中東における地政学的リスクの高まりを背景に、世界の金融市場が大きく動揺しています。米国とイランを巡る軍事的緊張や停戦交渉の難航が投資家心理を冷やし、米国株式市場では急激なリスク回避の売りが広がっています。さらに、通常であれば有事の際に安全資産として買われるはずの金(ゴールド)までもが大幅な下落に見舞われており、株式・コモディティの両市場で警戒感が一段と強まっています。本記事では、ダウ工業株30種平均の急落、ナスダック総合株価指数の「調整局面入り」、そして金相場の「弱気相場入り」という3つの視点から、現在の金融市場の動向を読み解きます。
[ 目次 ]
NYダウ急落の背景―米イラン交渉の難航と原油高が株売りを加速
3月26日の米株式市場において、ダウ工業株30種平均は反落し、終値は前日比469ドル38セント(1.01%)安の4万5960ドル11セントとなりました。この急落の主な要因は、米国とイランの停戦交渉が難航していることへの強い警戒感です。
米国が示した和平計画に対してイラン側は拒否姿勢を示し、独自の5項目の条件を逆提案するなど、双方の溝は深まっています。トランプ大統領は自身のSNSでイランに対し「手遅れになる前に早く真剣になった方がいい」と警告を発しており、歩み寄りの兆しは一切見えていません。加えて、米国のニュースサイトが悪化する情勢を受け、米国防総省が地上軍の投入や大規模な爆撃といった具体的な軍事計画を策定していると報じたことで、戦闘激化への懸念が一段と高まりました。
この中東情勢の緊迫化はエネルギー市場にも波及しています。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物の期近5月物が一時1バレル95ドル台半ばまで上昇し、前日から5%以上急騰する場面がありました。原油価格の高騰はインフレ圧力を再燃させ、個人消費の減退や企業業績への悪影響を引き起こすとの見方が広がり、株売りを促しています。個別銘柄では、ボーイングやゴールドマン・サックス、キャタピラーといった景気敏感株に加え、エヌビディアやアマゾン・ドット・コムなどの主力株も軒並み下落しました。
ナスダックは「調整局面入り」―マグニフィセント7の不調が鮮明に
ダウ平均の下落以上に深刻なのが、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数の動向です。26日の同指数は前日比521.744ポイント(2.37%)安の2万1408.081と大幅に反落しました。これにより、2025年10月29日に付けた最高値(2万3958)からの下落率は10.6%に達しました。
金融市場では、直近高値からの下落率が10%を超えることを「調整局面入り」と呼び、数カ月にわたる株価の停滞を示唆する重要なサインとされています。ナスダックはこの目安を超え、本格的な調整局面へと突入しました。
背景には、長らく相場を牽引してきた米巨大ハイテク企業群「マグニフィセント7」の不調があります。未成年のSNS依存に関する訴訟で米裁判所から損害賠償の支払いを命じられたことが悪材料となり、メタプラットフォームズとアルファベットが大幅安となりました。アルファベット株は2025年末比で7%安と、2025年11月以来の安値水準に沈んでいます。テスラやマイクロン・テクノロジーなども軟調な値動きが続いており、これまで相場を支えてきたハイテク主導の上昇トレンドに大きなブレーキがかかっていることが浮き彫りとなっています。
セオリー崩壊?――金が「弱気相場入り」という異例の事態
株式市場が動揺する中、さらに市場関係者を驚かせているのが金(ゴールド)価格の急落です。通常、地政学的リスクが高まる局面では、金は「安全資産」として資金の逃避先となるのがセオリーです。しかし、今回の米イラン軍事緊張下においては、そのセオリーがまったく機能していません。
金価格は2026年1月末に記録した1オンスあたり5,600ドルの過去最高値から急激に下落し、現在は4,400ドル台で推移しています。ピークからの下落率は20%以上に達しており、市場が「弱気相場入り」と定義する水準を超えました。
この異例の事態の背景には、複合的な要因があります。第一に「米ドルの独歩高」です。米ドル指数(DXY)が急伸して100ポイントを突破しており、ドル建てで取引される金は米国外の投資家にとって割高感が強まり、需要の急減を招いています。
第二に「FRBの高金利政策」です。市場が期待していた利下げ観測は後退し、パウエル議長も高金利環境への適応を促しています。原油高がインフレを長期化させていることも利下げを遠ざける要因となっており、10年米国債利回りの上昇とともに、利息を生まない金を保有する理由が薄れ、資金が債券へと流出しています。さらに、先物市場における弱気筋のマージンコールによる強制決済が雪だるま式の売りを発生させ、価格急落に拍車をかけました。
今後の展望―荒れた相場はしばらく続く見通し
今回の市場の混乱は、株式市場の調整にとどまらず、金市場の弱気相場入りという形で資産クラス全体に広がっています。投資家は米国とイランの停戦交渉の行方や、それに伴う原油価格の推移に極めて神経質になっています。
一方、スイスの投資銀行UBSなど 一部の専門家は、過去の紛争時の歴史や中央銀行の実物需要といった長期的なファンダメンタルズを根拠に、金を手放すべきではないと主張しています。米国株についても、S&P500指数の予想PERがおよそ1年ぶりに20倍を下回り、割高感が薄れたと判断した投資家による資本財などへの買い戻しの動きも一部で見られ始めています。
市場は現在、新たな均衡点を探る「価格発見」の局面にあり、今後数週間は荒い値動きが続くことが予想されます。中東からの報道とFRBの金融政策の動向から、当面は目が離せない状況が続くでしょう。ただし、今回の下落の多くは需給悪化により下落の側面が大きく、また、プットオプションの購入が増えていることなども踏まえると、イラン情勢が好転すれば需給環境は大きく変化し、その際は巻き戻しは大きくなる可能性が高いといえそうです。
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