米国市場 DAILY INSIGHT 2026年10月23日
世界的なリスク回避の流れが金融市場を揺さぶっています。22日の東京市場で日経平均株価が大幅に下落したのに続き、米国でもハイテク株が急落しました。一方、外国為替市場では円の買い戻しが進み、一時1ドル=156円台、1ユーロ=175円台となりました。背景には、巨額のAI投資に対する収益化の遅れと資金負担への警戒、米中間選挙やフランスの政情不安、そして中東情勢の緊迫化という3つの要因が複雑に絡み合っています。
メタの決算がAI投資への警戒を再燃させる
株安のきっかけの一つとなったのは、米メタ(旧フェイスブック)の決算と今後の投資計画です。同社の2026年7〜9月期決算は、売上高が前年同期比26%増の646億ドルと市場予想を上回りました。しかし、2026年12月期の設備投資計画については、下限を従来から50億ドル引き上げ、1,350億〜1,450億ドルへと修正しました。
加えて、同社の最高財務責任者(CFO)が、新たなAI分野への投資は既存事業への投資よりもリターンを生むまでに時間がかかるとの見方を示したことで、投資家の間に収益性への不透明感と資金負担への警戒が広がりました。実際、7〜9月期の設備投資は349億ドルに膨らんで営業キャッシュフローを上回り、フリーキャッシュフローは21億ドルの赤字となりました。
ただし、同社はAI投資が広告収入の増加にすでに貢献しているとも説明しています。AI投資全体が収益を生んでいないわけではなく、既存事業への効果と、新規事業の投資回収にかかる時間を分けて見る必要があります。
将来のリースや契約上の支払義務なども、約8,250億ドル規模に達するとされています。ただし、これは現在の借入債務とは異なり、支払時期や契約条件を含めて確認する必要があります。
半導体・AI関連株に売りが波及
メタの投資負担への懸念は、データセンター需要を追い風としてきた幅広いAI・半導体関連銘柄へと広がりました。米ナスダック総合株価指数は前日比2.6%安と大幅に下落し、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は7%安と急落しました。半導体製造装置のラムリサーチが12%安、ネオクラウド事業者のコアウィーブが10%安、ネビウス・グループが7%安となるなど、資金調達環境への警戒感があらわになりました。
これに先立つ22日の東京株式市場でも、「AIツルハシ銘柄」と呼ばれる半導体・インフラ関連株が軒並み急落していました。日経平均株価の終値は前日比1,713円40銭(2.65%)安の6万2,907円84銭となりました。個別では、東京エレクトロンが7%安、イビデンとSCREENホールディングスが9%安、アドバンテストとフジクラが6%安と、大きな売り圧力にさらされました。
欧米の政治・財政不安がもたらす円高
株安と並行して進んだのが円高です。22日の外為市場で円は一時1ドル=156円台へ上昇し、対ユーロでも1ユーロ=175円台をつけました。今回の円高は、日本固有の魅力によるものというより、欧米が抱える政治・財政リスクへの警戒や、リスク回避に伴う持ち高の巻き戻しによって生じた円買いの側面があるとみられます。
米国では、11月3日の中間選挙を巡り、選挙後の政策運営への関心が高まっています。民主党内にはAI規制やデータセンター課税を主張する候補もおり、株式市場をけん引してきたIT企業の成長鈍化への懸念につながっています。
一方、共和党が過半数を維持した場合でも、トランプ大統領が掲げる現金支給策などによる財政赤字拡大への懸念は残ります。ただし、財政拡張は米金利の上昇を通じてドル買いにつながる場合もあり、選挙結果だけでドル安を判断することはできません。
原稿で引用されたSBI FXトレードの調査によれば、1986〜2022年の中間選挙10回のうち9回で、11月末から翌年1月末にかけて円高・ドル安が進みました。ただし、これは選挙直後の値動きではなく、特定の期間を比較した過去の傾向です。今回も同じ動きになるとは限りません。
欧州では、政情不安と財政再建の難航に揺れるフランスのリスクが表面化しています。フランスの10年物国債利回りは一時5.1%台と、2002年7月以来約24年ぶりの高水準に上昇しました。抗議デモの拡大や2027年予算案の採決延期などで財政懸念が強まり、安全性の高いドイツ国債や米国債が買われました。
その結果、独仏の10年債利回り差は1.7ポイント台と欧州債務危機以来の水準に拡大し、米10年債利回り(4.9%台)が仏10年債利回りを下回る動きも起きました。こうした不安からユーロが売られ、円やスイスフランが買われる動きにつながっています。
中東の地政学リスクと原油高がリスクオフを増幅
市場のリスク回避姿勢をさらに強めたのが、中東情勢の緊迫化です。米紙の報道によれば、米国とイスラエルは米中間選挙後にイランのエネルギーインフラなどを標的とする攻撃再開計画を策定したとされています。
また、サウジアラビアの石油関連施設や空港への攻撃が続く中、サウジアラムコが本社従業員に退避してリモート勤務へ切り替えるよう指示したと報じられました。ただし、同社からの公式コメントは得られておらず、退避の理由も明らかになっていません。
