本日分析する投資信託は、J-REITリサーチ・オープンです。J-REITのアクティブファンドを代表するファンドとして非常に有名なこちらのファンドを、本日は分析したいと思います。
最近、日銀の政策決定会合において政策金利を引き上げる動きが見られるため、多くの方が今後のJ-REITの動向に興味を持っていることでしょう。ぜひ、このアクティブファンドが投資対象になるかどうかの参考にしていただければ幸いです。
お願い
最初にお願いです。この記事はあくまで情報提供を目的としており、投資の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。また、銘柄の抽出はランダムに行っており、運用会社や販売会社と当社との間に業務提携等は一切ございません。中立な立場での分析を行っています。
投資信託概要
概要
今回はJ-REITリサーチ・オープンの年2回決算型を取り上げました。毎月決算型もありますが、こちらはNISA成長投資枠外ですから、NISAの成長投資枠を考えている方には年2回の決算型が適しているでしょう。
運用会社は三井住友トラスト・アセット・マネジメントで、投資対象はJ-REITです。信託報酬は1.1%、純資産総額は621億円です。あまり大きな額ではないように思われますが、J-REITに関するアクティブファンドとしては、最も歴史があり、純資産総額も多いと言われています。
同じマザーファンドの毎月決算型は3,566億円と、かなり大きなファンドです。そうした背景もあり、今回はこのファンドを取り上げました。日本のREITに投資をするアクティブファンドとして、広く知られているこのファンドが、どういうパフォーマンスを残しているのでしょうか。
REITの中から徹底的な銘柄分析を行い、組み入れを決定しています。銘柄選定能力がどうかも、本日は確認します。
チェックポイント
本日のチェックポイントは、
- REITの銘柄選定能力は高いのか?
- パフォーマンスや配分の偏りはないのか?
- インデックスファンドや他のアクティブファンドとの比較
の3点です。
簡易パフォーマンスです。同じカテゴリーにここ1年間は劣っているものの、10年、5年、3年のスパンでは上回っています。REITのパフォーマンスが最近芳しくない点は気になるところです。
標準偏差です。同カテゴリーと比較して低いことから、リスクをコントロールしつつパフォーマンスを向上させることを目指していると考えられます。
投資戦略
現在日本に上場しているREITは58銘柄あり、これらの中から中・長期的に成長が期待できる銘柄に投資を行う、短期売買ではなく、長期保有によってパフォーマンスに反映される銘柄選定を行う、アクティブファンドらしい取り組みを行っています。
分析の方法としては、三井住友トラスト基礎研究所が投資ユニバース、価格査定、収益予想などを行っています。
三井住友トラスト基礎研究所は、リサーチを行い、REITに対する分析を行っています。リサーチがある強みは、家賃収入、収益性の算定が可能かどうか、キャップレートから見た今後の見通し、売買動向を確認し、不動産価値が上がりやすいか、保有している不動産が上がるのではないか、などもリサーチしています。
そうして全体の方針を決めつつ、最後は三井住友トラスト・アセット・マネジメントが個別銘柄を評価し、財務チェック等を加えながら個別選定を行い、ポートフォリオを構築しています。このように徹底した分析を行っていることから、アクティブファンドとしての運用には大きな期待が持てます。
銘柄
日本のREITは、株式の3,700社に比べると銘柄数が少なく、58銘柄となっています。米国と比較した市場規模も小さいです。世界のREIT市場は時価総額で約260兆~270兆円ありますが、日本のREIT市場は15兆円と、規模感としてはまだまだ小さいです。
最近では物流やヘルスケア特化型のREITが増えており、市場環境によっては個別銘柄の動きに違いが出てきます。REITファンドでも、個別銘柄選定は非常に重要です。例えば、コロナ時はホテルの収支が悪化したことで、ホテルREITは大きく下がりました。一方、コロナで皆さんが自宅にこもる時間が多かったことで、物流倉庫の稼働が増加し、物流系REITは高くなりました。時代背景によってREITの評価が変わるため、選定の正確さが非常に重要になります。
