今週の注目の経済指標は、物価と消費に関わるCPIと小売売上高でした。小売売上高は、米国経済の約7割を占める個人消費の動向を示す極めて重要な指標であり、その数値は経済全体の健康状態を測るためのバロメーターとなるからです。特に、インフレや家計貯蓄の減少が続く中、小売売上高の動向がどのように変化しているかは、今後の経済政策や市場の動きに大きな影響を与える可能性があります。
過去2年間、インフレ率の高騰や家計貯蓄の減少が消費者の購買意欲に影響を与え、小売売上高は緩やかに減速する傾向にありました。しかし、消費が完全に落ち込むことなく、底堅い動きを維持してきた点は注目に値します。7月の小売売上高は前月比1.0%増加し、7096億6800万ドル(約105兆円)に達し、これは市場予想を上回る結果となりました。さらに、自動車・部品を除いた売上高も0.4%増加し、個人消費の堅調さが確認されました。
出所:Investing.com (米小売売上高:前月比)
この堅調な小売売上高の伸びは、4-6月期の国内総生産(GDP)が年率2.8%増加した要因の一つでもあります。米国経済は依然として力強さを保っており、これは個人消費の底堅さが支えていると考えられます。このような状況は、今後の経済政策において重要な示唆を与えるものです。特に、インフレ率が鈍化しつつある今、FRB(連邦準備制度理事会)が9月の利下げを検討する際には、これらの消費指標が大きな役割を果たすでしょう。
また、同時期に発表された週間の新規失業保険申請件数が市場予想を下回ったことも注目すべき点です。8月10日までの1週間の新規失業保険申請件数は、前週比7000件減の22.7万件と予想の23.5万件を下回り、2週連続の減少となりました。
出所:Investing.com (米新規失業保険申請件数)
これにより、米国の労働市場が安定しており、想定よりも悪化していないことが確認されました。労働市場の安定と個人消費の堅調さは、米国経済が軟着陸する可能性を示唆しており、これが市場に対する安心感を与えています。
さらに、先週発表されたニューヨーク連銀の家計債務と信用調査の結果も、米国経済の現状を理解する上で重要です。第2四半期の家計債務は17兆8000億ドルに達し、これはコロナ禍前に比べて3兆7000億ドル増加しています。
その中でも、クレジットカードの債務残高は前年比+10.8%の1兆1400億ドルとなっています。今回、注目されているのはクレジットカードの支払いにおける延滞率の上昇です。30日以上の延滞は9.05%で13年ぶりの9%台、90日以上の延滞は10%を超えてこちらも13年ぶりの高水準になっています。
出典:New York Fed (30日以上の延滞)
出典:New York Fed (30日以上の延滞)
今回の小売統計からは、現在の家計は健全な状態を保てていることを示している一方で、このように債務の延滞率が上昇傾向にあり、また、NY Fedが統計に組み入れていないBNPL(Buy Now Pay Later)という後払いの債務も急増していることなどを踏まえると、現時点では底堅い個人消費と言えるものの、引き続き消費関連の経済指標には注目が必要だといえます。
ただ、昨日の市場反応を見る限りでは、現時点までは米国経済は依然として底堅い個人消費と安定した労働市場と経済の先行きに対する楽観的な見方が広がっています。市場参加者や投資家は、これらの指標をもとに今後の経済政策や市場動向を注視しており、特にFRBの次の動きに注目です。今後の経済指標やジャクソンホール(8月22~24日)でのFRBの声明に対する関心が一層高まることが予想されます。
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