FOMC後、米国株市場のムードが急激に悪化した理由

FOMC後、米国株市場のムードが急激に悪化した理由

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FOMC政策決定があり、今週は非常に注目が集まっていました。

16日午前4時ごろ、パウエル議長が記者会見でコメントした内容を、まずは確認しましょう。

FOMCで雰囲気が一転

テーパリングの変更

一つ目がテーパリングについてです。月間150億ドル縮小しているところを、300億ドルにスピードアップし来年3月にテーパリングを終了するということ。

二つ目が、来年の利上げに関するコメントです。今までは、テーパリングと利上げを別としていました。これを2022年は3回の利上げ、2023年は4回の利上げを検討しているとしています。

三つ目が、FRBがバランスシートの縮小についてです。これが今後に大きな影響を与えるのではないかと思いますので、こちらをテーマとして取り上げます。

FRBが終わった後のマーケットの反応としては、大きく売り込んでいた投資家たちがFRBは無事に通過し、材料は出尽くしたとして買い戻す動き(ショートカバー)を見せました。

FOMC後の市場の反応

そのため、発表直後は株価が大きく上昇しました。それが17日には、大きく株が反落しています。

いろいろな材料がありますが、ショートカバーの買戻しで出口戦略に向かっていくことで警戒感が高まっているという解釈もあります。また、SOX指数のような半導体が大きく下落したことで、NASDAQが大きく売り込まれたとも言われています。

しかし、それ以上に心配なことは2年、5年、10年金利が下がったにもかかわらずNASDAQが下がっていることです。

今までは金利が上がるとNASDAQが下がることが多かったですが、今回はNASDAQが下がったことで国債にお金が流れ、金利が下がる悪い金利低下なのではないかと懸念されています。

今マーケットが一番気にしているのは、FRBがバランスシートをいつ縮小するのか、どういう形でやってくるのかに不透明感が高まっていることです。

こちらについて本日は説明しますので、ぜひ最後までご覧ください。

マーケットが警戒する3つの理由

パウエル議長のコメントについてお話をします。

冒頭でお伝えしたように、テーパリング、来年利上げの話もありましたが、ここで取り上げるのはバランスシート縮小についてです。

バランスシートの縮小とは

まずはバランスシートについてご説明します。

FRBは何かの危機が起こったとき、お金を使って国債、MBSといった不動産担保証券を買い、お金をばらまくことでマーケットを落ち着かせてきました。

これまで順調に進み、マーケットも落ち着いたので買い入れ額を減らすというのがテーパリングです。

テーパリング実施後は持っている資産をすぐに売却するわけではありません。いずれマーケットがより落ち着いたとき、持っている国債、MBSを徐々に売却することをバランスシート圧縮(QT)と呼びます。

前回も実施したQTを、今回もテーパリングの後検討しているということで議論を始めたというのが、こちらの内容です。

マーケットが動揺した理由

しかし、そのコメントの中身が非常に不透明で、マーケットとしては動揺しています。

一つ目の理由は、バランスシート縮小について、いつ着手するかは当局として「一切決定を下していない」と発言したことです。

前回は、利上げを行って10カ月たった後にバランスシートを縮小しました。この期間についても定かではないことから、もしかすると非常に短い時間でバランスシート圧縮がスタートするのではないかとの疑念がマーケットに広がったことが、一つ目のポイントとなっています。

二つ目の理由は手法です。前回は圧縮を月額100億ドルずつ売却し、徐々にその額を増やすことで最終的に月額500億ドルを売却しました。しかし、今回は前回の圧縮手法と同じようにするかどうか分からないと言っています。

パウエル議長は「前回の(縮小)局面で起きたことは興味深く、参考になるとの意見が出た」としていますが「今回は状況が異なるとの指摘もあり」どういうふうにバランスシートを圧縮していくかは、やり方を決めていないとしました。

前回のやり方が今回の最善ではない可能性を示したことで、手法についての疑念が増えたことが二つ目のポイントです。

三つ目です。今回のFOMC会合でバランスシートについて初めて議論しましたが、1月25~26日、3月15~16日にその議論を進めていくとしています。

これを深く勘繰り、テーパリングが終わった後にすぐ利上げを行い、その後すぐにバランスシート縮小をすると2回で決めていくのではないかと、かなりの疑念を持つ人がいます。

来年の利上げを言及し、経済がいいとも言ったし、テーパリングを早めることでかなり状況がいいことは分かったものの、セットになっているQTについては不透明感があるとして、16日は売りが入ったと考えていいでしょう。