投資先としては、最も時価総額の大きな総合型リートが約7割を占めています。パフォーマンスに差が出てくる特化型のREITは少なくなっており、オフィス特化型、物流特化型、住宅特化型は少なくなっています。特化型は価格の動きが大きくなりやすいため、現在の選択は無難だと言えるでしょう。
ポートフォリオの利回りは約4.6%と、市場並みとなっています。現在は4.4%まで下がってきていますが、先月末時点では市場並みで、保有銘柄は58銘柄に対して48銘柄と10銘柄ほど少ないですが、平均的なセレクションであると思われます。
アクティブファンドですから、個別銘柄の入れ替えの頻度は注目すべきです。直近では、ジャパンリアルエステイトを売り、野村不動産マスターファンドを一部売却しています。ただ、積極的な集中投資や大胆な銘柄入れ替えは確認できていないため、かなり保守的な印象が残ります。
上位銘柄を見ると、KDX、平和不動産、ヒューリックが上位に入っています。時価総額順で見ると、三井系の日本ビルファンド、三菱地所系のジャパンリアルエステイト、日本投資ファンドが上位に来ており、独自性がある程度は示されています。
10銘柄が少なく選定し、総合型という無難なものを選びつつも、組み入れ上位の銘柄としては時価総額が低いものを選んでいる印象です。このアプローチは、パフォーマンスにどう影響しているのでしょうか。
ファンド・パフォーマンス
パフォーマンス
ファンドのパフォーマンスは市場平均となっています。右側の図表をご覧ください。黒いチャートで示した東証のREIT指数、赤で示した再投資後の基準価格はほぼ同じ動きをしていることが、5年、3年でも明らかになっています。黄色のチャートで示したTOPIXとはものが違うため、比較対象とはなりませんが、東証REIT指数とほぼ変わらないことが確認できました。ここからは、市場平均を上回る運用成果を目指すアクティブファンドというよりも、インデックスファンドに近い印象を受けました。
ここ数年間、J-REITのパフォーマンスが良くないため、ファンドの基準価格が低迷していることは致し方ないでしょう。ここ3年、5年のファンドが悪いというよりも、マーケット自体が悪いためだと言えます。今後、このファンド自体も、J-REITの市場動向に大きく左右されると考えられます。
ただ、本来であれば市場が低迷してもリターンを上げることを目指す、超過リターンを得る運用を行うことを、アクティブファンドには期待したいところです。市場平均よりも大きなリターンを目指すアクティブファンドと謳っている以上、もう少し大胆な銘柄選定、売買を期待したいところです。
例えばインバウンドが増えているのであれば、ホテルの稼働が上がるだろうとホテル型を多めに入れたり、物流の量が増えていることから物流系のREITを入れたりと、そういった動きがさらに色濃く出てくれば、オーバーパフォームが期待できるかもしれません。ですが、今のところはそういった動きはないと感じています。
投資する立場から言うと、J-REITのインデックスファンドと同じ役割となり、老舗という点を除いてしまえば、ほぼ市場並といえます。市場よりも超過リターンを狙いたい投資家からすると、あまり投資対象とならないファンドだ、という印象を受けました。
資金流出入
資金流出入を見ても、REITインデックスを買った方がいいと考えETFを買う方が増えているのでしょうか。資金流出が増加しています。
評価
評価は2つ星です。アクティブファンドの強みがあまり見えませんでした。銘柄選定はKDXを上位に持ってくるなど、少しは他との違いを出してはいますが、それがパフォーマンスに反映されてないということは、銘柄選定がうまく効いてないということになります。パフォーマンスもインデックス並みとなれば、インデックスでいいのではないか、ということで2つ星とさせていただきました。
本日は、J-REITに注力するアクティブファンドを分析しました。このファンドは日本でも老舗として知られており、銘柄選定能力やパフォーマンスに対する期待が高かったのですが、結果としてはインデックス並みのパフォーマンスでした。
インデックスで運用する方であれば、手数料の安いETFなどを選択するのも1つの選択肢です。また、アクティブファンドとして超過リターンを目指すのであれば、もう少し特徴の強いアクティブファンドを探すのも手ではないかと感じました。