相続対策の手法は多種多様ですが、一定以上の資産を保有する方にとっては、資産管理会社の活用も有力な選択肢となります。
近年は、資産承継や税負担の最適化を目的として、富裕層やファミリーオフィスを中心に資産管理会社を活用するケースも増えています。
資産管理会社を設立することで、生前からの継続的な節税や資産承継の柔軟性が高まるメリットがある一方、注意すべき点も存在します。
本記事では、資産管理会社を使った相続対策のメリットとリスクについて解説します。
[ 目次 ]
資産管理会社の役割
資産管理会社(プライベートカンパニー)は、個人が保有する不動産や有価証券などの資産を管理・運用する目的で設立する法人をいいます。
法人の設立手続き自体は一般的な会社と同様ですが、基本的にはオーナーが保有する資産の管理・運用に特化しているため、それ以外の事業は行わないケースが一般的です。
オーナーの相続が発生した場合、通常は個人が所有する不動産などをそのまま相続することになります。
しかし、保有資産をあらかじめ資産管理会社へ移しておけば、会社の株式を相続することで実質的に資産を引き継ぐことができるため、資産承継を進めやすくなります。
また、近年では、長期的な資産保全や世代間承継を重視するファミリーオフィスにおいても、資産管理会社を承継スキームの中核として活用する例がみられます。
資産管理会社を活用するメリット
資産管理会社を活用する主なメリットは次の3点です。
税率差と経費計上による税負担の軽減
個人と法人では課税体系が異なるため、資産管理会社を活用することで利益に対する税負担を抑えられる場合があります。
個人の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど税率も高くなります。一方、法人は法人税に加えて地方税等も課されますが、一定以上の所得がある場合には、個人より実効税率を抑えられるケースがあります。
また、法人は個人よりも経費として認められる範囲が広く、資産管理に伴う支出を適切に計上することで、課税所得を抑制しやすくなる点も特徴です。
所得分散による税負担の軽減
所得税は累進課税であるため、オーナーの所得が大きくなるほど税率は高くなります。
しかし、所得を法人と個人に分散させることで、適用される税率を下げ、実質的に税負担を軽減できる可能性があります。
また、家族を役員や従業員として迎え、役員報酬や給与を支給することで所得分散を図ることも可能です。
ただし、役員報酬や給与については、実際の業務実態や金額の妥当性が求められるため、形式的な運用には注意が必要です。
株式保有による相続税評価の抑制
資産管理会社を通じて資産を保有すると、相続税の計算では会社の株式を評価する形となります。
そのため、資産構成や収益状況によっては、個人で直接保有する場合よりも相続税評価額を抑えられるケースがあります。
また、役員報酬や従業員給与を支給している場合には、会社内部に利益が過度に蓄積されにくくなるため、株価の上昇を抑える効果も期待できます。
さらに、遺産分割では株数によって承継割合を調整できるため、相続人間で取得する財産や金額を巡る対立を抑えやすくなる点もメリットです。
資産管理会社の活用が向いているケース
以下のようなケースでは、資産管理会社を活用した相続対策が有効となる可能性があります。
- 賃貸不動産収入が安定的にある
- 将来的に相続税の課税が見込まれる
- 家族内で計画的に資産承継を進めたい
- 長期的な資産管理体制を構築したい
- 法人を活用した資産運用を検討している
一方で、資産規模が小さい場合や、将来的な承継方針が定まっていない場合には、法人化によるメリットが限定的となるケースもあります。
資産管理会社を活用する際の注意点
資産管理会社を活用した対策を講じる場合には、事前に実務上で生じる負担や将来のリスクを把握しておくことが重要です。
会社の設立・運用コストの発生
資産管理会社を設立する際は、法人の設立費用が発生します。
また、オーナーが保有する不動産等を資産管理会社へ移転する際には、譲渡所得税のほか、不動産取得税や登録免許税などのコストが発生する場合があります。
さらに、税務申告や会計処理、社会保険料などの維持管理コストも継続的に必要となります。
個人で資産を保有する場合より実務負担は増えるため、顧問税理士を含めた管理体制の整備も重要です。
維持管理コストが節税効果を上回る場合には、期待した効果を得られない可能性があるため、設立前に費用対効果を慎重に検討する必要があります。
株式の取得割合に起因する相続トラブルの可能性
資産管理会社の株式は、相続人の数などに応じて分けることができますが、相続人ごとの保有割合が将来の対立を生む可能性があります。
たとえば、複数の相続人が同程度の株数を保有した場合、経営方針などを巡って意思決定が停滞することがあります。
また、特定の相続人が株式の大半を取得する際には、他の相続人へ代償金の支払いが必要となるケースもあります。
そのため、相続対策として会社を設立する場合には、家族間の関係性や将来の承継方針を踏まえた株主構成の設計が重要になります。
非上場株式の評価方法の見直し
近年は、資産管理会社を利用した相続対策への注目が高まる一方で、非上場株式の評価方法に関する制度見直しも議論されています。
令和8年4月末現在、非上場株式の評価方法の見直しが検討されており、評価方法が変更された場合には、現行よりも非上場株式の相続税評価額が高くなる可能性があります。
その結果、資産管理会社を活用した相続税対策の効果が縮小することも考えられます。
そのため、制度改正の動向を定期的に確認し、必要に応じて資産構成や承継計画を見直すことが重要です。
参考:第1回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨(国税庁)
国税庁
資産管理会社の活用を検討する際の判断軸
資産管理会社を活用した相続対策は、資産構成や家族関係、将来の承継方針によって効果やリスクが大きく異なります。
不動産等の収益に対する節税効果が一定程度見込まれる場合でも、会社の維持管理コストがそれを上回るのであれば、資産管理会社を設立するメリットは限定的です。
また、家族間の関係性や将来の株主構成をどこまで設計できるかも重要であり、承継後の運営体制が具体的に描けない状況では、法人化そのものが将来的なトラブル要因となる可能性があります。
そのため、節税だけでなく、資産管理の効率化や承継の円滑化といった視点から、自身の状況に資産管理会社が適しているかを総合的に判断することが重要です。

