皆さんこんにちは。ファミリーオフィスドットコムです。本日は5月19日水曜日。今週の中間チェックをお伝えします。
本日のテーマは、米国ハイイールド債券の動向についてです。最近は特に、株式市場が少し高値圏にあり、今は低金利であるものの徐々にインフレ傾向が高まり、これから近い将来金利が上昇していくのではないかと言われています。
債券や株にお金が集まっているため、全てが高値圏で推移しており、なかなか投資ができないと悩んだ結果、ハイイールド債券と呼ばれるアセットクラスにイールドを目当てに注目が集まっていますし、投資の興味を持たれる方がとても多いようです。
そこで、本日の内容はハイイールド債券が今の投資環境、金融市場において投資すべきタイミングかどうか、過去の実際の値動き動向を踏まえ、一歩踏み込んだ分析を行います。
さらに、今がハイイールド債券への投資に向いたタイミングかどうか。仮に適したタイミングだとすれば、今後どのような点に注意を払えば良いのかをお伝えします。
最近は、イールドハンティング(金利が高いものに対して投資するお金が集まってくる傾向のこと)と言われています。冒頭にお伝えしたように、世界中で株価が上がり、PERは歴史的にもかなり高い水準を示しています。
一方で債券も、低金利が進むことで債券価格も上昇し、これから金利が徐々に上がっていくことを考えると、将来、価格が値下がりすると懸念されています。
そこで、どういった資産を狙っていけばいいのかと考えたとき、大きく値上がりを狙うのではなく、安定的に金利が得られるようにイールド(金利)のハンティングに目を付けた投資が、景気の終盤や上昇過程で注目される傾向があります。
ということで、今、ハイイールド債券に注目が集まっているのですが、ハイイールド債券は皆さんご存じの通り、債券ではありますが、普通の債券よりも高い金利が特徴です。
棒グラフで示したように、普通のドル建ての適格社債だと3%に届かないぐらいの利回りですし、新興国債券でも4%。それよりも高いのがハイイールド債券で、アメリカの債券ではあるものの4%を超えるような金利になっています。米国債や株式の配当に比べても十分に高いことから、安定的なクーポンを得たいということでお金が集まる傾向にあります。
さらに、右のチャートをご覧ください。債券の中でも、とても高いパフォーマンスを残していることに注目が集まっています。ここ5年間でいうと、青線の米国株式が一番高い上昇率になっていますが、他の米国債、新興国債券、投資適格社債と比べると、ハイイールド債券はとても堅調に推移しています。
そのことから、ただクーポンが高いだけではなく、パフォーマンスが安定しているとして、より注目が集まっています。
では、こういったハイイールド債券が投資対象として適切なのかどうかを見ていく前に、ハイイールド債券で一番代表的なETFを、簡単にご紹介します。
こちらをご覧ください。もっとも有名なのが、iシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債(HYG)です。こちら、米国企業が出している社債の中で、格付けが少し低いトリプルB以下なので、ダブルB以下の債券を集めたものになります。
普通の社債やアメリカの国債よりも高い利回りが得られるとして、注目を集めています。トータルリターンという、出てきたクーポンを再投資した場合の基準価格の推移は、2007年の設定依頼で年率5.48%と、非常に高い水準になっています。
また、少し細かいですが、実行デュレーションが3.72年です。金利がこれから上がって1%上昇しても、3.72%ほどしか価格は下がらないということです。デュレーションが短いのは、今後金利上昇局面に向いているとして、HYGなどに投資する方が増えているのだと思われます。
さらに、一番下のチャートをご覧ください。2007年4月4日から取っていますが、トータルリターンでは非常に堅調に上がってきています。もちろん、リーマンショックやチャイナショック、コロナショックのときには下落しているものの、長い目で見ると上がっています。そこで、投資対象に向いていると言われているのです。
実際に、ハイイールド債券が今のタイミングに合うかどうかを見てみましょう。こちらのグラフは2008年以降の、アメリカ10年金利とハイイールド債券であるHYGの動きを比較したものになります。
まずは、なぜ10年金利で比較したかご説明します。これから金融政策が徐々に景気回復とともに出口戦略に向かっていき、政策金利もいずれ引き上げられ、10年金利が上昇していくのが市場コンセンサスです。さらに、インフレ懸念も台頭してきていますから、将来的には金利が上がると十分に予測されます。
