2023年がディスインフレーションになればというテーマで、本日はお伝えします。ディスインフレーションとは、金融政策で物価の上昇が沈静化しつつも、デフレにはならないことを指します。
このテーマを選んだのは、20日セントルイス連銀のブラード総裁が「2023年はディスインフレーションの年になるのではないか」とコメントしたからです。ブラード総裁は、急激な利上げで物価を沈静化する、タカ派です。彼は、昨年からディスインフレーションの可能性を指摘していました。今までも急激な利上げの結果、ある程度CPIが下落基調に入っていることから、ディスインフレーションに入る可能性があると、マーケットは意識し始めています。
では、ディスインフレーションが起こった場合、アメリカの株式市場で有望だったのは、過去どういったセクターだったのでしょうか。分析しましたので、最後までご覧ください。
・マーケットではディスインフレへの意識がされています
今回の記事は、ディスインフレーションになると伝えるものではありません。ディスインフレーションになるため、このセクターを買いましょうと示すものでもありません。
セントルイス連銀のブラード総裁は、タカ派として有名な、マーケットにインパクトを与える存在です。その彼がディスインフレについてコメントした結果、マーケットはディスインフレを意識しています。こちらの記事は、仮にディスインフレになった時、どういうセクターが有望かをご説明するものです。あくまでもケーススタディとして、ご確認いただければと思います。
それを踏まえて、左の図表をご覧ください。M2といわれるマネーサプライで、市中に出回るお金がどの程度かを示したものとなります。前年比で、マイナスの水準まで引き上げられています。市中に出回るお金の減少は、インフレの鎮静化とも関係します。実際にはどうか、右の図表を見てみましょう。
右の図表は、赤いチャートがM2、青いチャートがCPIです。M2が前年比で低下すると、CPIが高い連動性を示すことが確認できます。しかも、M2はCPIに対して16ヶ月先行します。今のM2の下落は、今後CPIがある程度コントロールできる状況まで下がることを示していると考えられたことが、ブラード総裁がディスインフレに入ると言った背景にあるのでしょう。
・まだインフレが完全に鎮静化できたとはいえない状況
次にこちらをご覧ください。CPIにおいて、コアのグッズとサービスがどうなっているかを示したものです。左のチャートは、青がCPIコアのグッズ、赤がCPIコアサービスです。グッズが下がってきている一方で、CPIの58%と大部分を占めるサービスは上昇しています。そのことから、サービスでのインフレ鎮静化は確認できていない、CPIがまだまだ簡単には下がらない可能性があると、マーケットでは認識されています。
次に、右のコアスティッキープライスインフレーションをご覧ください。下方硬直性がある粘着性の高いもので、なかなか鎮静化しないことを表しています。粘着性が高いこと、サービスが高いことから、インフレが完全に鎮静化できたとは言えません。しかし、今回はあくまでディスインフレーションになれば、インフレが鎮静化できた場合としてご覧いただければと思います。
・インフレ後退期にはトレーリングEPS低下(業績悪化)
こちらをご覧ください。過去アメリカで起こった、大幅なディスインフレーションを取り上げました。緩やかな物価下落ではなく、ある程度スピーディーな物価下落が起こったとき、株価にどういうインパクトを与えたかを分析したものとなります。
今回取り上げたのは、S&P500のトレーリングEPSです。株式予想では、通常12ヶ月EPSを使用します。しかし、ディスインフレ時にどのくらい業績が悪化したかを分析するため、過去12ヶ月実績であるトレーリングEPSを、今回は使用します。
大幅なディスインフレのサイクル中は、平均19%の下落です。ディスインフレーションが起こる状態では、物価が下がる中で業績も下がります。業績下落の影響を受けやすいセクターが株価としては軟調となり、影響が少ないものはアウトパフォームすることが分かります。
・実際のディスインフレ期に強いセクター
こちらをご覧ください。アメリカの強いディスインフレーションにおいて、強かったセクター、弱かったセクターを分析したものです。強いセクターは成長セクター、弱いものはシクリカル、景気敏感系が弱かったと確認できました。
青い棒チャートはアメリカです。こちらが上に向かっているものは、赤丸で囲ったヘルスケア、情報技術(IT)、通信、一般消費財サービス、公共事業、素材です。素材はシクリカル要素がありますが、ほとんどが成長セクターにお金が入っていることが分かります。一方でディスインフレーションに弱いセクターは、不動産、生活必需品、金融、資本財、エネルギーです。
強いディスインフレーションが起こると見込まれる場合、ヘルスケア、情報技術、通信、一般消費財サービスが有望な投資先と分かります。
・金融機関の資産配分の最適化モデルでは
次に、UBSが出した最適な資産配分モデルを見てみましょう。ディスインフレーションが起こった場合、どういったセクターにオーバーウェイとするか、アンダーウェイトするかを出したものです。ディスインフレーション時にいいパフォーマンスを出すものに、振り分けていることが分かります。
欧州の金融機関を含め、大手機関投資家たちはディスインフレーション時、こういったことを分かったうえで行動しています。こういったセクターが有望になりやすいと認識しておく必要があるでしょう。
なぜこういったセクターが有望なのでしょうか? 営業レバレッジが関係しています。
・ディスインフレ時期は営業レバレッジがマイナス要因へ
こちらの営業レバレッジを表した図表をご覧ください。インフレが強い時、営業レバレッジの高いセクターがアウトパフォームしています。一方でディスインフレ時、インフレが下がるときには、営業レバレッジが低い方がプラスになると分かります。今年、もしディスインフレーションになるようであれば、図表の下のものの方が上がりやすく、成長セクターであることがポイントになるでしょう。
