金価格が史上初めて1トロイオンス3,000ドルを突破し、市場は熱狂と慎重さが入り混じる複雑な展開となっています。この歴史的な節目を迎え、世界の金融機関は相次いで年内の価格予測を上方修正しています。特にオーストラリアの大手投資銀行マッコーリーが掲げた「年内3500ドル 」という目標値は市場に大きな反響を呼んでいます。

出所:investing.com
金価格高騰を支える三大要因
現在の金価格上昇を牽引しているのは、主に以下の3つの要因です。
第一に、トランプ前大統領の経済・外交政策に対する警戒感の高まりです。彼が再び政権を握る確率が上昇する中、鉄鋼・アルミニウムへの追加関税をはじめとした保護主義的な通商政策への懸念が台頭しています。これにより、従来の安全資産である米国債やドルでは対応できないシステミックリスクに対して、金が代替的なヘッジ手段として注目を集めています。
第二に、複数の地域における地政学的緊張の継続が挙げられます。中東ではガザ地区を中心とした紛争やイエメン情勢が緊迫化し、東欧ではロシアとウクライナの戦闘が長期化しています。こうした世界的な不安定要素を背景に、リスク回避志向の投資家が安全資産としての金に資金を振り向けています。
第三の重要な要因が、世界の中央銀行による積極的な金買い入れです。過去数年間、中央銀行による金購入量は年間約1000トンという歴史的な高水準を維持しています。特に中国やロシアをはじめとする新興国の中央銀行が外貨準備多様化の一環として金保有を増やしており、これが価格の底堅さを支える構造的な支援材料となっています。
投機的要素も強まる金市場
一方で、足元の急騰相場には短期的な過熱感も漂っています。従来は実需中心だった金市場にも、近年はAIを活用した高頻度取引やCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)による短期売買が増加しています。こうした投機資金の流入が金市場に流動性を供給すると同時に、価格の乱高下要因にもなっています。
金ETFの普及も市場動向に大きな影響を与えています。当初は長期保有を想定して開発された金ETFですが、実際には取引の容易さと手数料の安さから短期売買の道具として活用されることも多いです。この結果、金価格は実需以上に大きく変動しやすい特性を持つようになりました。
上値を抑える潜在的リスク要因
歴史的高値圏に達した現在、見逃せない売り材料も存在します。特に注目すべきは「地上在庫」と呼ばれる過去に採掘された金の存在です。金は腐食しない特性を持つため、理論上はすべての金が市場に回帰する可能性があります。価格が急騰した現在、世界中の金細工品や装飾品がリサイクル目的で市場に出回れば、需給バランスが崩れるリスクも無視できません。
フランスの大手金融機関BNPパリバは「通商問題が予想ほど深刻化しなければ、年後半には価格上昇モメンタムが弱まる可能性がある」と指摘しています。市場専門家の間でも、「米国の政策リスク」が一定程度織り込まれた後は、金市場の関心は再び金融政策の動向に移行するとの見方が出始めています。
中期的な展望とリスク管理
当面は米国の政策不確実性や地政学的リスク、中央銀行の継続的な買い支えによって、金価格がさらに3300ドル水準を試す展開も十分考えられます。マッコーリーが予測する3500ドルも、条件次第では射程圏内に入る可能性があります。
しかし、その上昇の持続性は必ずしも保証されていません。例えば米国の政策リスクが後退したり、地政学的緊張が緩和されたりすれば、2000ドル台への急落も視野に入れておく必要があります。また、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースが市場予想を下回る場合も、金価格の重石となるでしょう。
金は安全資産としての側面を持ちながらも、短期的には極めて投機性の高い商品でもあります。価格の高騰に踊らされることなく、各自の投資目的に応じた冷静な視点とリスク管理が今後一層求められます。個人投資家は特に、長期分散投資の一環としてのポートフォリオ配分を意識し、価格変動に一喜一憂しない姿勢が重要になるでしょう。
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