投資には短期的なものがありますが、ETFになるとある程度中長期で持つことが多いですから、金利が上がっていく状況で債券のETFを持っていいのかどうかとして、10年金利とこういった投資を比較することが多いのです。
今回見ていただきたいのは、過去2008年以降、10年金利がボトムから1.5%上がったときのパフォーマンスは、HYGと比べてどうだったかです。
実際に過去、3回ほどありました。2008年、2012年中盤~2013年、2016年の3つのシーンにおいてアメリカ10年国債をもし持っていれば、最初の2009年代は-9.7%でしたが、ハイイールド債券は30.5%です。
2012年中盤~2013年は、-8.7%と10年国債がマイナスになっていますが、HYGは大きく上昇して、58.1%のプラスです。さらに、2016年近辺では-10%に対して、13.8%のプラスということで、これから見る限り、これからアメリカ10年金利が、今の水準より1.5%上がったとしても、HYGは十分な収益を上げると考えられます。
ですから、今の金利が上がっていく状況においては、HYGに投資しようかと考える方が多いかと思いますが、さらに深い分析を行い投資対象になるか判断したいと思います。
ただ、この「長期金利が上昇中はHYGのパフォーマンスが上がる」、これを本当に信じていいのかどうかを確認する必要があります。次に、1986年以降の米国ハイイールド債券の推移を、ICEという、インデックスを作っている会社が作った、トータルリターンを表したもので見てみましょう。
ご覧の通り、青い線(枠)が各金利上昇局面ですが、そういった局面においてもかなり高いパフォーマンスを、ハイイールド債券は残していることが分かります。そもそも、こうやって見ると、ハイイールド債券はすごくリターンが大きく安定的なので、長い期間保有していると、かなり凸凹はあるものの、リターンが出ていることが確認できます。魅力的だと思われる方も多いと思います。
ただ、長期金利の上昇だけで投資判断をするのはリスクがあるかと思います。改めて注意深く見ると、一つのポイントが見えてきました。それは、10年金利、名目金利で見ていくよりも、実質金利のトレンドで見なければ間違えてしまうということです。
上のチャートをご覧ください。10年実質金利が青い曲線、10年名目金利が赤い線になります。青枠は2008年、2012年、2016年以降のいずれも、名目金利が上昇していることが分かります。
そんな中、下のハイイールド債券パフォーマンスは緑の線ですが、その期間中は30%、58%、13%と大きく上昇していますから、金利が上昇すれば上がるのだと思われるかもしれません。
ただ、細かく見ると上の表の青い線は、10年実質金利です。大事なことは、細かく見ると名目金利に反応していることよりも、10年実質金利が長いトレンドにおいて低下局面において、このハイイールド債券は高いパフォーマンスを表すということです。
実質金利がマイナスに推移する、低下する過程においては、現金のままで置いておくとお金の価値が下がっていくので、現金の価値を失わないためにも、株や債券にどんどん投資する状況が、実質金利の低下だと思ってください。
この実質金利がマイナスになってくる状況というのは、投資をしましょうと催促された状況です。そんな状況下、赤い矢印で表したもののように、2008年~2013年まで実質金利が長期的なトレンドとしてずっとマイナスになっていました。
その結果、HYGといわれるハイイールド債券の投資が促され、株価が大きく上昇することに伴い、ハイイールド債券も買われている傾向があります。
一方で、実質金利が上昇した後、ボックス圏に入った後は、クーポンが5%近くあるのでパフォーマンスは上がってきますが、上昇率は低下しているというのが、ボックスになります。その後、さらに実質金利が右の矢印のように低下する局面になれば、改めてHYG、ハイイールド債券の価格が上がってきたと言われています。
つまり、これからHYGやハイイールド債券に投資を判断する際は、10年名目金利の上昇を見るのではなく、10年実質金利が低下する局面においては、より投資が活性化して不動産や株が上がるのと同じように、リスク商品としてハイイールド債券が上がっていくと、考えていただきたいと思います。
では、今後の金利動向がどうなるのかというと、今までもお伝えしていますが、恐らくこれからインフレ懸念が台頭してきます。台頭してくるということは、FRBがいずれ短期金利を上げる政策に踏み込むことになります。短期金利が上昇すれば、つられて10年名目金利も上昇すると考えられます。名目金利が上昇すれば、景気が抑えられ、インフレ率が低下することになります。
