事業承継の方法を比較・紹介するコラムの第3回は、M&Aによる承継について徹底解説します。M&Aによる第三者への事業承継は、後継者不在の問題を解決し事業の存続を図れる方法として、近年とりわけ中小企業からの注目度が高まっています。
そのため、中小企業を中心に、M&Aによる事業承継の実施件数は増加傾向にありますが、親族内承継や従業員承継と同様に、メリット・デメリットの双方が存在するため注意が必要です。
そこで今回は、M&Aによる第三者への事業承継について、概要やメリット・デメリットなどを、他の事業承継の方法と比較しながら紹介します。
後継者不在により親族内承継・従業員承継の実施が叶わない企業経営者の方は、M&Aについてしっかりと把握したうえで、自社の存続を図るための最適なプランを検討しましょう。
[ 目次 ]
M&Aによる第三者への事業承継とは
M&Aによる第三者への事業承継とは、文字どおり、M&A取引を用いて自社の事業を引き継ぐ行為です。M&Aとは、「Mergers&Acquisition」の頭文字を取った言葉で、企業間での合併および買収行為をさします。
M&Aによる第三者への事業承継は、株式譲渡・事業譲渡などの手法で実施されるケースが多いです。株式譲渡は簿外資産・負債もすべて引き継ぐ点、事業譲渡はあくまでも企業の事業について全部または一部を引き継ぐという点にそれぞれ特徴が見られます。
また、M&Aによる第三者への事業承継は、以下の流れで進めていきます。
- 企業(事業)価値の算定
- 譲渡先の決定
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
- M&A契約の締結
- M&Aの実行
上記のとおり、M&Aを用いて事業承継を行う際は、企業(事業)価値の算定や各種契約などの手続きを実施するうえで専門知識が求められます。そのため、スムーズに手続きを進めていくには、M&Aの専門家からサポートを得ることが大切です。
M&Aによる第三者への事業承継が増加する要因
株式会社レコフによると、M&Aによる第三者への事業承継の実施件数は、2011年から2018年の8年間で約4倍にまで増加しています。これに対し、親族内承継の実施件数は減少傾向にある状況です。
近年、M&Aによる事業承継の注目度が高まっている要因のひとつに、中小企業を中心に深刻化している後継者不在の問題が挙げられます。少子高齢化の影響により、日本では経営者の跡を継ぐ人材が不足しているのです。
そのため、外部から広く後継者を求めるべく、M&Aによる第三者への事業承継を実施する中小企業が増加しています。
参考URL:株式会社レコフ「事業承継とは ―事業承継M&A市場の全容―」
M&Aによる第三者への事業承継に対するイメージ
中小企業庁および東京商工会議所は、中小企業・小規模事業者がM&Aに対して抱いているイメージを以下のとおり示しています。

出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
M&Aについて「よくわからない」と回答した割合は50%近くにのぼり、M&Aの周知が行き届いていない現状が見て取れます。
後継者不在の問題を抱える経営者としては、親族内承継・従業員承継の道が絶たれたからといって事業承継の実施を諦めてしまうのではなく、M&Aによる第三者への事業承継の可能性を探ることが大切です。
自社の存続を図るためにも、事業承継準備の一環として、M&Aに関する知識の収集も行うようにしましょう。
M&Aによる第三者への事業承継のメリット・目的
ここでM&Aによる第三者への事業承継のメリット・目的をまとめて確認しておきましょう。
- 後継者人選の幅を拡大できる
- 大きな売却利益を得られる可能性がある
- 個人保証や担保提供から解放されハッピーリタイアを実現できる
- 個人保証・担保提供から解放される
- 事業意欲の高い会社とM&Aすると、相互の発展が狙える
- 従業員の雇用を維持しながら成長機会も与えられる
