本日は、先週から本格化している米国企業決算について取り上げます。
1月14日、JPモルガン、シティグループなど大手金融機関の決算発表がスタートし、JPモルガンの株価が約5%下落しました。
JPモルガンの決算内容は表面上決して悪くありませんでした。
なぜJPモルガンが大きく下落をしたのか。JPモルガンの下落は、他セクターに影響を及ぼすのかを見ていきたいと思います。
本来であれば、金融セクターの業績は他セクターの業績とあまり連動性がありません。
しかし、今回に限ってはJPモルガンの今年のガイダンスの中身が他に影響しそうです。ぜひ最後までご覧ください。
[ 目次 ]
1株当たり利益が市場予想を上回り、今後の金利上昇に伴う利ざやの拡大が追い風になりそうです。
本来であれば株価が上昇してもいいような局面でしたが、株価は5%近く1日で下がっています。
チャート黄色線はS&P500、青線がJPモルガン単独です。S&P500全体が下がった中での下落ではなく、個別要因で下落したと改めて確認できます。
では、JPモルガンの決算内容でどういったところが問題だったのでしょうか。注目点を確認します。
まず決算骨子です。
利益自体は104億ドルととても良く、1株当たり利益も3.33ドルと、アナリスト予想の3.01ドルを上回っています。
アナリスト予想を上回るというのは、本来株価が上がってもいい要因です。何が問題になったのでしょうか?
まず、トレーディング収入が13%減少したことです。
アナリストは元々11%の減収を見越していました。しかし、債券、株式のトレーディング(売買)収入が、今年以降減ってくるのではないかと連想をしたのです。
次が一番問題となった要因です。人件費が増大し、費用は11%増加、180億ドルに達しています。
前回10-12月期決算においても人件費高騰が業績に対する重しになりつつありました。
今期以降のガイダンスとして、バーナムCFOは次のようにコメントしています。
長期金利が上がると想定されることから、今後イールドカーブが立ってくると金利収入が増え、500億ドルほど金利収入の影響もあり伸びてくる。結果として株式売買、債券トレーディング以外去年を上回ってくる。
このようなポジティブなコメントをする一方で、金利上昇で融資が伸びるなどの追い風を受けながらも、22年は向かい風の方が強い環境に変わるともコメントをしています。
その背景には、労働市場がタイトで、人材確保に向けた費用が増えてくる可能性があるとのことです。
さらにインフレに伴う賃金増により、人件費を含めた金利以外のコストとして約9%増えるとも言っています。
JPモルガンの決算内容をまとめます。
銀行は今後長期金利が上がってくることで利ざやが稼げ、バリュー株の中においてもかなり注目されています。
今年一番業績が伸びると言われている金融セクターが、人件費増によってコストが圧迫される状況であることは間違いありません。
その結果追い風と思われたものの向かい風が多くなってきている、人件費がかなり難しくなってきていると言ったことで、株価が大きく下落したのです。
これはJPモルガンだけの問題なのでしょうか?
