11月30日、FRBのパウエル議長が、ブルッキングス研究所で経済見通し、雇用に関する講演を行いました。前回のFOMC後も株価が大きく上昇していることもあり、タカ派的内容で牽制を入れるのではと、かなりマーケットが警戒していました。しかし、実際の中身はハト派的なものであったと市場は解釈し、株価が大きく上昇しています。
警戒感が高まった分、ショートカバーが入りやすかったところでもありますが、この上昇が今後も続くかも含め、パウエル議長の発言内容、今後注意すべきポイントをお伝えします。
では、早速こちらをご覧ください。パウエル議長の発言をまとめたもので、重要な部分のみ赤で示しています。まずは、利上げペースを緩める時期が、早ければ12月に来る可能性があるとコメントしています。マーケットでは12月のFOMCでは0.75%の利上げ、0.5%の利上げのどちらか判断しかねていましたが、この発言を受けて、ほぼ0.5%で決まりとなり不確実性がなくなったとして、株価は大きく上昇しています。
さらに、金利のピークは、9月予想よりいくらか高い可能性がありますとコメントしています。9月FOMCで発表されたSEP、経済見通しにおいて、ターミナルレートは4.6%と予想されています。これよりいくらか高いということは、5%を超えてくるというより、4%後半に落ち着くのではないかということで、金利のピークもそこまで高くないものだと、株価にプラス材料となっています。
さらに真ん中部分をご覧ください。リスクバランスを取るために、利上げペースを減速させることで、経済、株式市場における利上げ効果を確認しながら政策運営を進める、決める。つまり、そのような政策でリスクバランスを取っていくとのことです。マーケットにフレンドリーな対応でプラス材料となりました。
さらに、下の方に目を移すと、「これまでのFRBの政策はかなり積極的でしたが、経済をクラッシュさせたうえで、後始末することを適切とは考えていません」。つまり、クラッシュさせた後は、後始末にかなりのコストがかかるため、経済をいたずらにオーバーキルさせる施策は取らないと言っており、加えてソフトランディングの可能性が十分あるとコメントしています。
さらに、金融情勢を監視するため、「FRBはイールドカーブ全体の実質金利、他の指標にも目を向けている」とのことです。つまりは、何が何でも利上げを行い、インフレを退治し、オーバーキルになっても目を向けずに進むわけではなく、いろいろな指標で判断すると言ったことで、マーケットはかなりプラスに捉えました。
11月のFOMCにおいて、「金融政策の効果は少し時間がかかって出てくるも。少しスローペースにしたうえで、効果を見ながら判断する」と、FOMCの議事要旨に出た内容が肯定されたパウエル議長の発言となりました。
パウエル議長は、オーバーキルをするのではなく、リスクに配慮した利上げペースで、スローダウンすることも考えると伝わったことで、経済にある程度配慮すると考えられ、今回の株価上昇につながりました。
そのうえで、マーケットのFFレート見通し、政策金利と先行き見通しがどうなったかを見ていきましょう。
パウエル議長のソフトランディングが可能だとコメントしたこと、マーケットの環境を見ながら、利上げのスローダウンを行うと言ったことで、今後利上げのスローダウンをちゃんと行うのではないかと、マーケットの期待感は高まっています。
その結果を受けたFFレートの予想です。黒いチャートが、1ヶ月前のFFレートの先行き見通しでしたが、今回の青いチャートは、発言後のものになります。チャートは、横が時間軸です。例えば黒いチャートでは、25年2月、FFレート金利は4%まで下がると予測されていましたが、今回のパウエル議長発言を受けて、25年2月には3.5%まで下がる、1ヶ月前の予想に比べ、0.5%ほど多く利下げするのではないかとの予想に変わっています。
マーケットとしては、利下げをすることで、経済環境に配慮する金融政策、かつ、ソフトランディングしてくれるのではないかと、マーケットの期待感が高まっています。
では、今まで、なぜパウエル議長はずっとタカ派発言を続けてきたにもかかわらず、今回ハト派的内容に変化したのは、景気に対して配慮している、景気後退懸念が高まっているのではないかと、マーケットは考え始めています。
こちらのチャートは、パウエル議長が今年3月、2年10年のイールドカーブが逆イールドになったとき、私たちが見ている指標は、3ヶ月金利と18ヶ月先の3ヶ月が逆イールドになったとき、景気後退と判断し、利下げを考えるといった時の指標です。
