日経平均、2カ月ぶり安値水準に沈む
2026年7月28日の東京株式市場で、日経平均株価は前日比2566円27銭(3.95%)安の6万2364円92銭で取引を終え、歴史的な下落幅を記録しました。日中の下げ幅は一時3000円を超え、節目の6万2000円を割り込む場面もあり、約2カ月ぶりの安値水準となりました。下落を主導したのは、これまで相場を牽引してきたAI・半導体関連銘柄です。
象徴的だったのが半導体メモリー大手、キオクシアホールディングスの急落です。同社株は一時、値幅制限の下限であるストップ安水準まで売り込まれました。この急落により信用取引の追加証拠金(追い証)発生が見込まれ、資金手当てのための換金売りが他のハイテク株にも波及するとの警戒感が市場全体に広がりました。結果として、アドバンテストや東京エレクトロンなどの関連銘柄が10%以上下落したほか、世界的なハイテク株との連動性が高いソフトバンクグループも約2カ月ぶりに節目の5000円を割り込みました。東証33業種でも、電機や機械、化学、非鉄金属など、これまで相場を押し上げてきた銘柄群の下げが目立ち、短期投資家による投げ売りの連鎖が下落に拍車をかけたとの見方も出ています。
エヌビディアの「循環的取引」と信用リスク懸念
今回の世界的な株安の最大の要因とされるのが、米国のAIブームを牽引してきたエヌビディアを取り巻く急激な環境変化です。同社は総額7500億ドル(約122兆6600億円)超のAIインフラ案件を巡り協議を進めていると報じられました。具体的には、AI開発を手がけるオープンAIの大規模データセンター計画に関連し、最大2500億ドルの融資保証や、最大3500億ドル規模の半導体購入資金支援などが検討されているとされます。
非上場のオープンAIなどは資金調達コストが高いため、高格付けのエヌビディアが支援する形が取られていますが、これが同社自身の財務や短期的なキャッシュフローの悪化を招くとの懸念が浮上しました。半導体供給と購入資金提供を同時に行う「循環的な取引」への警戒感から、同社の債務不履行(デフォルト)リスクに備える5年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証コストは過去最大の上昇を記録しました。AIインフラ整備に向けた起債が相次ぐ一方、不透明な簿外取引を通じた資金調達手法への懸念が将来的な格付け引き下げにつながるとの警戒感を生み、投資回収への不安が市場全体に広がっています。
アジア市場の動揺と中国勢台頭による競争激化
日本市場の下落は、アジア発の悪材料によってさらに増幅されました。同日の韓国総合株価指数(KOSPI)は、サムスン電子やSKハイニックスなど主力半導体銘柄が軒並み6%以上急落したことで一時11%安となり、サーキットブレーカーが発動される事態となりました。新興企業向け市場のコスダック指数も大幅下落し、日本や米国の指数と比べても韓国市場の下落率の大きさが際立ちました。
この「韓国発AI株安の第2弾」の背景にあるのが、中国企業の台頭による競争激化への懸念です。中国の半導体メモリー大手、長鑫存儲技術(CXMT)の親会社が上場したことで、メモリー市況悪化が具体的に意識されました。加えて、中国の政府系企業が半導体製造工程で使う液浸型深紫外線(DUV)露光装置の製造を開始したとの報道も市場を揺るがしました。具体的な性能や市場シェア拡大の余地は未知数ながら、市場が調整色を強めていた局面で敏感に反応され、オランダの製造装置メーカーをはじめ、国内の関連株にも連想売りが波及しました。
債券・為替市場の動向と今後の展望
株式相場が大きく揺れる中、債券相場は複雑な動きとなりました。食品消費税を2027年4月から1%に引き下げる方針が固められたとの報道で財政悪化懸念が重しとなる一方、日本株の下落や米国長期金利の低下が買い材料となり、底堅く推移しました。減税に伴う財源の示し方など追加情報が待たれる中、投資家は積極的な買いに向かいづらい状況です。為替市場では、円相場が対ドルで163円台後半の膠着状態となっており、米国のインフレ警戒に伴うドル買い圧力と、為替介入への警戒感が綱引きとなっています。
テクニカル面では、日経平均が中期トレンドを示す75日移動平均線を割り込み、下値不安が強い状態にあります。AI関連株を巡る投資家心理は貪欲さから恐怖へと転じ、あらゆるニュースがネガティブに解釈されやすい脆弱な環境です。ただし、原油価格の下落期待から空運・陸運株が買われ、医薬や自動車などディフェンシブ株が逆行高となるなど、資金が完全に流出しているわけではありません。市場関係者は、日米の金融政策決定会合や巨大テック企業の決算発表が一巡するまでが底入れを探る転換点になるとみており、当面は高い変動率の中で次の材料を模索する展開が予想されます。
今回の歴史的な急落は、これまで日経平均を牽引してきたAI・半導体関連銘柄(アドバンテスト、東京エレクトロン等)への過度な資金集中が、局面の変化によって一気に裏目に出た構造的なリスクを示しています。単なるパニック売りではなく、市場の構造変化として捉える必要があります。
今後の相場を見極める2つの注目ポイント
- 5年物CDSコストの正常化と透明性 エヌビディアの信用リスク懸念が払拭されるには、オフバランス取引(簿外取引)に対する透明性の向上と、跳ね上がった5年物CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)コストの落ち着きが不可欠です。市場がこの財務リスクをどう織り込んでいくかが、ハイテク株底打ちの前提条件となります。
- 次なる主役を探るセクターローテーション ハイテク株から流出した資金がどこに向かうのか(内需株や高配当株、バリュー株などへのシフト)を冷徹に見極めることが重要です。資金の循環構造を把握することで、次なる相場の反転・底打ちタイミングを掴む手がかりとなります。
信用取引の追証回避による換金売りが一巡するまではボラティリティの高い展開が予想されますが、構造変化の裏には必ず新たな投資機会が芽生えます。目先の株価変動に振り回されず、ファンダメンタルズと指標の推移を冷静に観察していきましょう。

