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日本の長期金利が30年ぶり高水準、中東情勢が招く「内憂外患」とは

日本の長期金利が30年ぶり高水準、中東情勢が招く「内憂外患」とは

30年ぶりの高水準まで上昇した長期金利

2026年7月9日、日本の金融市場は大きな節目を迎えました。国内債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2.900%まで上昇し、1996年9月以来、約30年ぶりの高水準を記録しました。この急激な金利上昇の背景には、米国とイランの軍事衝突を震源地とする「中東発のインフレ懸念」という外部要因と、政府の財政・金融政策に対する不透明感という国内要因が複雑に絡み合っています。現在の日本市場は、まさに「内憂外患」ともいえる厳しい状況に直面しています。

中東情勢再緊迫化が世界の金利を押し上げる

事の発端は、中東情勢の再緊迫化です。6月以降は戦闘終結への期待感が市場に広がっていましたが、トランプ米大統領が7月8日にイランとの停戦が「もう終わった」と表明したことで楽観論は吹き飛びました。米中央軍がイランへの追加空爆を開始し、イラン側もホルムズ海峡の再封鎖を示唆するなど、事態は急速に悪化しています。エネルギー輸送の正常化が遠のくとの懸念から原油価格が上昇に転じ、これが世界的なインフレ再燃への警戒を強めています。

こうした「中東発インフレ」への懸念は、世界の債券市場に瞬く間に波及しました。米国では、インフレ圧力に加えて軍事費の膨張に伴う財政悪化が意識され、10年債利回りが4%台後半(一時4.59%台)まで急上昇しました。同時に、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げ予想が足元で6割に達するなど、金融引き締め観測も強まっています。欧州でも英国債の利回りが5%に迫り、ドイツ国債も3%を上抜けるなど、世界同時的な金利上昇が進行しています。

財政拡張路線への不信感が金利上昇に拍車

しかし、日本の長期金利上昇を海外情勢への追随だけで説明することはできません。最大の懸念材料は、政府の「責任ある積極財政」に対する市場の強い不信感です。政府が6月末にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案から、2025年まで盛り込まれていた「財政健全化」の文言が外されたことで、いわゆる「骨太ショック」と呼ばれる債券売りが加速しました。

名目長期金利は理論上、「実質中立金利(潜在成長率)」、「期待インフレ率」、そして将来のリスクに応じた「リスクプレミアム」で構成されます。現在、市場の予想インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は日銀の目標である2%を小幅に下回っており、インフレ期待だけでは直近の金利上昇を説明しきれません。つまり、政府の財政拡張路線による将来の需給悪化懸念が「リスクプレミアム」を急拡大させているとみられます。加えて、政府の意向に配慮するあまり日本銀行の利上げが遅れ、インフレに対して「ビハインド・ザ・カーブ(後手に回る状態)」に陥るリスクも強く意識されています。木原稔官房長官は「きわめて高い緊張感をもって注視」する考えを示し、市場からの信認を損なう政策はとらないと火消しに努めましたが、市場の疑心暗鬼は晴れていません。再度の原油高で物価高が続けば、5月に見られたような補正予算編成に伴う金利急上昇が再来するとの警戒感も根強く残っています。

買い手不在の債券市場、心理的節目「3%」が焦点に

こうした不確実性を前に、債券市場では投資家の買い手控え姿勢が顕著になっています。9日に財務省が実施した5年物国債入札は、応札倍率が3.43倍と過去12カ月平均(3.35倍)と同水準であり、最低落札価格も市場予想と一致する「無難」な結果でした。しかし、投資家が債券の保有リスクを積極的に増やせないため、落札する代わりに先物や既発債を売る動きが見られ、結果として流通市場では幅広い年限で債券売りが続きました。中短期債の需給は比較的良好なものの、リスク量の大きい10年債については「自分が1番手になりたくない」という買い手不在の空気が蔓延しています。市場の焦点は心理的節目である「3%」到達時にまとまった買いが入るかどうかに移っていますが、中東の混乱長期化や秋の補正予算編成、1ドル=170円までの円安進行などが重なれば、「長期金利は3.5%をつける可能性もある」との厳しい見方すら出ています。

株式市場は堅調も、市場全体は中東情勢と無縁ではない

興味深いことに、債券市場が歴史的な下落(金利上昇)に見舞われる一方で、同日の株式市場は対照的な動きを見せました。日経平均株価は前日比1.4%高の6万7743円85銭へと上昇しました。これは、米国の株高を引き継ぎ、エヌビディアや国内のAI・半導体関連株に買いが集中したためです。市場の一部では、中東での戦闘は決定的な深刻化には至らないと判断し、AI関連への投資を継続するロジックが働いています。

しかし、手放しで楽観視できる状況ではありません。株式市場の内部を見ると、原油高が重しとなる空運や小売り、自動車や銀行といったバリュー株は売られており、東証プライム市場では約6割の銘柄が値下がりしました。為替市場でも円は対ドルで162円台前半と約40年ぶりの安値圏にあり、日銀が利上げ姿勢を明確にしない限り、円安圧力は残るとみられます。

現時点における私のメインシナリオとしては、日本の10年国債利回りは当面3%前後を中心に推移すると考えています。日銀が追加利上げを急ぐ可能性は高くない一方、物価は2%前後で定着し、財政赤字拡大による国債増発も意識されることから、現在の市場ではこの水準が最も可能性の高いシナリオとして織り込まれていると考えています。

一方で、投資家として頭の片隅に置いておきたいのがサブシナリオです。中東情勢のさらなる悪化による資源価格の上昇、円安による輸入インフレの加速、財政悪化への懸念、そして日銀の国債買い入れ縮小が重なれば、長期金利が3%を大きく上回る展開も十分考えられます。現時点では市場もこのシナリオを強く織り込んでいるわけではないため、仮に現実となれば市場の反応は想定以上に大きくなる可能性があります。だからこそ、メインシナリオを軸に考えつつも、こうしたサブシナリオを頭の片隅に置いて資産管理を行うことが、これからの相場ではより重要になると考えています。

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