21世紀になって、金の価格が上昇しています。2000年末から金の投資リターンは8倍強に達し、米国株や世界債券の成績を大きく上回っています。この黄金の輝きの裏には、世界経済の不確実性と中央銀行の戦略的な動きがあります。
世界経済を取り巻く環境が金の価値を押し上げています。インフレの脅威、各国の財政悪化、そして国際社会の分断。これらの要因が、長年基軸通貨として君臨してきたドルの信頼性を揺るがしています。特に2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、金は「無国籍通貨」としての魅力を増しています。国家間の緊張が高まる中、特定の国に縛られない金の価値が再評価されているのです。
この潮流の中心にいるのが、世界の中央銀行です。2024年6月に発表されたワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の年次調査によると、中央銀行は今後も金購入を増やす方針を示しています。29%の中央銀行が今後1年で自国の金準備高が増えると予想(青色)。2023年の24%を上回り、ワールド・ゴールド・カウンシルが2018年に調査を開始して以来、最も高い水準となりました。
出所:ワールド・ゴールド・カウンシル
特に注目すべきは、2022年と2023年の中央銀行による金購入量の急増です。2022年には史上最大の購入量を記録し、2023年もそれに匹敵する規模となりました。
なぜ中央銀行は金に注目するのでしょうか。その理由は主に3つあります。
1. 金利水準:高金利環境下では、金保有による収益が増加します。
2. インフレ懸念:金は伝統的にインフレヘッジとして機能します。
3. 地政学的リスク:国際情勢の不安定化により、安全資産としての金の価値が高まります。
特に新興市場の中央銀行は、世界経済のパワーシフトを強く意識しており、これが金保有戦略に大きな影響を与えているのです。
出所:ワールド・ゴールド・カウンシル
金市場の動向は、個人投資家にとっても重要な示唆を含んでいます。中央銀行が長期的な視点で金を重視している事実は、個人のポートフォリオ戦略にも応用できるでしょう。経済の不確実性が高まる中、金は安定性と多様化をもたらす貴重な資産となる可能性があるからです。
ただし、投資判断の際には、金価格の変動リスクや保管コストなども考慮する必要があります。また、金は配当を生まない資産であるため、総合的な投資戦略の中で適切に位置づけることが重要です。
ファミリーオフィスにおける資産運用では、金を保有するときは必ずポートフォリオの一部資産として保有し、他のアセットとの相関分析などを通じて適正なアロケーション(資産配分)を決定します。間違っても、中央銀行が今後も購入を示唆しているからといって無邪気に金へ集中投資を行うようなことはしません。ポートフォリオの一部として保有することでリスク(変動)をコントロールできることを理解しておく必要があります。
中央銀行の戦略的な金買いと、世界経済の構造的変化は、金市場に新たな時代をもたらしています。短期的な市場の動向に左右されず、長期的な視点で金を重要な資産として位置づける中央銀行の姿勢は、個人投資家にとっても示唆に富んでいます。
金は単なる貴金属ではなく、世界経済の縮図を映し出す鏡です。その輝きの背後にある複雑な要因を理解することで、私たちは世界経済の動向をより深く洞察できるのです。金市場の動向は、今後も世界経済で重要な役割を果たし続けるでしょう。
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