2月3日、大きくニューヨーク株式市場が下がりました。
これは皆さんご存じのとおり、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)の業績見通しが悪化したためです。
そのこともあり、今週は前半が大きく上げ、後半が下げてくる形になっています。その意味では、非常にボラティティが高い展開が続いています。
来週以降も、恐らくボラティリティの高い展開が続くでしょう。
一方で、今後のグローバルなお金の流れで、アメリカ株式市場に大きな影響を与えるようなことが起こっています。
それはどういったことなのか、それがどういうふうに投資環境に影響を与えるのかをお伝えしたいと思います。最後までご覧いただければ、今後のリスク管理に使えるかと思います。
[ 目次 ]
前半に欧州の話、後半を米株式市場への影響をお伝えします。
欧州(ユーロゾーン)では、CPIが相当に高いく、前年比5.1%もの上昇を見せています。
欧州は元々ドイツを中心に、過去インフレで相当苦しんだ経験があります。世界の中でも、インフレに対してかなり敏感な国です。
欧州は、5.1%もの物価上昇を見せていることにかなり戦々恐々としています。
次にこちらをご覧ください。
物価上昇の大きな背景としては、ピンク色の部分(Energy)です。
天然ガス、原油価格の高騰がCPIの大きな部分を占めています。
今起こっているウクライナ情勢の不安定化、WTIが90ドルを超えるような世界的な原油価格の上昇が今後も続くようであれば、欧州のCPI(物価上昇)は続くでしょう。
これをどうにか止めたいとして、3日、Bank of EnglandとECBが、金融政策をどうするかの会合を開きました。結論として、Bank of Englandは0.25%の利上げを決定しました。
今回の会合には7人が参加し、3人が0.5%の利上げを主張、4人が0.25%を主張し、0.25%に落ち着きました。
会議の内容としてはかなりタカ派だったと言えます。
オミクロン株で経済が落ち込む中においても、物価上昇を何とかコントロールしたいとの思いがBank of Englandにあったと浮き彫りになっています。
その横の地域であるECB(欧州中央銀行)でも、同じように政策決定会合は行われています。しかし、今回は利上げを見送りました。
ラグルド総裁はずっと今年は利上げを行わない、量的緩和も縮小しないと明言してきました。
しかし、今回は年内の利上げも可能性があるとのニュアンスを、記者会見の後で伝えています。利上げは着々と準備が進んでいる感じがあります。
欧州としては、このままインフレを放置することはできないと考えていることが分かります。
FRBも、去年10月まではインフレは一時的で利上げは行わないと言っていたものが、ここ数カ月で急変しています。
ECBも今後、十分に利上げを行う可能性があるとマーケットでは考えられています。
こちらをご覧ください。
「年内の利上げはない」と公式な記者会見では伝えています。
一方で、マーケットとしては、ECBが今年9月まで2回の利上げを行うのではないかと予想し始めている状況です。
そうなってくると、ECBは利上げを行ってくる可能性があります。金利も上がってくるでしょう。
Bank of EnglandとECBは年内に共に出口戦略を行うこと、金利引き上げもさることながら、量的緩和を終了させることを話しています。
特に、Bank of Englandは量的緩和縮小に加え、満期を迎えたものの買入は行わないなど、QTをスタートすることを今回決定しています。
間違いなく金融政策の金利引き上げ、および資産の売却に向かっていく流れが、徐々に世界的にできつつあると確認できました。
その結果起こっていることについてです。
世界の10年利回りが上昇しています。
赤網掛けはアメリカの1.8%ですが、世界的に見ても米金利は特段高い状況ではありません。
今回Bank of EnglandとECBが金利を上げる政策に変わってくれば、おのずと欧州の金利も上がってきます。
これが今回の大きなゲームチェンジの背景にあると思っています。
これまで、先に出口戦略に向かうことでアメリカは優位な立場にありました。米金利が上がり、1.8%の米国債であれば価値があると、お金がどんどん入ってきていました。
アメリカとしては、ファイナンスをするのに非常に良い状況だったのです。
一方で、ドイツなどの金利がマイナスからプラス圏に移って、お金が流入するようになればどうでしょうか。
米国債に一極集中する局面ではなくなる可能性があるのです。
