トランプ政権は4日、中国からの全輸入品に対し10%の追加関税を適用しました。これに対し、中国も米国産石炭やLNGに最大15%、原油や農業機械などに10%の関税を課すと発表し、10日から実施されます。ただ、カナダ・メキシコに対する25%の関税は1カ月延期され、国境警備の強化が交渉の焦点となりました。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「史上もっとも愚かな貿易戦争」と厳しく批判し、政権内でも意見が分かれています。第一政権の鉄鋼関税とは異なり、今回の全品目への追加関税は戦略性に乏しく、G7内での摩擦を引き起こす懸念があります。
トランプ政権の交渉術
トランプ大統領は2月1日に大統領令を発令し、2月3日にカナダ・メキシコと協議。その後、2月4日の発動を1カ月延期しました。この一連の動きは、ビジネス交渉のような駆け引きを思わせます。メキシコは早期から対話に応じましたが、カナダは強く反発し、報復措置も示唆。しかし、最終的に国境対策の強化といった譲歩とも取れる対応に転じました。カナダにとってアメリカは最大の貿易相手であり、関係悪化は経済に深刻な影響を及ぼしかねないため、短期間での交渉が行われたとみられます。
第一次トランプ政権時の貿易戦争からのヒント
2018年から2019年にかけての米中貿易戦争では、市場は当初大きく調整しましたが、その後の金融政策の緩和や交渉の進展によって回復しました。S&P500は一時約20%下落したものの、2019年末には年初から約29%上昇し、市場の適応力が示されました。この期間、テクノロジー株やグローバル企業の収益には悪影響が及びましたが、一方でディフェンシブ銘柄や金、米国債といったリスクオフ資産に資金が流れる動きも見られました。
2025年の新たな貿易戦争では、前回とは異なるリスク環境が想定されます。特に、米中のデカップリングが進んでいることや、米国のインフレ圧力が依然として強いことが重要な違いです。前回はFRBの金融緩和が市場を下支えしましたが、今回は利上げや金融引き締めが継続しており、株価の回復は以前よりも鈍くなる可能性があります。こうした環境では、資産保全を重視したポートフォリオ戦略がより重要となります。
市場の動向を見極めるうえでは、関税の影響が企業収益にどの程度波及するか、中国がどのような対抗措置を講じるか、FRBの政策スタンスがどう変化するかを注視する必要があります。株式市場のボラティリティが高まる中、長期的な視点でリスクを分散し、流動性や安全資産の確保を意識した資産管理が求められます。
市場への影響と今後の展望
今回の関税措置により、関係4カ国のGDPは年間90兆円規模の減少が予想されており、特に米国自身がその半分を負担する可能性があります。貿易摩擦の長期化により、世界経済の減速やインフレの懸念も広がっています。米中対立は2018~2019年の状況と比較すると、中国経済の減速が見られるため、アメリカの方が持久力を発揮できる可能性があります。しかし、中国もエネルギー関税や独占禁止調査などの対抗策を講じており、今後の交渉の行方が市場に与える影響は計り知れません。トランプ大統領は中国との協議が予定されていることを明かし、「良い話し合いになるだろう」と述べましたが、合意に至らなければさらなる関税強化を示唆。中国のパナマ運河への関与やフェンタニル問題にも言及し、対中圧力を強める姿勢を見せています。
2025年のトランプ政権の関税政策が市場を確実に揺さぶるでしょう。しかし、本質的には企業業績と経済状況がどのようになるかにより株価は変動します。株価の動きが大きくなっても株式の本質的な価値にフォーカスを当てた判断を行えば問題ありません。