2021年の資産運用のリスクについて考える〜(2)ゴールド・金価格について

2021年の資産運用のリスクについて考える〜(2)ゴールド・金価格について

2021年以降、超保守的に資産管理を進めるために、注目すべきリスクを今後数回に分けて取り上げていきます。今回は、国際分散投資のポートフォリオ運用に欠かせないアセットである金・ゴールド価格についての見通しをお伝えします。

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2020年末時点では2021年は金価格の上昇がメインシナリオだった

2020年末に金融機関各社から出された金価格の見通しの多くは、1)低金利政策の継続、2)実質利回りの低下、3)米ドル安、という3つのポイントで金価格の上昇をメインシナリオにしたものでした。

特に2021年は新型コロナウイルスのワクチン接種が欧米でスタートし、世界経済が回復するものの、コロナ前の水準まで回復するには数年かかることから、景気の下支えとして金融緩和策と大型財政支援策の継続は不可欠であるこという分析が多く見られました。

変化の兆しが見られる2021年の年始

しかし、2021年の年始から、このメインシナリオに少し変化の兆しが出てきました。そのきっかけは、米国の10年金利の上昇したことです。

米国の10年長期金利は、2020年12月30日の0.918%から2021年1月12日(時点)の1.144%まで市場予想を超える上昇レンジに届いています。

また、それにともない米国の10年実質金利は1月4日の−1.08%から、1月12日の−0.93%(出典:U.S.DEPARTMENT OF THE TREASURY)まで上昇。

さらに、米ドルの価値を判断するドルインデックスも、1月5日の89.430から徐々に上昇し、ドル高傾向が維持されています。このように金価格高の要因とされた3つに変調の兆しが見られています。

その背景は、

1)1月6日のジョージア州の上院議員選挙において民主党が2議席獲得し民主党が上院議員の過半数を占め、今後より積極的な財政政策が継続すること。2021年第1四半期に1兆ドルの追加経済支援策が可決されるとの見込みから、国債の大量発行による金利上昇の可能性を市場が織り込みにいっていること、

2)12月に開催された米FOMCにて、ごく少数ではありますが「テーパリング(量的緩和策による金融資産の買い入れ額を順次減らしていくこと=金利が上昇する可能性が高い)の開始」について言及があったことなどが理由に挙げられます。

このように、金価格高の大前提であった3要素に変化の兆しが見られたことから、先行き不透明感が話題となってきました。では、本当に金価格の上昇可能性は低下しつつあるのでしょうか?

1オンスあたり金先物価格(米ドル)
出典:Investing.com

メインシナリオには必ずサブシナリオがある

おそらく、このまま金利が上昇を続けた場合、金価格は下落する公算が高いと思われます。しかし、このようなメインシナリオに対して必ずサブシナリオが存在します。そのサブシナリオになるとしたらどのような要因があるかを挙げてみたいと思います。

1)コロナワクチンの普及の遅れや期待通りに感染者数を沈静化出来なかった場合、さらなる財政支援や金融緩和が行われる可能性があります。その結果、国債の大量発行により金利が上昇するような局面になりますが、FRBが導入に慎重とされているYCC(イールドカーブコントロール=長期金利にも誘導目標を定める手法)を市場の予想に反して始めた場合、長期金利は低位安定しつつ、ドルの通貨量が増えるによりドル安=金高になる可能性があります。

2)また、リスクヘッジで金への需要が高まる可能性もあります。前述のように新型コロナ感染の拡大が続いた場合、景気見通しや企業業績の見通しにも悪影響があるかと思います。その結果、株式市場などを筆頭に資産価格の変動率(ボラティリティ)が上昇することが想定されます。

多くの機関投資家や年金基金は、ポートフォリオのボラティリティ上昇時には、金へのアロケーション(投資割合)を増やしリスクを低下させる取引を行う傾向があります。そのため、金への需要が増え、金価格が上昇することも考えられます。

3)さらに米国の国債が大量に発行されたことで、米国債の格付けがもしもネガティブウォッチや格下げになるようなニュースがでるようなことがあると米ドル売による金への資金流がおこるかもしれません。

4)中国の予想を上回るような景気回復で、昨年大きく落ち込んだ金への装飾品需要(昨年は40%減)が復活すること、また、中央銀行の金需要の復活など実需が回復することで金への需要が高まる可能性もあります。

まとめ

このようにメインシナリを覆すような要因は常に市場には存在しています。資産運用の世界において、アセットの将来の価格を予測することはとても困難です。

だからこそ、私たちは、アセットのリターンに関する類似性とリスクについて深く理解しておく必要があります。それは、過去に似たようなリターンを持つアセットは将来も似たようなリターンを持つ傾向にあり、リスクについても同等のことが言えます。

その観点からすると、ポートフォリオにおいて金の役割は、米ドルとの逆相関や安全資産としてポートフォリオの変動幅(リスク)を低下させることにあります。

また、ワールドゴールドカウンシルのレポートによると、5%のボラティリティを持つポートフォリオでは4.9%、10%のボラティリティを持つポートフォリオでは8.7%程度、金を保有することが期待収益率にも効果的であるとされています。

短期的目線ではなく、中長期の目線で金を含めた正しいアセットへのアロケーションを行うことこそが、先行きの不確実性が台頭したときには欠かせないと思います。

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