そうなれば、アメリカは金利を少し上げないと、なかなか入札が入ってこないことが今後考えられます。
特にFRBが夏以降国債を売却する、満期分は買入を行わないようになってくれば、国債は市場で買ってもらう必要が出てきます。
そうなると、市場は他の欧州債券、国債と比較して、高い金利を出すように要求し、金利が上がってくる可能性が十分にあります。
これが、歴史的なグローバルマクロの観点から言えることです。
不景気によって金利が下がるかもしれないとの予想はあります。
その中においても、需給の関係においてアメリカの金利が上がってくる可能性があるのではと考えられ、3日、全ての米金利が大きく上昇しました。
世界の金利水準が上がるとすれば、アメリカの金利水準も上がらなくてはなりません。
そうなると、企業にとっては金利上昇が向かい風となります。
メタプラットフォームズの業績見通しで株価が下がっただけではなく、そういったこともあり株価が下げ足を速めたというのもあります。
金利は今後ますます目が離せないようなゲームチェンジがスタートしている状況だと、ぜひ覚えておいていただければと思います。
次にこちらをご覧ください。
こちらは米ドルとユーロの関係を表したチャートです。
現在1.143ほどになっています。
一時期1.2を超えていたユーロが、1.1程度まで下がってきたことで、ユーロ安、ドル高が今までは進んでいました。
これまでは、ドルの出口戦略が先に進むのでドル金利が先に上がり、ユーロは出口戦略に迎えなかったためドルが買われていました。
しかし、今回ユーロ利上げの見通しが出てきたことで、ドル買いがいったん落ち着き、ユーロを買う動きが出て、ユーロ高がスタートしています。
ユーロが上がってくることで何が起こるのでしょうか。
まず、米ドル安が意味することについてです。
アメリカは輸入国ですから、世界のコモディティ価格、原油価格が上がってくると、アメリカの輸入コストはどんどん上がっていきます。アメリカのCPIがこれからも上がってくることが、ECBの政策決定の変化によって起こり得ると為替からは考えられます。
もう一つは、ECB自体の問題です。
ECBは欧州地域のコントロールをしますが、欧州地域のほとんどがエネルギーを輸入しています。
今までのようにユーロを安くしているとどうなるか。資源価格が上がっている中で自分たちの通貨が弱いと、輸入コストがとてつもなく上がることになります。
それをどうにかしたいと今回利上げを行い、ユーロ高に誘導しようとしているのです。
ユーロ高に誘導し、せめて輸入コストを通貨として安くしたい。原油が上がったとしても、ドル建て原油のコストを、ユーロ高にすることで少しでも下げたい、インフレを抑えたいと考えているのです。
ですから、Bank of EnglandもECBも、利上げを行って自国通貨を強くし、インフレを抑えたいという通貨政策を取り始めた可能性があると言えます。
アメリカが利上げを躊躇していると、ドルの価値はどんどん下がっていき、ドル安になります。
そうなればドルは安くなり、輸入物価が上がり、CPIは下げ止まらないことになります。恐らくドル高の政策を採らなければならなくなります。
では、ドル高政策を採るためにはどうするのでしょうか。
ECB、Bank of Englandに遅れることなく金利を引き上げなければならなくなると、世界的に利上げが加速する可能性があります。
そうなれば、当然世界の株価に対してマイナスの影響を持ちます。
このように非常に注目が必要なことが、今起こり始めているとお考えください。
さらに今週、それ以外にもISM製造業指数の発表がありました。3日にも、非製造業指数が発表されました。
中身をしっかりと見れば今後のヒントが隠れています。大きな視点のユーロの話だけではなく、アメリカの状態も確認したいと思います。
こちらをご覧ください。
左のチャート、緑色が非製造業指数、青線が先月末に発表されたPMI、赤線はシティ・エコノミックサプライズです。
全体的に右下がりになっています。
経済指標のマイナスの発表が続き、PMIも下がってきたものの、今回サービス業も下がってきている状態です。
数字としては予想の59.5とほぼ変わらず(59.9)でしたが、中身を見るとかなりの注意点があると言えます。
次にこちらの表をご覧ください。
赤網掛け部分Business Activity(現況はどうか)は、先月68.3に対して大きく下落しています。
さらに、海外の輸出です。先月が61.5から45.9と、こちらも落ちています。世界の経済も減速傾向にあると確認できています。かなりサービス業が苦しい状況だと言えるでしょう。
