7月は、米大統領選の構図が大きく変わりました。民主党のバイデン大統領は11月の大統領選に出馬しないことを表明し、ハリス副大統領への支持を表明。現職大統領が再選を目指さないのは56年ぶりのことです。バイデン大統領は討論会でのパフォーマンスの低下や高齢による認知力への懸念から、党内でも撤退を求める声が高まっていました。米大統領は米軍の最高司令官として戦争や核兵器の使用判断を行うため、その判断力が懸念されていたからです。一方、共和党のトランプ前大統領は出馬の意向を示しており、2020年の再対決は実現しないこととなりました。
そして、世界の株式市場では、トランプ前大統領の「アメリカ第一主義」政策への警戒感が広がっています。銃撃事件に屈しない姿勢を見せたトランプ氏の再選を織り込み、米国のダウ工業株30種平均や中小型株指数は上昇しましたが、日本やドイツ、台湾などの市場はドル高是正や関税引き上げ懸念から急落したからです。市場はトランプ氏の再選可能性や、共和党が上下院を制する「トリプルレッド」をメイン・シナリオと考え始めています。
その結果、市場はトランプトレードを意識し、トランプ減税や規制緩和などの恩恵を受けやすい小型株やエネルギー株に資金をシフトさせています。また、米国の長期金利にも影響を与えており、減税策による税収減と歳出増加による財政ファイナンスが増えることが予想されることから、一部投資家が長期国債の保有を減らす流れが見られ、金利が底堅く推移しています。
では、ここからトランプ・トレードが続くのでしょうか。ハリス副大統領が11月の大統領選の民主党候補者に指名されることが確実となり、トランプ元大統領に傾いていた流れは、やや流動的になってきました。
まずは、政治資金が民主党に流れ始める兆しが見えてきました。民主党の結束が高まりハリス氏の支持が広がりつつあります。その結果、選挙資金も集まり始めていると報じられており、ハリス陣営によると、立候補表明から24時間で8,100万ドル(約127億円)の政治献金が集まり、1日の集金額としては史上最高額を記録しました。ただし、ここで注意しておくべきことは、この献金は元々バイデン大統領に振り分ける予定のものであり、撤退見通しとの報道が増えたため資金を滞留させていたものが流れ込んだとの指摘もあります。つまり、ハリス氏を支持した結果かどうかは現時点では不明だとされています。今後、献金の増えたという報道が続くようであれば、ハリス氏支持を裏付けることになり、トランプ・トレードに変化が出てくる可能性があります。
また、ハリス氏がバイデン政権の路線を継承する見通しであるため、ウォール街で従来の民主支持者以外からの支持を得られるかどうかは不透明です。ウォール街は、基本的に「規制緩和」と「減税」を好む傾向があります。ハリス氏は、「富裕層への所得税の引き上げ」「法人税引き上げ」という政策方針を指名していることからウォール街から選好されることはやや難しいかもしれません。ただし、民主党員であるJPモルガンのダイモンCEOがハリス氏支持のスタンスを示すことがあれば、流れが変わる可能性がありますが、トランプ候補が就任した際は、ダイモン財務長官とも報道されているためこちらも不透明です。
このように不透明なことが徐々にクリアになることでトランプト・レードが継続するのかどうか、見極めることができます。引き続き注目していきましょう。
米大統領選の今後の主な日程は、以下の通りです。
- 8月19日 民主党大会。22日までに党指名候補を決定
- 11月5日 大統領選投開票
- 2025年1月20日 新大統領の就任式
今後、大統領・議会選を巡る不透明感が続く中、市場のボラティリティ(変動性)が高まると予想されます。歴史的な経験則では、投票の3ヶ月前はボラティリティが上昇することが確認されています。
出典:The Daily Shot
株式市場、とりわけ小型株はトランプ氏の勝利を見越して堅調に推移してきました。ただ、「恐怖指数」と呼ばれる米国株の予想変動率VIX指数は19日に16.15と、4月下旬以来の高水準に達しています。不確実性が高まる中で、投資家の不安感が増す恐れがあるので注意が必要です。
出典:Trading View