富裕層にとって、海外不動産は単なる投資先ではありません。それは、カントリーリスクと円安リスクという二重の危機に備えるための、「資産防衛策」です。

多くの資産家が「言語も法律も違う海外は不安」と感じる一方で、世界の富裕層はなぜ積極的に海外不動産をポートフォリオに組み入れるのでしょうか。本記事では、海外不動産投資を戦略的リスクヘッジとして捉え、特に円安局面をチャンスに変える出口戦略と、知っておくべき税務上のメリットについて、専門家が徹底解説します。

1. 海外不動産投資が解決する富裕層の2大リスク

富裕層が海外不動産に注目するのは、日本が抱える構造的な課題（少子高齢化、国家債務の膨張、円安）と、地政学的リスク（台湾有事、自然災害）といった、二重のリスクを回避するためです。

1-1. 円安リスク対策としての「通貨の分散」

日本国内に資産が集中している場合、円安やインフレが進行すると、資産の購買力が実質的に目減りします。

• 戦略的価値: 海外不動産は外貨建て（現地通貨建て）で資産を保有するため、円の下落時にも資産価値が目減りしにくい為替変動リスクのヘッジ手段となります。円安の今、外貨建て資産を取得することは、将来の円高局面での利益（為替差益）を狙う「出口戦略」の布石となります。
• 収益の安定: 現地通貨で安定的な家賃収入（インカムゲイン）を得ることで、日本円の不安定さに左右されないキャッシュフローを確保できます。

1-2. カントリーリスクと自然災害リスクの回避

日本は地震大国であり、大規模な自然災害のリスクは不動産資産にとって甚大です。また、日本の政治・経済構造が抱える不確実性（カントリーリスク）から、資産を地理的に分散させることは、富裕層の危機管理戦略において不可欠です。

・メリット: 海外に資産を持つことで、日本国内の構造的リスクや自然災害リスクを物理的に分散し、有事の際のセカンドハウスや拠点としての活用も可能になります。

・戦略的視野: 資産防衛の観点から、日本国内の不動産と海外不動産を適切に分散させることは、富裕層の常識です。国内の収益不動産の活用法については、こちらの関連リンクをご参照ください：富裕層のための不動産投資ガイド｜収益不動産からタワーマンションまで

2. 賢明な出口戦略：売却益と税務効率の最大化

海外不動産投資は、購入時だけでなく、売却時（出口戦略）を見据えた戦略的なプランニングが重要です。

2-1. 高いキャピタルゲイン期待と人口増加の相関

人口が増加し経済成長が続いている都市部（例：オセアニア、東南アジア、中東）では、住宅ニーズが拡大するため、不動産価格が中長期的に上昇しやすい傾向にあります。

・戦略: 短期的な売却益を狙うのではなく、人口増加が見込めるエリアで中長期で保有し続ける「バイ・アンド・ホールド」戦略が堅実な資産形成につながります。

・資産の最適化: 不動産投資は、購入後の運用だけでなく、相続や事業承継といったライフイベントを見据えた「出口戦略」が不可欠です。特に相続した不動産の最適な判断基準については、こちらの関連リンクで詳しく解説しています：売る？残す？」富裕層が実践する「相続不動産」の最適化戦略と判断基準

2-2. 法人が活用する「減価償却」による税務メリット

海外不動産は、税務上のメリット（節税）を活用したい法人にとって非常に有用です。特に米国などの海外不動産は、日本と比較して建物評価額の割合が高い傾向にあります。

• 仕組み: 不動産の建物部分の取得費は、税務上の「減価償却費」として計上できます。海外不動産では、日本の不動産に比べ、年あたりの減価償却費を大きく計上しやすいため、法人税の繰延に活用できます。
• 注意点: 2021年の税制改正により、個人の場合は海外中古不動産の減価償却費による損益通算が制限されましたが、法人では引き続き節税のメリットが残されています。

3. 富裕層が実践する不動産投資の見極め方（FAQ）

3-1. Q: なぜ日本の不動産投資より高い利回りが期待できるのですか？

A: 成長著しい都市（アジア圏のジャカルタなど）では、東京と比較して相対的に高い賃貸利回り（インカムゲイン）が期待できます。これは、人口増加による住宅ニーズの拡大や、経済成長率の高さが背景にあります。富裕層は、この安定的なインカムゲインを確保する目的で海外不動産を組み入れます。

3-2. Q: 海外不動産は管理が大変ではありませんか？

A: 以前は言葉の壁や商慣習の違いが大きなハードルでしたが、現在はインターネットを活用した物件選定や、購入後の管理までトータルでサポートしてくれる現地担当者や専門業者の体制が充実しています。信頼できるパートナーを見つけることが、海外投資成功の鍵です。

4. まとめ：海外不動産投資は「攻め」と「守り」を両立する戦略

海外不動産投資は、円安リスクや地政学的リスクといった危機的要因を、資産分散効果と税効率によってチャンスに変える、富裕層の「攻め」と「守り」を両立させた戦略です。

円に偏った資産構成は、構造的なハイリスクを内包しています。海外不動産を戦略的に活用し、中長期で保有し続ける「バイ・アンド・ホールド」戦略を実践することが、富裕層の資産防衛の「新常識」と言えるでしょう。

富裕層の不動産戦略を網羅的に知るには

本記事で解説した海外不動産戦略に加え、収益不動産や相続不動産を含めた富裕層の不動産戦略全体については、こちらの関連リンクをご参照ください。

【関連リンク：【不動産投資完全ガイド】富裕層の「新常識」：相続・収益・海外資産を最適化する鉄壁の戦略】

監修・執筆：渋谷 豊

ファミリーオフィスドットコム株式会社　代表取締役 大学卒業後、邦銀にてキャリアをスタート。大学院を修了後、Citibank N.A.、仏銀ソシエテ・ジェネラル信託銀行、Societe Generale Bank & Trust Singapore において、プライベートバンキングおよびアセットマネジメント業務に従事。海外勤務7年間を含め、グローバルな資産管理の実務経験を有する。 帰国後は、上場企業グループ傘下の投資顧問会社の代表取締役として、富裕層および上場企業オーナー向けの資産運用助言・ファミリーオフィス業務を統括。資産運用・管理領域における実務歴は25年以上に及ぶ。 2019年設立のファミリーオフィスドットコム株式会社において、中立的立場から資産管理・運用に関する総合的支援を提供。また、2019年より、厚生労働省年金局資金運用課（GPIF 所管）の資産運用研修にて講師を務めている。慶應義塾大学大学院修了。

関連記事

富裕層のための不動産投資ガイド｜収益不動産からタワーマンションまで

富裕層のための国内収益不動産戦略：安定収益と「税効率」を最大化する物件の見極め方

【不動産投資完全ガイド】富裕層の「新常識」：相続・収益・海外資産を最適化する鉄壁の戦略

無料講座（オンデマンド）