年初以降、アメリカの長期金利が落ち着かない印象です。特に雇用統計やISM非製造業指数が発表されてからの金利の動きからは、少し不思議な感じを受けています。株式市場にも大きな影響を与える金利が今後どうなるのかを確認したいと思います。
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雇用統計の前に、3日のJOLTS(米求人件数)をご覧ください。11月のJOLTSは、賃金の落ち着きを示す内容でした。求人数が879万人と市場予想の882万人を下回っています。アメリカの求人が減っているということは、賃金が大きく上昇するような逼迫した状況ではないことがわかりました。
離職者の数も、先月の563万人から534万人まで減っていますし、自発的な離職者は362万人から347万人に減っています。新しい職場に移れば、給料が上がることをモチベーションに離職する人が減ってきていることがわかります。賃金の上昇がある程度落ち着いてきたこととなり、本来は長期金利が低下してもおかしくないですが、あまり材料視されませんでした。
次にこちらをご覧ください。5日に発表された雇用統計には、マーケットの注目が集まっていました。JOLTSの賃金上昇を裏付けるような内容だったかを確認するためです。結果としては、雇用統計が早期利下げを正当化するには至らなかった印象です。
まず非農業者部門の雇用者数をご覧ください。12月の結果は21.6万人と、市場予想の17.5万人を上回る結果です。これだけを見れば非常に雇用が強いですが、11月に2.6万人、10月に4.5万人の下方修正が入り、合計では7.1万人減となっています。12月の結果と合わせると、プラスマイナス0の印象があります。
次に家計調査をご覧ください。失業率は3.7%(前回3.7%)と、市場予想の3.8%を下回りました。労働参加率も62.8%から62.5%と、3年ぶりに低下しています。労働参加率が減っており、失業率が低いままということを考えると、利下げを正当化する内容ではなかった印象がありました。
ただ、平均受給を見ていくと少し面白いことがわかります。前月比の平均時給は34.27ドルと、前月から+0.43%となっており、前月の+0.35%と比べると増加していることがわかりました。
前年比では4.1%(前月の3.96%)と、こちらも増加しています。このように平均時給が上がっていることが、今回の家計調査からはわかりました。
賃金上昇が収まってきているとのJOLTSから受けた印象に対し、異なる印象を持つ方が多いと思いますが、UAW(自動車会社を中心とした賃上げ交渉)が終わり、結果を反映すると賃金が上昇したと言われています。そのため、賃金上昇は一過性のものではないかと思われます。
さらに細かく確認しましょう。フルタイムワーカーの雇用が減少しており、2020年4月以来で最大となっています。一方で、パートタイムワーカーの雇用は増加しています。フルタイムワーカーの雇用が減り、パートタイムワーカーで補うということは、企業側の雇用に対する自信があまりないことを表しています。今後フルタイムワークを増やす趨勢にないということは、賃金が上がりにくいことに繋がります。そのため、賃金の上昇は徐々に落ち着いてきていると判断できます。
雇用者数を見ると、強い部分はあります。一方で、平均時給は中身を見るとJOLTSと同じように賃金上昇は収まっています。インフレについては、ある程度FRBが自信を持てるような内容、利下げが前倒しになる可能性があると考えられる内容でした。
さらにこちらをご覧ください。同日発表されたISMの非製造業数は、活動が急減速しています。非製造業指数は、今後の景況感を示すものとしてソフトデータを集めたものです。前回のFOMC以降、FRBはインフレよりも雇用と景気に舵を切ったとされていますので、この内容はどうかに注目が集まりました。
市場予想では52.5に対して50.6と、景気の境目である50に再び接近したということで、サービス業の活動が少し減速していることが確認できました。
新規受注も、予想の56.1を大きく下回る52.8となりました。まだ拡大していますが、50を割る可能性も見えてきています。景況感でいくと、あまり良くありません。利下げを正当化できる内容ではあると一応は言えます。
次にこちらをご覧ください。雇用に関しては、さらに鈍化しています。51の予想に対して43.3と、20年7月以来の低水準となり、かなりの驚きをもって捉えられました。JOLTSと雇用統計の中身を見ると、雇用があまり強くないことが見えてきました。さらに雇用指数を見ると低下している、サービス業を中心に雇用が鈍ってきていることがわかりました。