そうなれば、実質金利は“名目金利-インフレ率”ですので、実質金利のトレンドとしては、今後マイナスから上昇するトレンドに戻っていく。チャートの青矢印のような形を考えるのが一般的なストーリーになります。
ということは、先ほどの説明にあったように、実質金利が低下していくトレンドにおいては、HYGやハイイールド債券の価値は上がりやすい傾向にある一方で、実質金利の低下がとどまり、上昇する局面になれば、ハイイールド債券に対するお金の流入が一定数になり、価格が上がりにくくなります。
過去のように名目金利が上がっていくから、今後も上がりやすい状況かというと、そこについては実質金利の動向を踏まえると少し慎重に考える必要があるでしょう。
ということで今回、金利的な側面から見る場合には実質金利で見ましょう。実質金利は今、0.9%ぐらいのマイナスですが、これが-1%~2%と進むとは少し考えづらく、より0%に近づく上昇トレンドに入ってくることを考えれば、HYGやハイイールド債券は、タイミングとしては慎重に考えたいと思います
二つ目の注意点です。これはハイイールド債券の特徴ですが、実質金利がマイナストレンドのとき、株式にお金が行くのと同じように、ハイイールド債券にお金が行きやすい傾向があります。
ということは、株式と同じような動きをしていて、国債とは違う動きをする。つまり、株式と非常に相関の高い状態になっていると思ってください。
こちらのチャートをご覧ください。緑線が米国株式、青線が米国ハイイールド債券、赤線が米国国債です。株式が大きく下がる局面では、ハイイールド債券も大きく下がっています。つまり、株と同じような動きをするのです。
ということは、この記事をご覧になっている皆さんが株に投資をしている場合、同じようにハイイールド債券を多く持てば、株価が大きく下落するときには、資産価値が大きく一方向に下落することになります。
そういった意味では、これから株式市場がどうなるのか分からない。少し高値圏だという場合には、ハイイールド債券の割合を大きく増やしすぎると、損失が膨らむ可能性があります。かなり慎重に判断をしてほしいと思いますし、株式の代わりにハイイールド債券を持つ場合にも、総量が増え過ぎないようにコントロールするのが、アセットマネジメントを行う上で大事になります。
三つ目のポイントは、短期のトレードに向いていないということです。ETFは長期投資に使う方もいれば、短期トレードに使う方も多くいらっしゃいます。その中において、HYGやハイイールド債券のETFは向いているかどうかを、アセットマネジメントOneが出している値上がりの要因分析で確認してみましょう。
こちらのチャートは、96年からの値上がりを表しています。赤い線が累積リターンで、順調に上がっています。96年からは4倍近く上がっていますが、債券価格の変動は青い線で書いているようにマイナスです。
一方で5%近くの高いクーポンが積みあがってきて、累積リターンのほとんどを作っていることになります。ということは、短期で投資をした場合、価格が下がったから売ってしまうと、累積リターンのクーポンが少なくなりますから、実際は値下がりしていることになります。
一方で、長い期間、しっかりとリスクアセットとして管理していくのであれば、このクーポンが積み上がり、長い目で見るとトータルリターンが安定することになります。このHYGを含めたハイイールド債券は、トレーディングツールとして買うのではなく、長期で保有するアセットの位置付けで持てる方に、最も適したものと言えるでしょう。ぜひ、その点を注意してほしいと思います。
ということで、まとめになります。ハイイールド債券の短期保有においては、すごくリスクが高い可能性があります。それは、クーポンの積み上げが、ハイイールド債券にとって一番大きなパフォーマンスの源泉になっているからです。
さらに、10年金利が上昇する局面において、価格が上がっていくのかというとそうではなく、実際には10年実質金利が低下していく状況で価格が上がります。今後の名目金利の上昇や、上昇に伴うインフレ率の安定を考えると、実質金利が上がる傾向にある場合、ハイイールド債券はタイミングとして、少し慎重に見る必要があるでしょう。
これに投資する場合、しっかり自分の資産の中における割合を、きっちりと維持することが、この投資をうまく管理する方法になります。ぜひ、アロケーションの中における割合を慎重に考えてください。
また、一般に出ているHYGに対する投資情報の中には誤った情報もたまに見かけます。こういった実質金利などの影響を受けることなどを踏まえて、高いイールドだけに惑わされずに判断していただければと思います。
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