富裕層の資産タイプ別 〜資産管理会社の設立と活用のポイント〜

富裕層の資産タイプ別 〜資産管理会社の設立と活用のポイント〜

企業オーナーや資産家にとって、資産の運用管理に個人ではなく資産管理会社を利用することは珍しくないありません。ただ、どのような人が活用すべきなのか、どんな利益を享受し、どんなリスクがあるのかを具体的にイメージしづらいものです。そこで、今回は、5回に渡って、資産管理会社をつかった活用法を4つの事例を紹介するとともに、資産管理会社を作る場合、どの程度の規模で、どんな形態の会社で設立するのがよいか、また設立の際に注意すべき点などもあわせて解説していきます。

資産管理会社の活用方法

タックスメリットなどを考えると資産を運用するには個人より資産管理会社を活用する方がメリットが大きい場合があります。具体的な事例として以下4つの方法をご紹介します。

上場企業オーナーの相続対策として

経営的な観点では、創業者一族で保有する株式を資産管理会社に持たせることで、安定的な経営権を確保し、株価対策を行うことができることが一番の目的です。
さらに税務メリットもあります。上場会社から配当を受け取るケース、株式を譲渡したケースでも、個人保有と資産管理会社保有では大きく税率等が異なります。


また、上場企業オーナーにとって、経営する会社の株価が高くなれば、当然ながら納付する相続発生時には相続税が高額になり、資金捻出が難しくなることがあります。その対策として自社株買いが知られていますが、これを安易にやってしまうと、資金繰りが安定しない弊害があります。そのため、自社株買いではなく資産管理会社を使うことでリスクを回避できます。自社株買いで失敗した事例と資産管理会社を使った対策については、次回以降のコラムで具体的にご紹介していきます。

中小企業オーナーの資産形成として

中小企業オーナーが資産形成で投資をする場合、個人でする他、経営する事業会社を使う方法も考えられます。ところが安易に経営する事業会社で行うと投資での損失が経営する会社の業績に影響するほか、金融機関など外部関係者にも影響することがあり、リスクを切り離す手段として資産管理会社を使うのは有用です。実際、金融機関に疑念を抱かれた失敗事例と、その対策として資産管理会社を使った投資については、次回以降のコラムで具体的にご紹介していきます。

不動産投資家の節税対策として

不動産投資は収入や利益が安定していることを活かして、経費などを上手く活用した、効率的な税金対策が重要です。また、所得に対する税率や税金の違い、家族間における所得の分散、欠損金の繰越控除などを活用した利益の平準化、対象となる経費の拡大を活用、社会保険への加入、相続に際して資産の分割を容易にし、将来の相続財産を圧縮するなど多数のメリットがあります。法人化しなかったことで失敗事例など次回以降のコラムで具体的にご紹介していきます。

金融資産家の資産管理対策として

金融資産は長期期間で運用すると、理論的には資産額が膨大になり、その際懸念されるのは相続税です。相続税は超過累進税率なので、資産額が大きいほど負担も大きくなります。その対策としては、個人名義で資産を保有すべきなのか、それとも資産管理会社で保有すべきか、これにより将来の相続がくに大きな影響が及びます。将来、運用資産がどの程度まで増えるか想定できないからこそ、事前に対策が必要なのですが、対策を講じていないことで、後ほど莫大な相続税を払うケースが散見されます。

それを回避するために、どのような事前検討策があるのか。実は、金融資産家には対策案が数多くあります。今回は、数ある中の一例として推定相続人である親族が出資し資産管理会社で資産を運用することで相続税の課税を回避することなどをご説明します。また、机上の計算になりますが、資産管理会社を使わずに相続税が課税される場合と資産管理会社を使って対策した場合の具体的な金額での比較を次回以降のコラムで具体的にご紹介していきます。

資産管理会社の規模・形態

資産管理会社をつくるには、資本金などの規模や株式会社や合同会社といった形態をどうするか決める必要があります。

資産管理会社の適正規模・形態

資産管理会社は、一般的な事業を行わないので、対外的な信頼を得る必要はありません。そのため、資本金がいくらであるとか、株式会社でないといけないという縛りは無用となります。形態は、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社などがありますが、一般的には、株式会社か合同会社を選択することが多いです。

株式会社の特長

株式会社は、「株式会社」という名称が広く認知されているため信用力があります。ただし、株式会社は出資と経営が分離されているため、設立の際、取締役などの機関設計が必要です。また持株の比率が役員解任や特別決議などの議決権行使に影響するため、出資の比率には十分注意が必要です。

合同会社の特長

合同会社は原則として社員(出資者)が経営者となります。社員の議決権は出資比率に関係なく同じで、過半数の合意で意思決定します。ただ、合同会社は自由度の高い仕組みになっており、出資比率に応じての議決権付与や経営に参画する社員(業務執行社員)と参画しない社員を分けるといったことを定款に定めることで可能になります。

資産管理会社の設立の流れ

資産管理会社として法人設立する際の大まかな流れを時系列でまとめると以下のようになります。

①定款の作成

定款とは、会社の根本規則を定めたもので会社の憲法ともいわれます。会社設立の際には必ず定款の作成が必要です。定款の内容については、設立後に変更も可能で、変更する際は、株主総会で定款変更に関する「特別決議」を行い、議事録を作成し法務局へ登記申請を行うことで変更されます。 

②定款認証

作成した定款は、会社法その他の法令に反していないか、公証人に認証してもらわなければならず、定款はその認証をもって効力が生じます。なお合同会社の場合、定款認証は不要です。

③資本金の払い込み

会社には資本金が必要で、設立の際に払込みの手続きを行います。株式会社では起人の個人口座に発起人の名義で、合同会社の場合は出資者の個人口座に出資者の名義で払い込みます。

④設立登記申請

資本金の払い込みが終わったら、必要書類を準備し、法務局で設立の登記を申請します。登記は概ね1週間から10日で完了します。なお登記の申請を行った日が会社設立の日となります。

資産管理会社の設立の注意点

設立時の資本金をいくらにするかによって税制面で影響があります。国税(法人税)と地方税(法人住民税)では次のとおりです。

資本金と法人税

法人税では資本金1億円以下の場合、中小企業者等として税制上以下の点で優遇されます。

資本金と法人住民税

法人住民税では資本金と従業員数で均等割の金額が異なります。東京都を例にすると、特別区内のみに事務所を有する場合では、均等割の金額は以下のとおりです。

https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/kintou_zeiritu.pdf

資本金と法人住民税

法人住民税では資本金と従業員数で均等割の金額が異なります。東京都を例にすると、特別区内のみに事務所を有する場合では、均等割の金額は以下のとおりです。

資産運用では、資産管理会社を使うことで節税等いろんなメリットがあります。一方でリスクを理解しないことで失敗する事例も多々あります。

また、法人の設立にあたっては、資本金の金額、株式会社にするか合同会社にするかといった会社の形態など、事前に設計し計画的に進めることが重要になってきます。

リスクを事前に知り回避するためにも、会社の設立での登記実務は司法書士、税務面では税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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