こうした影響を受けて金利がどのように動いたかが、今後のマーケットの見通しを知るうえで、大事なポイントとなると思っています。
まず雇用統計の発表後、雇用者数が増えた初期反応として、長期金利は上昇しました。赤い網掛けが5日の動きですが、まずは10年の長期金利が大きく上昇しました。しかし、その後、雇用統計の内容はそこまで強くない、需給が上がったのは一時的だとわかりました。また、ISMのサービスを確認すると、今後の雇用に自信がないとして早期の利下げを正当化する可能性があると考えられ、長期金利が低下しました。
ただ、その後は再び金利が上昇したことはやや気になる動きです。本来ISMや雇用統計を見ると、金利は横ばいで推移してもおかしくありません。それが戻った背景には、今週の米国債の大量入札が控えていることからのポジション調整か、利下げ期待が昨年からそもそも高すぎることが考えられます。
右下のチャートをご覧ください。5日にも利下げ予想の回数が修正されていることがわかります。昨年のマーケットは、24年が6回程度の利下げだと期待していました。しかし、今は4~5回に向かって修正が入っています。
雇用統計やJOLTS、ISMを見ると、本来は期待が横ばいで推移してもおかしくありません。しかし、期待が修正されているということは、昨年からの過剰な利下げ期待に修正が続いていると言えるのではないでしょうか。そうであれば、今後は雇用統計などを上回る利下げ材料が出てこない限り、修正が若干続き、金利がなかなか下がりにくい状況が続く可能性があるでしょう。
その中で、8日にニューヨーク連銀が出した1年間のインフレ予想は、消費者マインドとしては2~3ヶ月ぶりの低水準となりました。そういった材料が出てくると金利が下がるという事実もありますから、しっかりとした材料が出てくるかどうかが今後の注目点です。ある程度予想の範囲であれば、金利は現在の水準で留まる可能性もあります。そのため、株式にとって大きなプラスとはなりにくい可能性があると思っています。
ちなみにインフレ期待に対するマーケットの金利の動きとは別に、今週は需給として米国債の入札ウィークとなっています。9日に3年債、10日に10年債、11日に30年債で総額1100億ドルの入札があります。今年起債額が大幅に増えることを考えると、無難に消化できるかどうかに注目が集まっています。これが不調であれば、金利が上昇します。インフレとは別に金利の上昇となれば、マーケットを混乱させる可能性があるため注目が必要です。
11日のCPIは注目が落ちてきていますが、しっかりと確認する必要があるでしょう。CPIが下がったうえで、再び利下げ期待が高まるようであれば金利も低下する可能性があります。今後も金利に注目していただければと思っています。
最後にこちらをご覧ください。5日から、大手金融機関を中心に決算がスタートします。現在の市場予想としては、23年の第4クォーターは前年比+3%で予想されていますが、元々6~7%あったものが修正されています。
アメリカの企業は、事前に下方修正した業績見通しを出し、結果で上方に修正する傾向があります。そのため、今回もかなりの下方修正が入っています。結果としては第4クォーターで3%を上回る結果になる可能性が高いですが、高い金利が23年続いたことが、企業業績に今後どう影響するかにマーケットは注目しています。24年は全てのクォーターで前年比プラスを予想していますし、年間を通じて9%~10%のプラス成長を見越しています。CEOのコメント、ガイダンスでいいものが出てくるかどうかに注目が集まります。12日からの決算にもご注目ください。
先週の雇用統計やJOLTS、ISM非製造業の雇用において、雇用に関するインフレが少し落ち着いてきたことが示されました。本来であれば、長期金利が下がってもおかしくありませんが、なかなか反応が薄い状況です。それを上回るような利下げを正当化する材料が今後出てくるかがマーケットの注目となりますし、金曜日から金利が大きく低下しないようであれば、企業業績、EPSが大きく上昇しているかどうかが株価に大きなインパクトを与えることとなります。その意味では、12日以降の決算に注目が集まり、年初の潮目が決まってくるかと思います。ぜひご注目いただければと思います。
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