事業の成功により所得が最高税率（55%）に達した現役経営者にとって、税負担は資産形成の最大の障害です。この課題を克服するには、個人と法人の資産を統合的に扱う高度なタックスプランニングが不可欠です。

本記事では、年収8,000万円の会社経営者（総資産約32億円）が、資産管理会社と節税制度を駆使し、所得税率を最適化しつつ、次世代への承継設計を確立した事例を解説します。

1. 相談者の課題：所得税55%と資産承継リスクの同時解決

今回のオーナー様は50代で、事業収益と不動産収入を合わせ年収約8,000万円。個人資産と法人保有資産の合計が約32億円という、極めて高い資産をお持ちでした。

1-1. 課題の核心：所得税の最高税率回避と将来の相続税

• 所得の壁: 個人の所得税率が最高税率（55%）に達しており、手取りを増やす効率が極めて低い。
• 承継リスク: 自社株や法人保有資産の評価額上昇により、将来の相続税負担が回避できない状態でした。

これらの課題は、「法人」と「個人」の資金移動の最適化と、次世代への承継設計を一体で行うことでのみ解決可能です。

2. ファミリーオフィスによる解決策：タックスプランニングの統合

私たちは、税理士と連携し、所得の分散、資産防衛、承継設計を同時に行うための統合戦略を実行しました。

2-1. 【戦略1】資産管理会社による「所得分散」と「防衛ライン」の構築

• 実行: 資産管理会社（持株会社）を設立し、個人・法人間の資金移動を最適化。
• 所得圧縮: 役員報酬・退職金・社宅制度・法人保険といった法人経費を活用できる仕組みを設計し、個人所得を分散・圧縮しました。これにより、所得税の最高税率を回避し、実質的な手取り額を最大化しました。

2-2. 【戦略2】家族信託と資産の「評価圧縮」戦略

将来の相続税負担を回避するため、法務と税務の専門家が連携しました。

• 評価回避: 法人保有資産（自社株・法人預金）と個人資産（不動産、金融資産）を統合したキャッシュフロー管理を実施し、効率的な資産組み替えを提案。
• 承継設計: 家族信託を併用することで、次世代への株式や資産の承継ラインを明確化。税制上のメリットと、家族間のトラブル回避を両立させました。

2-3. 統合管理によるリスクの最小化

個人資産（12億円）と法人資産（10億円）を統合的に分析し、グループ全体の税務リスクを抑制する体制を構築しました。これにより、個別の対策では見落とされがちなリスクを回避しました。

3. まとめ：経営者の税務戦略は「法人と個人の統合」から始まる

この事例は、現役経営者の税務対策が、個人所得の圧縮と法人資産の活用を統合的に行う「タックスプランニング」から始まることを示しています。所得の最高税率を回避し、資産防衛と円滑な承継を実現するためには、中立的な専門家による全体最適の設計図が不可欠です。

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監修・執筆：渋谷 豊

ファミリーオフィスドットコム株式会社　代表取締役 大学卒業後、邦銀にてキャリアをスタート。大学院を修了後、Citibank N.A.、仏銀ソシエテ・ジェネラル信託銀行、Societe Generale Bank & Trust Singapore において、プライベートバンキングおよびアセットマネジメント業務に従事。海外勤務7年間を含め、グローバルな資産管理の実務経験を有する。 帰国後は、上場企業グループ傘下の投資顧問会社の代表取締役として、富裕層および上場企業オーナー向けの資産運用助言・ファミリーオフィス業務を統括。資産運用・管理領域における実務歴は25年以上に及ぶ。 2019年設立のファミリーオフィスドットコム株式会社において、中立的立場から資産管理・運用に関する総合的支援を提供。また、2019年より、厚生労働省年金局資金運用課（GPIF 所管）の資産運用研修にて講師を務めている。慶應義塾大学大学院修了。

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