今日はインド株市場の最新動向について解説します。インド株は最近、大きな調整局面に入っていますが、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。また、今後の展望や注目のIPO、そして地政学的リスクについても詳しくお話しします。
インド株の調整局面と要因
まずは、インド株市場が現在直面している調整についてです。代表的な株価指数であるSENSEXは11月に入り、9月の最高値である8万5978から一時10%も下落しました。この調整の背景にはいくつかの重要な要因があります。
以下、インドSENSEX指数
出典:Trading View
ひとつ目は、新興財閥であるアダニ・グループの問題再燃です。アダニ・グループに関連する贈収賄疑惑が再び注目を集めており、これが投資家心理に大きな影響を与えています。また、インド市場の成長期待が高まる中で、エネルギーや素材セクターにおいて企業業績が悪化したこともあります。特に、中国の鉄鋼供給過剰が価格に影響を与え、関連企業の収益を圧迫しています。
また、アダニ・グループのゴータム・アダニ会長が米国検察当局によって贈収賄容疑で起訴されたことも大きな要因です。この影響で、グループ傘下のアダニ・エナジー・ソリューションズは26%、アダニ・エンタープライゼズは21%の株価下落を記録しました。こうした問題がインド株全体にどのような影響を与えるのか、注目が集まっています。
中長期的にインド経済には強みがある
しかし、インド株市場が短期的な調整に直面しているとはいえ、中長期的には非常に強い成長基盤があります。その理由のひとつは、インドが持つ強力なファンダメンタルズです。人口増加や内需主導型の経済構造により、インドは世界的なリスクから比較的影響を受けにくいという強みがあります。
例えば、インド株の予想PER(株価収益率)はQUICKによれば24倍台と、過去5年の平均水準に戻っています。これは株価が割安であると見なされる要因であり、今後の成長に対する期待が投資家の買いの手掛かりになる可能性があります。また、国内の個人投資家がインド株の安定的な買い支え役として大きな役割を果たしています。
さらには、米国の対中政策がサプライチェーンの移転を促していることも、インドにとって追い風となっています。例えば、米アップルの「iPhone」の組み立てを手掛ける台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業はすでにインドに進出しており、インドで組み立てられる「iPhone」の数は「7台に1台」と報じられています。こうしたグローバル企業の進出は、インド経済の成長を支える要素となっています。
大型IPOと市場への影響
次に、今後のインド市場における大型IPOについて見ていきましょう。韓国の現代自動車のインド子会社であるヒュンダイ・モーター・インディアは、10月22日にインド市場に上場しました。売り出し額は2,787億ルピーで、インド市場史上最大のIPOとして注目され、2024年における世界のIPOの中でも2番目の大きさとなりました。また、料理宅配サービスを手掛けるスウィギーもSEBIの承認を受けて上場を予定しており、約1100億ルピーの株式が市場に投入される見込みです。
ただし、これほど多くの大型IPOが相次ぐことで、既存銘柄の取引には影響が出る可能性があります。投資家にとっては、どの銘柄に資金を配分するか、慎重に判断する必要がある局面です。また、アダニ・グループの中核企業であるアダニ・エンタープライゼズが約13億ドル規模の株式売り出しを行う予定であり、これが市場全体にどのような影響を与えるのか注目されています。
中国市場との競争と地政学リスク
続いて、インド株市場が直面する中国市場との競争について見ていきましょう。これまで「中国の終わり・インドの台頭」というテーマが注目されてきましたが、中国政府が金融緩和や不動産市場の支援策を進めたことで、投資家の間で中国市場への関心が再び高まっています。この影響で、インド株市場に流入していた資金が再び中国に向かう可能性があり、インド市場にとって不透明感が高まっています。
さらに、地政学的なリスクもインド株市場に影響を及ぼしています。中東情勢の悪化、特にイスラエルの軍事行動などが地域の緊張を高めており、インドもエネルギーや石油化学関連の取引において影響を受ける可能性があります。このような不安定な状況が投資家のリスク回避姿勢を強め、インド株の売り圧力につながることが懸念されています。
トランプ氏の再選とインド株への期待
次に、トランプ前米大統領の再選がインド市場にどのような影響を与えるかについてです。トランプ前大統領は、メキシコやカナダからの犯罪や薬物の流入を防ぐため、両国からの全製品に対して25%の関税を課す考えを示しました。また、中国製品に対しても追加で10%の関税を導入する方針を打ち出し、関税を交渉の手段として他国に対応を求める姿勢を明確にしていて、これがインドにとって有利に働くと見られています。モルガン・スタンレーもインドと日本の株式を中国よりも選好していると述べており、これはインドに対する投資を後押しする材料となっています。
著名な投資家であるマーク・モビアス氏も「サプライチェーンは中国から離れつつあり、これはインドや東南アジア諸国にとって追い風だ」と述べており、特にインドは労働力と人件費の面で競争力があると評価されています。
今後の展望:調整後のインド株市場はどうなる?
最後に、今後のインド株市場の展望についてまとめます。短期的な調整が続く中、インド市場の成長可能性は依然として高いと評価されています。特に、インドの主要産業であるITサービスセクターの業績改善への期待や、インド準備銀行の利下げによる投資家心理の改善が期待されています。
今こそ、インド市場の持つポテンシャルを再評価し、長期的な視点で成長を見据えた投資戦略を構築する絶好の機会です。短期的な調整を経て新たな買い場が形成される可能性があり、インド市場は再び輝きを取り戻すかもしれません。中国との競争や地政学的リスクに直面しながらも、インドの成長ストーリーはまだまだ終わりを迎えていません。 今日はインド株市場の調整と今後の展望についてお話しました。大型IPOや地政学的リスク、そしてトランプ氏の再選など、さまざまな要因が絡み合う中で、インド市場には依然として多くの可能性が残されています。