富裕層にとっての資産活用は、単なる「守り」や「増やす」ことに留まらず、「社会への貢献」という重要な意義を持ちます。この社会貢献活動（フィランソロピー）は、一族の資産をただ継承するだけでなく、家族の絆を深め、次世代に責任感を教え込むための強力なツールとなります。

しかし、フィランソロピーを効果的かつ戦略的に行うには、単発の寄付ではなく、明確な理念に基づいた「戦略」が必要です。本記事では、ファミリーミッション・ステートメント（FMS）を軸に、富裕層がフィランソロピーを始めるための具体的なステップと、その長期的なメリットについて、専門家が解説します。

1. ファミリーミッション（FMS）がフィランソロピーに不可欠な理由

戦略的なフィランソロピーを成功させるには、活動の根幹となる理念が必要です。FMSは、この理念を明確に定義し、活動に一貫性と目的意識を与えます。

1-1. 目的の明確化と「社会貢献の軸」の設定

FMSには、一族が最も大切にする価値観や、社会に対する責任が言語化されています。フィランソロピー活動の分野（例：教育、環境、芸術など）を、このFMSに基づいて選定することで、活動が「一族のアイデンティティ」と深く結びつきます。

• 効果: FMSがあることで、「どこに寄付すべきか」という判断が感情的・場当たり的になるのを防ぎ、活動の成果を最大化できます。

1-2. フィランソロピーは「家族の絆」を育む

フィランソロピー活動は、世代を超えた家族が共通の目標に向かって協力する機会を提供します。活動を通じて、家族は資産の「受け取り手」から「社会への貢献者」へと意識を変革させ、共通の目的意識を持つことができます。

家族全員が関わるフィランソロピーが、どのようにして家族の絆を深め、次世代育成につながるのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

【関連記事：社会貢献を『家族の絆』に変える方法：次世代と共に進めるフィランソロピーの秘訣】

2. フィランソロピーを始めるための具体的な3つのステップ

FMSに基づき、フィランソロピーを戦略的に進めるためには、以下のステップを踏むことが重要です。ファミリーオフィスは、このプロセスの設計と実行をサポートします。

2-1. 【STEP 1】活動の分野と目的の特定

FMSで定めた価値観（例：創業者の地元への恩返し、次世代のイノベーション支援など）に基づき、集中的に支援する分野を特定します。

• 重要な問い: 「一族の資産とスキルを最も効果的に活用できる分野はどこか？」

2-2. 【STEP 2】最適な実施手法の選定と実行

目的と規模に応じて、最も効率的かつ効果的な実施手法を選定します。手法によって、税制上のメリットや管理の複雑さが大きく異なります。

• 主な手法: 寄付（直接/基金）、財団設立、社会貢献投資（インパクト投資）。

最適な手法の選び方については、それぞれのメリットとデメリットを比較したこちらの記事をご覧ください。

【関連記事：寄付・財団設立・社会貢献投資：富裕層が選ぶフィランソロピーの3つの手法を比較】

2-3. 【STEP 3】効果測定とガバナンスの確立

戦略的なフィランソロピーは、「効果測定」が不可欠です。活動がFMSの目的に沿っているか、社会にどのようなインパクトを与えたかを定期的に評価します。また、活動の透明性を確保し、私的な支出と混同されないよう、厳格なガバナンス体制を確立します。

3. 富裕層が実践すべきフィランソロピーの活用術（FAQ）

3-1. Q: フィランソロピーは次世代育成にどう役立ちますか？

A: フィランソロピー活動は、次世代に「資産の責任」を教える最高の教育です。財団の理事会に参加させたり、寄付の対象を選定させたりすることで、彼らは資産の管理・運用だけでなく、社会的な影響力を行使するリーダーシップと倫理観を実践的に学びます。

3-2. Q: 慈善活動を行う上での税務上のメリットはありますか？

A: はい、寄付や財団設立は、所得税、相続税、法人税など、さまざまな税制上の優遇措置を受けることが可能です。ただし、税務上のメリットを最大限に享受するためには、活動開始前に専門家によるタックスプランニングが不可欠です。FMSに基づき、資産承継戦略全体の中でフィランソロピーを位置づけることで、最も効率的な税務戦略が実現します。

3-3. Q: フィランソロピー活動のリスクとは？

A: フィランソロピーの失敗とは、単に寄付先が不適切だったということではありません。最大の失敗は、「FMSに基づかない場当たり的な活動」により、家族間の意見対立を生んだり、活動が継続できなくなったりすることです。活動の「軸」がないと、次世代がその意義を見失い、活動が途絶えてしまいます。

まとめ：フィランソロピーは「未来の繁栄」への投資

富裕層にとってのフィランソロピーは、資産の「出口」の一つではなく、「未来の繁栄」への投資です。FMSに基づき、戦略的にフィランソロピーを行うことで、資産の保全、家族の絆、そして次世代の育成という、三位一体の目標を達成できます。

戦略的な社会貢献活動の設計と実行にお悩みの方は、中立的な専門家集団であるファミリーオフィスドットコムにご相談ください。

監修・執筆：渋谷 豊

ファミリーオフィスドットコム株式会社　代表取締役 大学卒業後、邦銀にてキャリアをスタート。大学院を修了後、Citibank N.A.、仏銀ソシエテ・ジェネラル信託銀行、Societe Generale Bank & Trust Singapore において、プライベートバンキングおよびアセットマネジメント業務に従事。海外勤務7年間を含め、グローバルな資産管理の実務経験を有する。 帰国後は、上場企業グループ傘下の投資顧問会社の代表取締役として、富裕層および上場企業オーナー向けの資産運用助言・ファミリーオフィス業務を統括。資産運用・管理領域における実務歴は25年以上に及ぶ。 2019年設立のファミリーオフィスドットコム株式会社において、中立的立場から資産管理・運用に関する総合的支援を提供。また、2019年より、厚生労働省年金局資金運用課（GPIF 所管）の資産運用研修にて講師を務めている。慶應義塾大学大学院修了。

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