マーケットが警戒する2つの事実

なぜ、そこまでQTが恐れられているのでしょうか。保有資産縮小にどういう影響があるのかを見ていきたいと思います。

マーケットが警戒する2つの事実①

前回を振り返ると、13年5月にバーナンキ発言があり、7カ月後14年1月に初めてテーパリングをスタートしました。毎年買い入れ額を減らすと14年1月~14年10月までの10カ月をかけて縮小しています。

2014年10月が終わった後、持っているバランスシート、資産は売却することなく維持し続けましたが、2015年12月、テーパリングが終わった1年2カ月後に利上げを決定していました。

ただし、利上げを行ってもすぐにバランスシート縮小は行わず、1年10カ月がたった後、今度は2017年10月から初めて縮小を行っています。

青いチャートはバランスシートの額を表していますが、17年10月から初めて持っている額が減っています。減ったとき、マーケットはなぜ警戒したのでしょうか。

減ったときの黒いチャート、S&P500の株価をご覧ください。縮小開始以降、それまで順調に上がっていた株価が大きく上下動しています。ボラティリティが上がったのです。

つまり、緩和から縮小となって体力が弱まり、何かが起こると株価が動きやすい状態になったことで、QTに入るとマーケットは株がなかなか扱いづらいと感じることが分かります。

パウエル議長の発言で株価が下がった理由

今回問題になっている理由は何かです。

パウエル議長は、これまでマーケットとの会話を大事にしてきました。バーナンキさんが行ったようなミスを起こさないため、事前に通知すると言ってきました。

それが蓋を開けてみると、夏にテーパリングを始めるかもしれないと言ったら11月にスタートしました。そこから2カ月もたたないうちに、今度は縮小を速めると言いました。

テーパリング、利上げは別だとして、当初は2024年まで利上げをしないと言っていたのが、2022年5月に利上げを行う上に、年3回も行うなどと全て前倒ししている状況です。

さらにQTについても議論を始めました。前回は量的緩和からテーパリング開始から利上げまで1年2カ月、利上げから1年10カ月で縮小をスタートしています。

それが今回は2カ月後、3月~5月の間に利上げをスタートするとしています。

前回よりもさらに短くなって、数カ月で資産縮小を始めるのではないかとマーケットが懸念していた中、前回と同じ手法は使わないと発言したのです。

前回ケースは興味深いものの、それが使えるとは限らないと言ってみたり、いつ始めるかも分からないとも言ったりしています。

来年1~3月のFOMCでどういう決定がされるかを考えると、マーケットはなかなかポジションを大きく膨らませることが難しいと考え始めています。そこで質への逃避として、債券にお金が入ったと考えるのが、自然ではないかと思います。

マーケットが警戒する2つの事実②

もう一つです。こちらはS&P500と量的緩和の関係を表したものです。赤いチャートがS&P500のPER、右の数値が何倍かを表しています。青線がFRBの総資産額で、左軸の数字にあるように8兆ドルまで資産が増えてきています。

2008年以降、FRBの試算が量的緩和を通じてどんどん増える中で、PERが10倍から23倍まで上がっています。

青線を見ると分かるように、2017~2019年の資産を圧縮している段階では、実はPERが大きく低下していて14倍から18倍まで下がっています。前回は4倍近く下がったことになります。

モルガンスタンレーが出している2022年のS&P500PER予想値は、約220ドルです。220ドル、今の22倍であれば4400ポイントが彼らの予想ですが、来年の早い段階で後半がスタートするとなれば、資産が縮小するためPERの低下が見込まれます。

仮に来年のEPSが220ドルで、PERが18倍になった場合、20倍になった場合を考えてみましょう。20倍であれば4400ポイントで今年と変わりません。18倍となるとさらに低下し、4000ポイント近くになります。株が今年よりも下がることになります。

マーケットは、量的緩和を行い縮小に向かった段階で、株からかなりの縮小が出てくるのではないかと考えていることを、ぜひ覚えておいていただきたいです。今までは何回利上げするかに注目が集まっていましたが、さらに大事なところとして、縮小をいつ始めるのかが今後のテーマとなってきます。

縮小を早めるようなインフレ率の高止まり、高官の発言、パウエル議長のコメントにヒントを求める神経質な展開となるかと思いますので、ぜひ注意深くこれからマーケットに向かっていただければと思います。本日もありがとうございました。

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