ファミリーオフィス型の資産運用において、個別株投資はポートフォリオの安定的な成長を担う「コア」資産ではなく、市場平均を上回る超過リターン(アルファ)を狙う「サテライト」資産として位置づけられます。
なぜ富裕層は、リスクが高くなりがちな個別株、特に日本株に注目し、あえて「集中」という行動を取るのでしょうか。それは、日本市場特有の「非効率性」と、超長期的な視点を持つ富裕層だからこそ実践できる「価値」の選定哲学があるからです。
本記事では、富裕層が日本株投資で実践する5つの核となる視点を、運用の専門家が詳細に解説します。
[ 目次 ]
1. 富裕層が日本株に注目する理由:「集中投資の原則」
富裕層の個別株戦略の根底にあるのは、著名投資家ウォーレン・バフェットに代表される「分散よりも集中」の哲学です。
1-1. 分散投資の限界と超過リターン(アルファ)の追求
一般的に推奨されるインデックスファンドへの分散投資は、市場全体の成長(ベータ)を取り込むための「守り」の戦略です。しかし、富裕層はそれだけでは飽き足らず、資産を大きく成長させるための「超過リターン(アルファ)」を求めます。
このアルファを狙うのが、厳選した数銘柄に資金を投じる「集中投資」です。
参考: 資産の「攻め」と「守り」のバランス戦略については、こちらの記事で詳細を解説しています。
【富裕層の個別株戦略】日本株と米国株の「攻めと守り」を両立する投資哲学
1-2. 市場の「非効率性」と「割安放置」をチャンスと捉える
多くの富裕層は、現在の日本株式市場を「割安放置」の状態にあると見ています。
- PBR問題(株価純資産倍率): 企業が持つ純資産に対して、株価が低い状態(PBR 1倍割れ)の企業が多く存在します。これは、企業が株主資本を意識した経営をしてこなかった「非効率」の現れであり、その是正圧力がかかることで、株価が上昇する余地(バリュー投資の機会)を生んでいます。
- プロの制約: 機関投資家(プロ)は巨額の資金を運用するため、流動性の低い小型株には参入しにくいという制約があります。一方、個人投資家(富裕層)は、こうしたプロの目が届かない優良な中小型株を丁寧に選定することで、プロよりも有利なポジションで超過リターンを狙うことが可能です。
2. 富裕層が重視すべき5つの視点(日本株選定哲学)
富裕層の個別株選定は、短期的なチャート分析や流行のテーマに左右されることなく、企業の本質的な価値と長期的なキャッシュフローに集中します。
視点1:「時間の複利」を最大化する長期投資(真の長期思考とは)
富裕層は、投資の本質的な成功要因が「時間の複利」にあることを深く理解しています。
ただし、ここでいう“長期投資”とは、単に株を長期間持ち続けることを意味しません。 むしろ、「長期で成長が見込める企業を選定できるかどうか」を判断基準とし、その結果として長期保有になることもあれば、想定より早く売却するケースもある、という柔軟なスタンスです。
重要なのは、「短期的な成果を狙って取引することが目的ではない」という点です。
目先の値動きやテーマに反応して売買を繰り返すのではなく、企業の収益構造・競争優位性・経営者の資本配分センスといった、長期的に企業価値を高める要素に注目します。
投資姿勢の特徴:
- 長期成長を前提にした選定
将来にわたってキャッシュフローを生み出し続けられる企業かどうかを軸に判断します。
結果的に保有期間が長期になることも、成長性が失われて早期に手放すこともあります。
しかし、判断の出発点は常に「長期で報われるかどうか」です。 - 短期成果を狙わない
市場の変動に応じて「今だけ儲かる取引」を狙うことはしません。
富裕層の投資哲学は、“時間を味方にする”という確固たる軸の上に成り立っています。 - 複利の力を最大化する設計
投資元本だけでなく、配当金や値上がり益を再投資し、資産を雪だるま式に増やします。
この「再投資の継続」が、富裕層が長年にわたり資産を増大させてきた最大の源泉です。 - 時間の単価を意識する
短期の値動きに時間を費やすのではなく、投資先企業の事業モデル分析やポートフォリオ戦略の再設計など、“価値を生む思考時間”に集中するのが、真の長期投資家の特徴です。
視点2:企業の「競争優位性」と「財務健全性」を見極める