一方、青い網掛け部分(Prices)は、先月83.9から82.2と引き続き高い状況が続いています。
サービス業においてもインフレ兆候は変わりません。その意味でも、先ほどの金融政策とは別に、引き上げを行わないと、なかなかインフレが鎮静化できない状況が続いていると言えます。
今後も金融引き締めが進む可能性があるというのが、注目のポイントとなっています。
さらに、炭鉱のカナリアと言われているハイイールド債券の動きも気になります。
こちらをご覧ください。
HYG(ハイイールド債券)は炭鉱のカナリアの一つと言われています。HYGと言われる債券価格が右肩下がりになってくると、売られていることを意味します。
ハイイールド債券、格付けの低い、返せる可能性が高格付けのものより低い債券は、不景気で持っていると返済されない(デフォルト)可能性があります。
ですから、景気が悪くなると、HYGが売られるようになります。
裏を返せば、HYGが買われる状況は非常に景気が良いか、過剰流動性(お金が有り余っている)のときなのです。
コロナショック以降お金が大量にばらまかれたこともあり、HYGは順調に上がっていました。
しかし、昨年後半以降、価格が下がり始めています。
稼働流動性が終わったこともさることながら、HYGはデフォルトに対してリスクを感じて売られる傾向があります。不景気を織り込んできていることが、ここから分かります。
次にこちらをご覧ください。
HYGが下がってくると、S&P500も連れて安くなります。
HYGは先行する可能性があると言われていますので、HYGの下がりは今後、S&P500にもマイナスの影響を与える可能性があることに注目が必要です。
さらにこちらをご覧ください。
HYGは、信用格付けの低いものです。そういったところが破綻したときの保険料を、CDSと言います。それを集めたものがこちらのチャートです。
青はIGCDX、赤はHYCDXです。
IGは、インベストメント・グレード(投資適格社債)という、格付けの高い社債を集めたものです。
HYGはハイイールド社債という、低格付けを集めたものとなります。
これが破綻したときにお金が返ってくる、保険料を表したものだとお考えください。
この保険料が共に大きく上昇しているのです。
一方でVIXは低下しています。
本来であれば破綻するかもしれない、保険をかけておいた方がいい状況では、VIXも通常同じように上がるものです。しかし、今回はVIXが低下しています。
いずれは明らかに収れんします。来週以降、VIXが大きく上昇する可能性があることを、債券の保障が示しています。来週以降、VIXの上昇に気を付ける必要があります。
今までの振り返りです。
ECBとBank of Englandの政策決定変更により、今後米ドルは安くなる可能性があります。
その結果、CPIが上がってくる可能性もあります。そうなると、アメリカは物価がこれ以上上がると困るので、金融政策をより前倒しする可能性があります。
そうなればアメリカのみならず、世界的に株価に対してマイナスの影響が出てくる可能性があると、お話をしてきました。
ISM非製造業指数を見ても、まだまだインフレが続いている状況です。エクスポートが伸びていないので、海外の経済減速も確認できます。
経済の減速感は、間違いなく起こっていることが確認できたというのが、二つ目のポイントとなります。
また、炭鉱のカナリアと言われるHYG(低格付け社債)でも、今まではお金が余り、高い金利がもらえるからとお金が入ってきていましたが、今はお金が引き上げられている状況です。
これは株価下落に先行すると言われていますので、来週以降株価に対してマイナスの影響があるというのが一つ目です。
また、低格付けの社債に対する保証料が上がったときは、VIXが上がります。今後はVIXが上がってくる可能性があります。
短期的には、まだFOMCの議事録の発表、3月FOMCに向けて難しい局面にあります。さらにこういった難しい条件が加わってくると、来週以降も動きが大きくなることに注意が必要です。
そういったことを踏まえ、来週以降も値ごろ感で買うのではなく、しっかりと経済を見極め、経済の見通しが明るくなった場合、それが買いの対象になると考えていただければと思います。
来週以降も、しっかりとリスク管理を行っていただければと思います。
本日も、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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