FACTSETがまとめた資料で今までの決算発表を確認すると、意外な事実が分かります。
こちらはFACTSETという調査会社の出した資料です。
金曜日時点でS&P500の500社のうち、20社が決算発表を出しています。
その彼らに、昨年10-12月期の収益に対して悪影響を及ぼしたものと、今後1年間悪影響を及ぼすものとしてどういうものがあったか、または想定されるかを聞いた結果がこちらです。
一番の足かせとなったのは労働コストと労働不足だと、20社のうち60%がコメントしています。
また、続く要素としてはコロナの影響、サプライチェーンの影響が挙がっています。
それを含めコストが増えているため、前回10-12月期の収益は27.7%増収となっています。これはS&P500の平均の20%に対し、7.7%も上回る好業績でした。
企業決算がいいとして株価が上がることも十分考えられます。
しかし、7.7%も予想を上回った背景は、20社のうち17社が仕入れ時のコスト高を相殺するため、価格に乗せて収益を確保したとのことでした。
これまでも人件費高騰によりコストが圧迫されていました。これからも人件費が増えることが一番大きな悩みになっています。それを価格転換することで、どうにか収益を維持できているけれども、それがいつまで続けられるかは分かりません。
コスト増にかなり深い影響を受けているのはJPモルガンだけではなく、残る480社も人件費増がネガティブな要因となればどうなるでしょうか。
収益の見通しが悪化し株価が売られやすい状況になると、マーケットでは若干懸念されていることに注意が必要です。
火曜日から始まる米国決算発表において人件費増と今期の業績見通しで出してくれば、株価は大きく下がりやすくなることに注意が必要です。
その結果、12月小売売上高はかなり悪い数字となりました。前月比マイナス1.9%(コンセンサスはプラス0.1%)とかなりのマイナスとなっています。
特に注意すべきは、eコマースが8.7%も減っていることです。コロナによって外出ができなかった等の影響は、eコマースにはありません。その意味で、消費自体が落ち込んでいることが確認できます。
また、百貨店自体の売上も7%も落ちています。クリスマス商戦を前もって買った反動もあるでしょう。
しかし、それ以上に人件費の高騰を価格に転嫁し売っていることと、それで利益を確保していることで販売価格高騰につながり、消費者が買わなくなっていることで景気の減速感が出てくるのではないかと改めて認識されたのです。
ちまたでは、またスタグフレーションになるのではないかとの話も出てきています。去年秋口に話題となったスタグフレーションが、今年も改めてテーマになる可能性があることに注意が必要です。
さらに、こちらをご覧ください。ミシガン大学の消費者マインド指数です。こちらのマインドがかなり悪化しています。
消費者マインドが悪化しているのは、価格転換だけが理由ではありません。インフレの期待が非常に高くなり、5-10年後のインフレ率が3.1%にもなっています。3%を超える状態が5年後、10年後も続いていると考えられているのです。
現在の暮らし向きは、コロナが発生した20年4月と同じレベルまで悪化しています。そういったことが、マーケットにはかなりネガティブなインパクトを与えました。
JPモルガンの決算発表にあったように、今期のガイダンスは人件費の高騰がかなりネックとなります。
他の企業決算においても同じようなアンケート結果が出ていて、人件費高騰を回避するために商品価格に転嫁し、販売して利益を確保しています。
結果としてミシガン大学消費者態度指数が悪くなったり、小売売上高が落ちたりと、実体経済にかなりの悪影響を及ぼす悪循環に入っているのではないかと、マーケットは懸念しています。
今後の決算発表でも同じようなことが出てくれば、かなり大きなテーマとなる可能性があります。明日以降の決算発表はかなり注目が必要です。
今週の見通しです。
18日にNY連銀製造業景況指数、20日にフィラデルフィア連銀製造業景況指数があります。
ISMやPMIで示されたインフレ要因となる供給サイドの根詰まり解消が起こっていると確認できれば、供給サイドが改善傾向にある、過度なインフレではなくなるのではないかとの期待感が出てきます。そのため、数字が非常に注目されています。
また、この二つはISMの先行指標とも言われています。2月初旬に発表されるISMに対するインパクトもあります。注意が必要です。
19日には住宅着工があります。住宅ローンの金利が徐々に上がってきていますので、どういう形になるか注意が必要です。
今週は既にFOMCに向けて要人発言ができない時期であったり、経済指標の発表も限りがあったりするなど、かなり決算発表に注目が集まっています。
ゴールドマン・サックスの発表やバンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーなどが人件費についてどうコメントしてくるか。
さらに、P&Gや値上げを発表したネットフリックスも決算発表をします。こういったところも人件費がどうなるか注目が必要です。
今日はJPモルガンの決算発表を見ながら、他セクターに対する影響度合い、人件費がかなり大きく影響するのではないかということを見てきました。
ウォール街で一番有名なJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、年4回の利上げでは間に合わないので、6~7回の利上げが必要だと改めて決算発表で伝えています。
それを踏まえれば、かなりインフレが進行しているとの認識をマーケットが肌感覚として持っていることが分かります。
年4回の利上げも問題ないとの論調が徐々に広がってきていますが、今年のテーマであるインフレが人件費以外にも続いている可能性があります。十分注意しながらマーケットに取り組む必要があるでしょう。
本日も最後までご覧いただきありがとうございました。
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