5年に1度の年金財政見通しの結果、5月29日に年金改革法が成立し、6月2日に交付されました。年金はリタイア後の生活を支える長生きのための保険ですが、今回の改正ではその年金受給額を増やす選択肢が増えました。
年金やiDeCo(イデコ)はどのように変わるのか、どう活用していけばいいのかについて解説します。
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イデコは確定拠出年金と呼ばれる制度の一種で、掛け金を自分で運用し、結果次第で60歳以降にもらうお金が変わってくる仕組みです。以前は自営業者などに加入者は限定されていましたが、2017年から加入対象が大きく拡大。会社員などの妻である専業主婦や公務員、務め先に企業年金のある会社員なども対象になったのです。
イデコには次の3つの税制優遇があります。
1.掛け金が全額所得控除される
イデコの掛け金は全額所得税や住民税の課税所得から差し引くことが可能。掛け金は所得税控除の対象となり、その年の所得税や翌年の住民税の負担が軽減されるのです。
2.利息や運用益が非課税になる
定期預金の利息や投資信託の運用益には20.315パーセントの税金がかかりますが、イデコはすべて非課税になります。たとえば運用益が10万円の場合、通常は20.315%の税金20,315円が税金で引かれますが、イデコなら10万円そのまま利益として受け取れるのです。
3.年金を受け取る時の税負担も軽減される
所得税や住民税は、退職金や年金にもかかります。しかしイデコでは、年金を受け取る時に所得控除が受けられます。定期的に受け取る年金には「公的年金控除」、一時金で受け取る時は「退職所得控除」という控除の対象となるので、税負担が軽減されるのです。
確定拠出年金(DC)というのは、投資信託や預貯金で運用し、運用成績次第で受給額が変わる私的年金。掛け金を会社が出すのが企業型で、個人が自分で掛け金を出すのがイデコです。
企業型DCは会社が掛け金を原則出しますが、イデコは自分で出し、運用時に非課税で増やせるのは同じ。ただ、イデコは掛け金を所得税や住民税の計算から控除できるので、税負担が減るというメリットがあるのです。
2020年5月末の年金の改正で、会社員全員がイデコを使えるようになりました。現在の企業型DCを導入している会社でイデコを併用するには、企業型の掛金の上限を下げる契約変更が必要です。そのため現在、企業型DCとイデコを併用している会社は4%だけでした。しかし2022年10月からは契約変更なしでイデコ併用が可能になるのです。
イデコを積極活用するかで、企業型DC加入者720万人の老後資金に大きな格差が生じる可能性もあります。
実際にどのぐらいの会社員がイデコの上積みを実施するのでしょうか、参考になるのは企業型DCを導入している会社の一部で可能な「マッチング」。これは会社の掛け金に加え、社員が自分で掛け金を上積みする制度です。
上積み分は税金の対象外となり、イデコと同じような節税効果があります。マッチングを導入している会社で上積みを実際に選んでいる社員の割合は約3割。併用が可能になった場合、企業型DCを導入している企業の加入者720万人の約3割が、イデコでの上積みをする可能性があると考えられます。
企業型DCやイデコで大切なのは、運用対象です。現在、イデコも企業型DCも半分は元本確保型の預貯金などが選ばれていますが、それでは利息がほとんどつかないので、非課税メリットが十分に活かされていません。
原則60歳まで引き出せない長期投資になるので、長期で資産が増える可能性の高い株式投資信託の比率を高めるようにしましょう。ただし、年齢が高くなるにつれ、株式投資信託の比率を下げていくようにします。
おすすめの比率は「100―年齢(%)」。たとえば、30歳なら株式投資信託の比率を70%にし、50歳なら50%にして、残りを預貯金などの安全資産にするのです。
今回の年金改正では、「公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大」も大きな改正点。現在の年金の支給開始年齢は65歳になっていますが、必ずしも65歳からでないと受け取れない訳ではなく、60歳から70歳までの間で自由に受給開始時期を選べるようになっています。そして今回の改正では、75歳まで選択肢が拡大しました。
年金が75歳からしか受け取れないのではないかという声もありますが、これは間違いです。年金の受取開始年齢の選択肢が広がるだけなのです。
年金の受給開始時期を遅らせると支給額が積み増しされるというメリットがあります。1カ月遅れるごとに0.7%増額されるので、受給開始を75歳にすると、65歳から受給するのに比べ支給額が84%も増えるのです。
支給額が増えると社会保険料や税金も増えるので、実際の手取りが84%増える訳ではありませんが、かなり大きな数字ではないでしょうか。
イデコで運用した余裕資金があれば、公的年金の受給開始時期を75歳まで遅らせるという選択肢も十分考えられるでしょう。
5月29日に成立した年金改革法により、すべての会社員がイデコでの運用ができるようになりました。イデコを積極活用するかどうかで、企業型DC加入者720万人の老後資金に大きな差が生じる可能性があるのです。
また、公的年金の受給開始時期の選択肢が75歳まで拡大し、受給額を増やすことも可能になりました。イデコでの運用を併用している人は公的年金の受給を遅らせることで、どれだけ長生きしても高い金額が支給されるという安心感を得られるようになったのです。
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