白いチャートがこれに該当するものですが、赤い点線を下回っていることが分かります。これは、逆イールドが発生していることを示しており、パウエル議長としては、自らの発言の通り、景気後退が身近に迫っている、ある程度利上げをスローダウンしないと、ハードランディングになる可能性が高いとあ判断し、利上げを緩める可能性が伝えたのではないかと思われます。
では、パウエル議長が参考にしている、ニューヨーク連銀の資料から、景気先行きを見通す3ヶ月、18ヶ月3ヶ月金利のイールドについてご説明します。
まず、左のチャートです。青いチャートが2年-10年のイールドスプレッド、赤いチャートが、18ヶ月3ヶ月先-3ヶ月金利のイールドです。こちらから見ても分かる通り、今は-0.4%まで逆イールドが進んでいます。
過去にマイナスになったケースは、これから景気後退に入る確率が高いわけですが、では、どのくらいの確率でリセッションに入るのでしょうか。まずは左のチャートを見てみましょう。例えば、イールドが-2%まで大きく拡大した場合は、右のリセッション確率を(緑線)を見ると、100%リセッション確率になっていることが分かります。
一方、黄線。こちらは-1%までイールドが広がった場合ですが、右の図表を見ると約80%近くのリセッション確率になります。
現状の-0.4%の逆イールドと同様のケースが90年に起こっています。赤丸点線で囲っていますが、その時の90年のリセッション確率は、約60%であることが右の図表から分かります。恐らくパウエル議長はこの資料を基に、FRBメンバーも含めて(もちろん、他にもいろいろと見る必要がありますが)、イールドカーブ分析から60%のリセッションの確率と考えている可能性があります。これをもってパウエル議長はソフトランディングの可能性があると、言っていると思われます。
そのうえで、改めてこちらをご覧ください。今回のパウエル議長のハト派発言を受け、FF金利見通しが青いチャートに変わっています。青いチャートに変わった結果、FRBメンバーが一番重要視している3ヶ月金利、18ヶ月後3ヶ月金利にどのような影響を与えるかです。
例えば、青いチャートの23年5月時点では、4.8%程度のFF金利予想になっています。5月の4.8%から3ヶ月以内に利下げは行わないでしょうから、23年5月時点での3ヶ月金利は恐らく4.8%程度になる可能性があります。ただし、これはあくまで12月1日時点の市場予想ベースです。今後変わる可能性がありますが、この時点では、4.8%程度に、3ヶ月金利がなっている可能性があると分かります。
一方、下の18ヶ月と書かれていますが、23年5月から18ヶ月先の青いチャートの箇所を見ると、政策金利が3.5%まで下がっているとマーケットは予測しています。3.5%から、その3ヶ月後にもさらに利下げすると予測されており、仮に3.25%まで利下げを行うと、恐らく3ヶ月金利は3.3%前後まで下がる可能性があります。そうなると、FRBメンバーが一番気にしているイールドスプレッドがどの程度まで拡大しているかといえば、3.3%-4.8%と、-1.5%までスプレッドが拡大している可能性があることが分かります。
では、現在ー0.4%のイールドスプレッドが、ー1.5%まで拡大すると、景気後退に入る確率はどのくらいまで上がるのでしょうか。改めて、こちらをご覧ください。
先ほどまで、-0.4%だったものが、来年5月頃には今回-1.5%まで下がってくるのではないかと、算出しました。それがもし起これば、どのくらい景気後退確率があるのでしょうか。1970年代、同じように1.5%までマイナスが拡大したことがありました。これを、黄色い丸い点線で表しています。
では、その時のリセッション確率は何%だったのでしょうか。右に目を移すと、90%を超えるリセッション確率でした。パウエル議長はソフトランディングできると言っていますが、もし市場の考えるFF金利、先物見通しから考えると、来年5月には、FRBメンバーが一番信用しているイールドスプレッドでいくとリセッション確率が90%まで上がっている可能性があります。
今のマーケットの捉え方としては、今回の内容がハト派的だった、FRBがフレンドリーな政策で、株価を支えてくれるイメージがあります。しかし、実際は、金利差が拡大し、リセッションに入る可能性が高まっていることに警戒する必要があるでしょう。
パウエル議長発言を受け、ハト派的内容ですが、来年、イールドカーブがマイナスになる可能性があることには、注意が必要です。
さらに、今回ブルッキングス研究所の講演テーマは、経済見通しと労働市場でした。労働市場についても、パウエル議長はコメントしています。
パウエル議長は、「FRBは失業率を低水準に抑えたまま、インフレをコントロールできる立場にある」と言っています。インフレをコントロールするにしても、低水準で失業率が進むため、景気後退は示唆していません。
