最近、海外に移住する日本人富裕層が増加しています。それに伴い、海外の金融機関、特にプライベートバンクの比較や分析に関する相談が増えてきました。以前は、担当者の評判や口座の使い勝手、手数料体系、信用格付、税務についての相談が主でしたが、最近では、口座開設に時間がかかることや、開設自体の難易度が上がったという声が多く聞かれるようになりました。本稿では、こうした変化の背景について、関係者から得た情報を基に裏事情も交えて解説します。
最近ご相談をいただくプライベートバンクに関わる内容として、昔と大きく変わっていると感じているものがあります。例えば、数十億の投資可能資金を持ち、資金の出所(source of wealth)が明確にも関わらず、口座開設に難航したといったお話です。これまでは、このような条件であれば、プライベートバンクの口座開設基準を比較的簡単にクリアできるはずでした。しかし、現状は異なっており、日本人の口座開設が以前よりも難しくなっているのです。
まず、マネーロンダリング防止やコンプライアンスに関する規制が世界的に厳しくなっていることが挙げられます。近年の規制強化やコンプライアンス費用の増加により、口座開設とその後の管理に伴うコストが上昇しているのが現状です。この結果、プライベートバンク側としては、十分な収益を見込めない顧客に対しては口座開設を断る傾向があります。
名目上の最低預入金額と現実
海外のプライベートバンクでは、金融機関によって異なるものの、名目上の最低預入金額はおおよそ5億円から10億円とされています。しかし、現実には、この最低預入額を超えたとしても、単にドル定期預金、普通社債、ETFなどの運用だけでは、金融機関のコストを賄うことができないため、口座開設を断られるケースもあるようです。
次に、日本人富裕層の世界的なステータスが以前より低下していることも影響しています。富裕層の調査分析で評価の高いウェルスエックス社は、「World Ultra Wealth Report」というレポートを毎年発行しており、総資産額3000万ドル(約45億円)以上の超富裕層人口(UHNW)を報告しています。
2017年の超富裕層のランキングによれば、1位は米国で73,110人、2位は日本で16,740人、3位は中国で16,040人、4位はドイツで13,420人でした。しかし、5年後の2022年のデータでは、1位は米国で129,655人、2位は中国で47,190人、3位はドイツで19,590人、4位は日本で14,940人と、順位が大きく変動しています。しかも日本だけが増えていません。
このデータから、日本の富裕層が占める割合が世界的に低下していることが分かります。その結果、日本人富裕層のプレゼンスや優先順位が低下し、口座開設の基準が厳しくなりました。
2008年のリーマンショック前まで、日本の富裕層は海外金融機関から非常に重宝されていました。しかし、リーマンショック以降、世界的な株価と不動産価格の上昇、さらにメガIPOの増加が追い風となり、米国と中国の富裕層数が急成長しました。その結果、日本人富裕層の金融機関内での優先順位が低下しています。また、中華系富裕層が動かす資金量はアジアで突出しており、金融機関は中国系富裕層を優先せざるを得ない状況です。これにより、金融機関は日本人富裕層を以前ほど優先的に扱わなくなり、口座開設の基準が厳しくなっています。
これはあくまでも一例に過ぎず、金融機関によって状況は変わります。しかし、10年前に比べて日本人富裕層がプライベートバンクの口座を開設することが難しくなっているのは事実です。
また、プライベートバンキングに口座開設ができたとしても、誰が担当者になるかがポイントです。口座数が増えたことからジュニアクラスのバンカーが担当になることもあり、投資家自身の方が金融情勢や商品に精通している場合もあります。さらに、担当者が顧客対応のみに注力し運用については理解が不足しているケースもあるようです。したがって、口座開設が可能かだけを確認するのではなく、誰が担当者になるかも含め慎重に検討し口座開設をする必要があります。
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