ちなみに営業レバレッジとは、売上高変動に伴い利益額が大きくなるセクターかどうかを表したものです。営業レバレッジが高い企業ほど、固定費が高い傾向があり、売上が伸びるときに利益率が上がりやすいです。一方で、物価が下がる局面、売上が落ちる局面では固定費の負担が大きくなり、マイナスになるとお考えください。
22年初期、マーケットでは、インフレがここまで進むとは思われていませんでした。そのためインフレが進んでも、営業レバレッジの高いエネルギー、金融に対するプラスの影響は最初、過小評価されていました。
23年、インフレが鎮静化できるかどうかは分かりません。ただ、ディスインフレが進むようであれば、営業レバレッジの大きなセクターは、大きくマイナスの影響を受けます。そして、緑のようなグロースかつ営業レバレッジの低いところには、フォーカスが当たる可能性があると認識いただければと思います。
そのことを踏まえると、先ほどの最適なアロケーションも、こちらに準ずる形となっています。もしディスインフレとなれば、こういったセクターが選ばれやすいことが確認できました。
・2022年のパフォーマンスと資金流入
最後に、2022年のパフォーマンスと資金流入を見てみましょう。左のチャートは、2022年の米株式における、セクター別パフォーマンスです。最も大きく売り込まれているのは、通信、一般消費財サービス、情報技術のセクターでした。
一方、エネルギーは大きく上昇しています。大きくインフレが進んだ2022年は、営業レバレッジの高いところにお金が集まりました。営業レバレッジが低く、成長性が損なわれる恐れのあるセクターは売られたのです。ディスインフレになると、有望なセクターが売られていたといえます。
次に、右のチャートをご覧ください。株価のパフォーマンスはマイナスでしたが、各セクターにどのくらいのお金が入っていたのでしょうか。
昨年は株価が大きく下落しました。しかし、テクノロジー、ヘルスケアのようにディスインフレーションに有望なところには、着実にお金が入っていました。今年、もしもディスインフレーションが進むようであれば、こういった株価は純流入が期待されます。今後ディスインフレーション、物価が下がってきた場合、セクターの資金流入がどうか確認すると、その資金の流れが本物かどうか確認できるでしょう。
本日は、ディスインフレーションについて確認しました。冒頭でもお伝えしたように、ディスインフレーションに入ると決まったわけではありません。あくまで、ブラード総裁の「2023年はディスインフレーションの年になるのではないか」という発言を受けたものです。
インフレが下がったとき、ディスインフレーションで買われやすいセクターが買われているのであれば、マーケットがディスインフレーションを期待していると分かります。逆に、買われやすいセクターが売り込まれるのであれば、まだインフレが続くとマーケットが考えていると分かります。今後の決算、2月のFOMCの政策を見ながら判断ください。ディスインフレーションになるのか、インフレはまだ鎮静化されないのかで、セクターの有望性は変わります。参考にしていただければと思います。
ファミリーオフィスドットコムでは無料で⾃信で⾏っていただける資産管理から、
エキスパートによるオーダーメイド型の資産管理まで、様々なサービスを提供しています。
[ 目次 ]1 日本株先週の振り返り2 日本株今週の見通し3 今週の為替注目点 日本株先週の振り返り 先週は、 …
米S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが11月1日にダウ工業株30種平均(NYダウ)の構成銘柄にエヌビ …
米大統領選挙にて、次期大統領にトランプ氏が選ばれました。それを受けて先週は株価が大きく上昇しています。例えば小 …
MOVE指数は、米国債市場の金利変動リスクを測定する重要な指標です。金利のボラティリティを示し、その上昇は市場 …
[ 目次 ]1 日本株先週の振り返り2 日本株今週の見通し3 来週の為替注目点 日本株先週の振り返り 先週の日 …
[ 目次 ]1 先週の日本株の振り返り2 今週の日本株の見通し3 来週のドル円相場の注目点 先週の日本株の振り …
景気が停滞する中で物価が上昇する、いわゆるスタグフレーションのリスクが高まっています。その原因と私たちにできる …
アメリカの長期金利が上昇を続けています。一時期は3.6%まで低下していた金利が、10月25日段階では4.27% …
金(ゴールド)と銀がともに高値を更新し、市場の注目を集めています。この記事では、金と銀の価格上昇を支える要因や …
[ 目次 ]1 日本株先週の振り返り2 日本株今週の見通し3 来週の為替注目点 日本株先週の振り返り 10月2 …
[ 目次 ]1 日本株先週の振り返り2 日本株今週の見通し3 来週の為替注目点 日本株先週の振り返り 10月1 …
本日のテーマは『米国株今週の注目材料 企業業績と長期金利そして需給環境!』です。 アメリカの大統領選挙を3週間 …
世界が注目するBRICSサミットの概要 2024年10月22日から24日まで、ロシアのカザンでBRICSサミッ …
中国株市場が再び脚光を浴びています。国慶節連休が明けた直後から上海総合指数は連日上昇し、10月8日には上海総合 …
[ 目次 ]1 日本株先週の振り返り2 日本株今週の見通し3 来週の為替注目点 日本株先週の振り返り 先週の株 …
資産管理に正しい見積費用はあるのでしょうか? 例えば、資産運用の金融商品だけみても相当数あり、手数料は個別に異 …
ファミリーオフィスをつくりファミリーの資産管理を永続的に成長させる。 これがファミリーオフィスの究極的な目的で …
ファミリーオフィスとは、欧州や米国では広く認知されており、資産管理においてはとても優れたシステムだと周知されて …
ファミリーオフィスに依頼をすると費用が高いのではないかといことを良く質問されます。欧米からスタートしたファミリ …