これを受け、原油先物相場は上昇しました。WTI12月限は2.4%高の1バレル99.47ドル、ブレント原油は約4%高の113.17ドルとなり、エネルギー供給への懸念が再燃しました。原油高によるインフレ圧力や地政学上の不透明感は投資家のリスク許容度を低下させ、ハイテク株の持ち高解消を促す要因となりました。
為替市場では、原油高を受けたドル買いの場面もありましたが、その後はリスク回避の円買いや米長期金利の低下を背景に、ドルが対円で反落しました。
原油上昇でも米国債が買われた意味
もう一つ重要な変化は、米国債の反応です。
通常、原油高はインフレへの警戒を強め、国債利回りの上昇要因になります。しかし今回は、米10年国債利回りが約15bp(0.15ポイント)低下して5%を下回り、2年債や30年債の利回りも大きく低下しました。
この動きからは、原油高によるインフレ懸念以上に、株安や先行きの成長への警戒、安全資産を求める動きが意識されたことがうかがえます。米金融政策の見通しの変化も含め、金利低下の背景を見極める必要があります。
ここは、資産管理の観点でも重要です。株式と国債が同時に下落する局面では、債券を組み入れていても十分な分散効果が得られません。一方、今回のように株安時に国債が上昇する動きが続けば、米国債が再びポートフォリオの下落を和らげる役割を果たす可能性があります。
ただし、一日の値動きだけでは判断できません。今後のPCE物価指数などがインフレの根強さを示し、株安の中でも米金利が再上昇するようなら、今回の国債買いは一時的な逃避需要だった可能性が高まります。
確認したいのは、金利がどこまで下がるかだけではなく、株式が再び売られたときにも国債が買われるかどうかです。その関係が続くかが、債券の分散効果を見極める手掛かりになります。なお、円ベースで保有する場合は、為替変動や為替ヘッジの有無によって運用結果が異なります。
選別買いが進む株式市場と今後の展望
全体としてリスク回避の売りが優勢となる中でも、株式市場では選別買いによる二極化が見られます。プログラミング言語「PHP」の深刻な脆弱性や、AIを使ったサイバー攻撃の脅威への警戒を背景に、システム更新やセキュリティー関連株には買いが集まり、トレンドマイクロが9%高、野村総合研究所と富士通が3%高となりました。
また、AI関連株の一斉売りについては、需要の基調は変わっておらず、売られすぎた銘柄には押し目買いの機会があるとする強気な見方もあります。
足元の市場の混乱は、AI投資の収益化への懸念、欧米の政治・財政の不透明感、中東の地政学リスクという複数の要因が同時に表面化した局面といえます。各国の金融政策決定や米中間選挙、主要テック企業の決算発表が相次ぐ中、当面はこれらの材料を受け、株式・債券・為替の値動きが大きくなる可能性があります。
まとめ
私が今回特に注目しているのは、AI投資への警戒が、企業ごとの選別にとどまるのか、それとも市場全体の資金調達や投資計画に影響するのかという点です。
メタの売上高は伸びており、AIによる広告収入の押し上げ効果も説明されています。一方、設備投資は営業キャッシュフローを上回りました。成長していることと、その成長を支える資金に余裕があることは、分けて考える必要があります。
今後の決算で収益化の道筋が具体的になり、資金調達への不安も落ち着くのであれば、今回の下落は企業ごとの評価を見直す局面になる可能性があります。財務体力や投資効率に応じて株価に差がつくなら、市場が冷静に選別を進めているとも捉えられます。
一方、大手企業が資金負担を理由に投資計画を縮小するのであれば、半導体や設備、電力関連へと業績見通しの見直しが波及する可能性があります。資金を出す側の問題が、受注する側の問題へ変わるかどうかが、次の分岐点です。
その広がりを判断するために、株価と併せて確認したいのが社債市場です。米国債が買われて金利が下がっても、企業の社債と国債の利回り差が広がるのであれば、企業の資金調達環境が改善したとはいえません。個別企業への警戒が、信用力の高い企業にまで広がるかどうかを見る必要があります。
また、原油高の中で米国債が買われたことは、ポートフォリオを考えるうえで見逃せません。今後も株安時に国債が買われるなら、債券による分散効果を改めて評価できます。ただし、原油高が長引き、インフレへの警戒から株式と国債が再び同時に売られるようなら、対応は変わります。
円高も、欧米への不安や持ち高の巻き戻しが中心なのか、日米金利差の縮小を伴うものなのかによって、持続性が異なります。今回の動きを、そのまま長期的な円高への転換と捉えるのは早いでしょう。
私は現時点では、今回の市場を、成長期待の大きさに加え、その成長を支える資金と投資回収の確かさが問われる局面と捉えています。値下がりの大きさだけで判断せず、企業の収益見通し、信用市場の反応、そして株式と国債の関係を確認することが、次の対応につながります。
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