の株価が底堅い一方、資金調達に不安を抱える企業だけが売られるのであれば、市場はリスクを冷静に選別している可能性があります。
反対に、企業の財務内容や業績に関係なく、AI関連株が一斉に売られるようであれば、投資家のリスク許容度そのものが低下している可能性があります。
その場合、調整が長引くことも想定しておく必要があります。
整理すると、今後の判断材料は次のようになります。
| 注目項目 | 安心材料 | 警戒材料 |
|---|---|---|
| 大手IT企業の決算 | AI収益拡大、FCF改善 | 設備投資増加に収益が追いつかない |
| 信用市場 | スプレッド縮小・安定 | 複数企業でスプレッド拡大 |
| AI関連株 | 好業績企業が相対的に底堅い | 好決算でも一斉に売られる |
これらの変化を継続的に確認することで、現在の調整が一部企業の問題なのか、それともAI関連投資全体のリスク再評価につながっているのかを判断しやすくなると思います。
今後の市場の見方と対応策について
ハワード・マークス氏の今回の見解で、私が最も興味深いと感じたのは、バブルを警戒する投資家が多いこと自体が、相場の過熱を抑える要因になり得るという指摘です。
過去の典型的なバブルでは、多くの投資家がリスクを忘れ、株価はまだまだ上昇すると信じていました。
しかし、現在のAI相場はどうでしょうか。
連日のようにAIバブルへの警戒が報じられ、巨額の設備投資や資金調達、企業の債務負担に対しても厳しい目が向けられています。株価も一本調子で上昇しているわけではなく、今年はナスダック100が10%以上調整する局面もありました。
マークス氏の見方に従えば、こうした警戒感が市場に存在する限り、仮にAI関連投資の一部にバブル的な要素があったとしても、過去のような無制限の熱狂には至りにくいということになります。
私は、この考え方には一定の説得力があると思います。
少なくとも、現在のAI相場を1990年代後半のITバブルと同じように捉え、全面的な崩壊を前提にする必要はないのではないでしょうか。
ただし、ここで一つ注意したいことがあります。
それは、投資家がバブルを警戒していることと、実際にリスクが小さいことは別の問題だという点です。
マークス氏自身も、AI関連投資の高い評価額や投機的な資金調達、企業の債務負担といった問題を否定しているわけではありません。
私も、現在のAI相場で最も注意すべきなのは、まさにこの資金調達の問題だと考えています。
AI需要が拡大していても、巨額の設備投資を続けるための資金調達が難しくなれば、企業の成長計画は見直しを迫られます。そして、その影響が一部のAIインフラ企業にとどまるのか、大手テクノロジー企業にまで広がるのかによって、市場全体への影響は大きく異なります。
今後、私が注目しているのは、AI関連企業の決算と信用市場の動向です。
大手テクノロジー企業が堅調な利益成長を維持し、信用不安も財務基盤の弱い一部の企業にとどまるのであれば、AI相場の成長シナリオは維持される可能性が高いと考えています。
その場合、株価の調整はバブル崩壊の始まりではなく、過度な期待が修正され、企業の実力に応じた選別が進む過程と捉えることもできるでしょう。
一方、信用スプレッドの拡大が複数の企業に波及し、設備投資計画の縮小や業績見通しの下方修正につながるようであれば、相場に対する見方を慎重にする必要があります。
特に、好業績の企業まで一斉に売られるようになれば、個別企業の問題を超えて、市場全体のリスク許容度が低下している可能性があります。
私は、AIという技術の長期的な成長性については、引き続き前向きに考えています。また、現時点でAI相場の全面的な崩壊を基本シナリオにする必要もないと思っています。
しかし、それはAI関連株を無条件に買い続けてよいという意味ではありません。
むしろ、今後は収益力、財務体力、設備投資の回収可能性によって、企業間の評価が大きく分かれていくのではないでしょうか。
AIバブルがいつ終わるのかを予想するよりも、AI相場がどのような形で続いていくのかを見極めること。
そして、その過程で生まれるリスクと投資機会を冷静に選別すること。
私は、それが今の市場で最も大切な投資判断だと考えています。
参考資料・文献
- Bloomberg(2026年10月18日付とされる報道):ハワード・マークス氏のAIバブルに関する見解
- Howard Marks, Oaktree Capital Management, Is It a Bubble?(2025年12月9日)
- Reuters(2026年10月16日):AI関連株の売却と信用市場への懸念
- Financial Times(2026年10月):AI関連企業の債務と信用リスクに関する報道
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品や銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。
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