富裕層の資産承継において、株式(上場株・未公開の自社株)の相続税評価は、納税額を大きく左右する重要な課題です。特に、オーナー企業経営者は、自社株の評価が高騰した場合の対策が急務となります。
本記事では、相続の専門家である税理士の知見に基づき、上場株の評価額を最も安く申告する方法から、未公開の自社株評価を合法的に引き下げる「不動産活用戦略」まで、富裕層が知っておくべき株式の相続申告のポイントを解説します。
[ 目次 ]
1. 上場株の相続申告:評価額を「最も安く」選ぶ方法(HowTo)
上場株は市場で取引されているため評価額は明確ですが、相続税の申告においては、納税者が最も有利になる評価額を四つの選択肢から選ぶことができます。そして、上場株の相続税評価額は、4つの基準から最も低い価格を選択して申告できます。税理士に依頼せずとも、東証の公開データから自身で確認し、申告することが可能です。
1-1. 申告時に選択できる4つの評価基準
相続税法では、上場株の評価額を以下の4つの時点における株価のうち、最も低い価格を選択できることになっています。
- 相続が発生した日(死亡日)の終値
- 相続が発生した月の毎日の終値の平均額
- 相続が発生した前月の毎日の終値の平均額
- 相続が発生した前々月の毎日の終値の平均額
1-2. 最低価格を自身で確認し、申告する手順(STEP形式)
証券会社から送られてくる残高証明書には、亡くなった日の終値しか記載されていません。しかし、富裕層は税負担を減らすため、以下のステップで最も有利な価格を能動的に選択します。
- 【STEP 1】データ収集: 東京証券取引所のホームページなどから、該当する月のすべての終値の平均値を自身で算出します。
- 【STEP 2】最低価格の選択: 算出した4つの価格(亡くなった日の終値、3ヶ月の平均値)を比較し、最も低い価格を特定します。
- 【STEP 3】申告: 税理士が申告書を作成する際、その最低価格を評価額として申告します。
2. 未公開の自社株評価を下げる戦略:不動産活用の極意
オーナー経営者が抱える最大の課題は、業績好調な未公開株の評価が高騰し、高額な相続税負担となることです。自社株の評価を下げるには、会社の資産(純資産)を減らすか、負債を増やすという対策が必要になります。
2-1. 現金資産を「不動産」に換える評価圧縮戦略
自社株の評価額は、会社の純資産(資産から負債を引いたもの)に基づいて計算されます。現金は相続税評価額が100%ですが、不動産は評価額が時価よりも低くなるため、現金を不動産に置き換えることで、株価評価を下げる効果が期待できます。
- 具体例: 1億円の現金で自社ビルや投資用不動産を購入することで、資産(現金)は減り、評価額の低い不動産に置き換わります。これにより、会社の純資産評価額が下がり、自社株の評価も連動して下がります。
2-2. 評価を下げる際の「3年ルール」の法的注意点
自社株の評価圧縮を目的に不動産を購入する際、以下の「3年ルール」について厳密な注意が必要です。
- ルール: 相続税評価額を計算する際、不動産を購入してから3年が経過していない場合、その不動産は相続税評価額ではなく、購入した時の価格(時価)で評価される規定があります。
- リスク: 資産圧縮の効果を得るためには、不動産を買ってから3年が経過していなければなりません。大株主の健康状態によっては、時間的な猶予がない場合もあり、計画的な対策が不可欠です。

3. 相続時精算課税制度と専門家活用の必要性(FAQ)
3-1. Q: 株価が上がり続けると予想される場合、相続時精算課税制度は有効ですか?
A: はい、有効な選択肢となります。相続時精算課税制度を利用して株式を贈与すると、その株式の評価額は贈与した時点の株価で固定されます。その後、株価が大きく上昇し続けても、相続が発生した際に相続税を計算する際の評価額は、贈与時の低い価格が適用されるため、大きな節税メリットがあります。ただし、株価が下がってしまった場合は、贈与時の価格で評価されるため、この戦略には注意が必要です。
3-2. Q: 自社株対策で不動産を購入する際、「不動産特定会社」の判定に注意が必要ですか?
A: はい、非常に重要です。会社の資産の大部分(80%など)が不動産で占められた場合、その会社は「不動産特定会社」と判定され、自社株の評価方法が変わり、評価額が下がりにくくなる可能性があります。税務的なメリットを享受するためには、不動産の保有割合にも細心の注意を払い、専門家に相談して判断することが不可欠です。
3-3. Q: 複雑な株式の相続申告は、税務署に直接聞くべきですか?
A: 税務署に直接相談する際、自分の実態を正確に伝えたり、意図を理解してもらうことが難しいため、専門家なしで相談するのは得策ではありません。税理士を「通訳」として同行させ、客観的な証拠(東証の公開データなど)に基づき、納税者にとって最も有利な評価額を適切に主張することが、後のトラブル回避につながります。
4. まとめ:株式の相続対策は「知識」と「時間」の勝負
自社株・上場株の相続対策は、「知識」と「時間(3年ルール)」を戦略的に活用することが成功の鍵です。上場株は最も安い価格を選定し、自社株は不動産活用で純資産評価を下げるなど、能動的な対策が求められます。
複雑な自社株評価や、税制が絡む不動産活用は、ご自身で判断すると大きなリスクを伴います。税理士などの専門家に相談し、適切な戦略を構築することが、築き上げた資産を次世代に確実に承継するための鉄則です。
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