M&Aを用いると、親族内承継・従業員承継よりも格段に幅広い人材から後継者候補を選べます。そのため、その他の事業承継の方法では次期経営者に相応しい人材が見つからずに困っている場合に、M&Aの活用は特に有効です。
また、M&Aによる事業承継では、経営者は売却利益を獲得できます。大手企業への売却に成功すればまとまった金額を得られて、引退後の生活資金などに充てることも可能です。
さらに、M&Aでは、相手企業との相性次第で、事業の大きな発展も狙えます。
これに対して、親族内承継を選べば、売却利益は得られません。また、従業員承継において後継者の資金力が不足している場合、現在の経営者に負担が求められるおそれがあります。
加えて、親族内承継では、必ずしも後継者に相応しい人材が見つかるとは限らず、事業承継後に業績を大きく落としてしまうおそれもあるのです。
M&Aによる第三者への事業承継のデメリット・注意点
経営者にとって非常に魅力的なM&Aによる第三者への事業承継ですが、以下のようなデメリットもあるため注意しましょう。
- 専門知識・相手企業を探すために幅広いネットワークが求められる
- 専門家へのサポートの依頼で多額のコストがかかりやすい
- 期待していたほどに事業の発展が叶わないケースもある
- 従業員や取引先などの関係者から反発を受けやすい
M&Aによる第三者への事業承継では、事業承継だけでなくM&Aに関する専門知識・実務能力も求められます。そのため、専門家のサポートが必要不可欠となり、多額の依頼費用がかかってしまいやすいです。
また、M&Aの実施について、会社の関係者から反発を受けやすい点もデメリットだといえます。最悪の場合、従業員の業務に対するモチベーションが低下したり、取引先から取引を打ち切られてしまうおそれもあるのです。
M&Aによる第三者への事業承継を成功させるポイント
ここまでに紹介したメリット・デメリットを踏まえると、M&Aによる第三者への事業承継を実施する際には、以下のポイントを実践すると成功確率を高められます。
- 完全成功報酬タイプの手数料体系を採用する専門家を選ぶ
- あらかじめ自社の企業価値を高めておく
- 会社の関係者に丁寧に説明して理解を得る
以上を押さえて、綿密な計画のもとでM&Aによる第三者への事業承継を進めていきましょう。
まとめ
親族内承継・従業員承継とは異なり、M&Aによる事業承継では第三者から広く後継者を探し求められます。また、規模の大きい企業を相手にM&Aすれば、経営者は売却利益としてまとまった金額を獲得可能です。
ただし、M&Aによる第三者への事業承継では多額のコストがかかりやすいため、成功時にのみ費用を支払う完全成功報酬タイプの専門家に依頼すると良いでしょう。加えて、事前に企業価値を高めて、少しでも多くの売却利益を得られるよう努めることもおすすめします。
いかにして従業員・取引先から理解を取り付けるのかも検討しながら、専門家によるサポートのもとで適切に手続きを進めていきましょう。
なお、事業承継の準備を進める際には、以下にも注意してください。
- 独断では⾏わない
- 複数の専⾨家から意⾒を集約し判断する
- 時間をしっかり掛けて対応する
上記を守って正しく進めていきましょう。
関連記事
2024.08.25
プロフィギュアスケーター 鈴木明子さん対談企画。失敗しないポートフォリオ運用について
2大会連続のオリンピック出場、2013年全日本選手権優勝、2012世界選手権銅メダルなど輝かしい...
- プレミアム・ファミリーオフィス
- 投資
- 資産運⽤サポート
2025.03.30
金価格は3500ドルを射程に入れるか?歴史的高値更新後の展望と警戒点
金価格が史上初めて1トロイオンス3,000ドルを突破し、市場は熱狂と慎重さが入り混じる複雑な...
- 資産運⽤サポート
- 投資
2025.03.27
【米国株】先週の反発は短期的で一過性のものか?【3/24 マーケット見通し】
本日のテーマは、『米国株 先週の反発は短期的で一過性のものか?』です。 先週はアメリカの3...
- 資産運⽤サポート
- 金融