投資対象とする企業は、外部環境の変化に耐えうる強固な基盤を持っているかを徹底的に評価します。
- 競争優位性(Economic Moat): 他社が容易に真似できない、参入障壁の高いビジネスモデル(技術力、ブランド力、ネットワーク効果、コスト優位性など)を持っているか。これが長期的な安定収益の源泉となります。
- 財務健全性: 負債が少なく、自己資本比率が高いか。特に景気後退期や不況期においても、借り入れに頼らず事業を継続できるか、安定したキャッシュフロー(営業活動によるキャッシュフロー)を生み出しているかを重視します。

視点3:「株価の割安度」の判断と市場の「非効率性」の利用
成長性(グロース)だけでなく、「今、割安であるか(バリュー)」という視点を両輪で持ちます。
- 指標による判断:
- PER(株価収益率): 利益水準から見て株価が割高でないか。
- PBR(株価純資産倍率): 企業の解散価値(純資産)に対して、株価が割安か(1倍割れは特に注目)。
- 富裕層の視点: 市場が何らかの理由で企業価値を過小評価している(非効率な状態)を見抜き、その非効率性が是正されるタイミングを予測して投資します。これは、市場が十分に評価していない「隠れた優良資産」を見つける行為です。
視点4:「安定した配当」による不労所得の確保
インカムゲイン(配当金)は、富裕層にとって重要な「不労所得」であり、生活資金の安定性や再投資の原資となります。
- 配当の安定性: 一時的な高配当ではなく、不況期でも減配せず、長期的に増配を続ける「配当貴族」のような安定配当企業を重視します。
- キャッシュフローの質: 配当性向(利益に対する配当の割合)が高すぎないかを確認し、企業が将来の成長投資にも十分な資金を回せているかを判断します。配当は、企業の健全な利益を示すバロメーターでもあります。
視点5:リスクを管理するための「分散」と「バランス」
「集中投資」はあくまで銘柄選定の哲学であり、ポートフォリオ全体のリスク管理を放棄するわけではありません。
- アセットクラス分散: 日本株という単一のカントリーリスクをヘッジするため、海外株式(特に米国株)、債券、不動産、コモディティ(金など)に分散投資し、資産の成長と保全のバランスを取ります。
- 個別株の最大許容リスク: 集中投資といっても、一つの個別株に全資産を投じるわけではありません。許容できる損失額に基づき、個別株(サテライト)の総額をポートフォリオ全体の10%〜20%程度に制限し、コア資産(守りの資産)でリスクを吸収できるように設計します。
3. 日本株の「集中」と米国株の「守り」の使い分け
個別株運用において、日本株と米国株はそれぞれ異なる役割を果たします。
| 項目 | 日本株(サテライト・バリュー) | 米国株(コア・グロース/バランス) |
| 役割 | 市場の非効率性、割安銘柄による超過リターン(アルファ)の追求 | グローバル成長、安定した優良企業による長期的な成長(ベータ)の取り込み |
| 注目点 | PBR、配当利回り、国内市場での競争優位性、中小型株 | イノベーション、市場支配力、金利変動との関係性、世界の景気動向 |
特に米国株は、金利政策やインフレ動向によって株価が大きく変動する傾向があります。富裕層は、日本株で攻めつつ、海外資産ではそのリスクを理解した上で、冷静な判断を下します。
参考: 米国株への投資戦略と金利・インフレとの関係性については、こちらの記事で詳しく解説しています。
富裕層が「ハイリスク投資」を避ける方法|米国成長株と金利の関係性を専門家が解説
4. まとめ:富裕層の個別株戦略は「哲学」である
富裕層の日本株個別投資戦略は、単なる銘柄選びではなく、「時間」「価値」「リスク管理」という3つの要素を統合した資産管理の哲学です。
- 長期投資を味方につけ、短期的な市場の喧騒を無視する。
- 市場が正しく評価していない「真の企業価値」を見抜く。
- 個別株はサテライト(超過リターン)として位置づけ、コア資産でリスクを管理する。
この哲学を実践することで、富裕層は市場の変動に惑わされることなく、着実に資産を築き上げ、次世代へと承継していくのです。
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