ですが、29日、NY連銀のウイリアムズ総裁がコメントでは異なる点が伝わっていますNY連銀総裁は、FRBの副議長クラスの格付けで、かなりの重鎮と扱われます。その彼は、来年23年末までに、失業率は4.5~5%まで上昇するとコメントしています。つまり、パウエル議長と発言が1日しかずれていないにもかかわらず、ウイリアムズ総裁は、4.5~5%の失業率上昇を見ているとコメントしたのです。
4.5~5%までの失業率上昇を、もしFRBメンバーが把握していれば、恐らくFRBメンバーはリセッションを覚悟していると言えます。こちらをご覧ください。
サーム・ルールというものが、FRBにはあります。これは、元FRBエコノミストのサーム博士が提唱した、景気分析の指標です。失業率が急激に上昇した場合、景気後退に入る確率を表したもので、全国の失業率、U3と言われる3ヶ月移動平均が何%で、過去12ヶ月間で最低だった失業率に対し、0.5%上昇した場合、過去1年間に対し、1年間で0.5%上昇した場合、景気後退確率が100%と言っています。
下のチャートからも分かる通り、黄色い点線は0.5%になっています。これを上回った水準、12ヶ月の最低から、3ヶ月の移動平均が0.5%を超えたところは、必ずグレー網掛けが着ているように、リセッションが訪れています。
では、今の置かれている状況はどうでしょうか。失業率が3.7%で、ウイリアムズ総裁が言うように、4.5~5%に上がるということは、0.8~1.3%の上昇となります。サーム博士の言うルールに従うと、0.5%を超えるため、景気後退間違いなしです。
ウイリアムズ総裁が、わざわざ公の場でこういう発言をするということは、FRBメンバーの中においては、失業率上昇に伴い、景気後退やむなしと思っている可能性があります。今後、失業率に注目していただければと思います。
さらに、このサーム・ルールができた背景には、0.5%を超える失業率が上昇した場合、積極的な財政出動をしてもらおう。それによって、景気後退を抑えることができると提唱するため、作られたものです。皆さんもご存じの通り、米議会は民主、共和でねじれた状態になることが確定しています。さらに、コロナ以降に積極財政を行ったことで、これ以上の積極財政が難しいと言われています。
ウイリアムズ総裁が言うように、0.5%を超える失業率になったとしても、機動的な財政出動が伴わないとして、景気後退が深くなる可能性があると、実はFRBメンバーは意識しているかもしれません。
そのうえで、パウエル議長発言を受けた翌日の2日、株式市場の動きは鈍かったです。その理由は、なぜでしょうか。
昨日、注目されたIMS製造業指数と、JOLTSが発表されました。下は、ISM製造業指数の指標です。製造業活動の拡大と縮小の境目、50を割り込む結果となり、2年半ぶりの低水準となっています。記事でも、ずっとISM製造業指数をお伝えしていますが、50を割るということは、株価が大きく下落する可能性が高まっていると、マーケットが捉える材料となっています。
また、サブインデックスの中でも、新規受注低下、雇用低下、インフレも低下しています。今までテーマになっていたインフレより、景気後退に話題の中心が移ってきている可能性があります。
さらに、JOLTSの発表もありました。予想を少し下回り、雇用求人数が少し減ってきていると確認できています。雇用が少し減っている、製造業活動が縮小していることで、株価が上昇しなかったことが、Bad news is bad news、悪い経済指標で下がったのでしょうか。それとも、2日に注目される雇用統計の結果を待っているため、動きが取れないとして上がらなかったのでしょうか。2日の雇用統計を見れば、ある程度見えてくるでしょう。
2日の雇用統計において、予想では20万人を下回ると思われていますが、それが悪かった場合、今までは金融政策が緩やかになり、株価は上がってきましたが、それであれば、まだまだ金融政策に期待値が高まっている状況です。
もし、予想よりも悪い数字が出た場合にも、株価が悪くなる場合、いよいよ景気後退、景気減速に対する警戒感が、インフレよりも高まってきていることを示しています。FRBが見ているような今後3ヶ月、3ヶ月金利と18ヶ月先3ヶ月金利のイールドのマイナスが広がることで、景気後退確率が高まることも踏まえると、今後景気後退のニュースが出てくるようであれば、株価の上値が重くなる要因にもなります。
2日の雇用統計、今後のバッドニュースに対するマーケットの反応を見ていただきながら、マーケットの先行きを判断いただければと思います。
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