富裕層の投資戦略において、適切なポートフォリオを構築するためには欠かせないのが投資信託です。長期的な資産成長を目指しつつ、リスクを最小限に抑えられためには、投資信託についてどのようなことを知っておくべきなのでしょうか。第2回目は、信託報酬は安い方が良いなど、投資信託に関する誤解についてお伝えしていきます。
[ 目次 ]
信託報酬は、投資信託の運用や運営にかかる様々な費用をカバーするために設定されます。これにはファンドマネージャーの報酬や運用管理費用などが含まれます。一般的には信託報酬が低い方が投資家にとって有利とされていますが、これは一面的な視点です。信託報酬はファンドの運用や運営にかかるコストをカバーするためのものであり、その対価として得られるリターンが大切です。
重要なことは、手数料を引いたあとのリターンがどうかです。
例えば、手数料が5%のファンドで手数料を引いたあとの利益が10%の場合と、手数料が1%のファンドで手数料を引いたあとの利益が2%の場合では、前者の方が優れています。実際はリスクなど他に比較すべきポイントはありますが、ここではあえてリターンだけに限っています。
全く同じ運用をする2つのファンドがあったとすると、手数料が安いほうが良いに決まっています。しかし、ファンドの中に同じ運用をするものは基本的にありません。
特にアクティブファンドの比較においては、手数料だけで見るのではなく、コスト控除後のパフォーマンスでファンドを見る必要があります。
一般的にアクティブファンドの信託報酬は1〜2%ですが、その差はなぜなのか少し検討してみます。
これは実在のファンドの例ですが、例えば、日本株に投資するアクティブファンドが2つあり、一方は信託報酬が1%、もう一方が2%とします。これだけであれば同じ日本株に投資するファンドであり、パフォーマンスが良い方を選ぶと思います。
ではなぜコストに差が出ているかというと、明らかに運用体制が異なるからです。
コスト1%のファンドは、配当利回りが高い順に100銘柄投資しリバランスは半年ごとに行う、といったようにある意味機械的な運用を行います。そのため、リバランス時以外は銘柄入れ替えを行わず、業績の見通しや相場環境などは考慮しません。
一方、コスト2%のファンドは、ファンドマネージャーが常に相場をウォッチし適宜銘柄入れ替えやリバランスを行う、というものです。常にファンドマネージャーが張り付いて見ているため、状況によっては短期的な見通しの変化や株価動向などに応じて売買を行います。
信託報酬の違いは基本的にそのように、どの程度運用に手間をかけているかによって異なります。
結果としてどちらの方がパフォーマンスが良いかについてはその時の状況によるものの、長期的に運用実績とパフォーマンスがあげられているアクティブファンドは、後者の方が多くなる傾向があります。
この最たる例が、インデックスファンドとアクティブファンドとの違いです。インデックスファンドはファンドマネージャーは存在せず、対象指数と全く同じ運用を行います。そこに見通しや銘柄選定などといった概念は存在しません。その代わり、信託報酬も安くなっているのです。
信託報酬は安い方が良い投資信託という神話は誤解といえます。富裕層の方々は、信託報酬だけでなく、そのファンドの運用成績や運用方針、リスク管理体制などを総合的に判断する必要があります。
信託報酬が高い場合でも、そのファンドが優れたパフォーマンスを示している場合は、手数料を支払う価値があると言えます。投資信託を選ぶ際には、安易に信託報酬だけを重視せず、より広い視野で判断することが重要です。
資産を安定的に増やしていくには、各種手数ようを含めて「投下した総資産に対する絶対的な利回り水準」が、手数料が高くても、それを埋めてあまりある高いパフォーマンスを残すようなファンドを探すことが最も重要です。総合的に判断して、インデックスファンドの方が優れていると判断することはありますが、信託報酬が安いというだけで判断することは、少なくともファミリーオフィスやプライベートバンクではありえません。
「アクティブファンドよりもインデックスファンドの方が良い」と言われることが多いですが、本当にそうなのでしょうか。
確かに、投資信託協会のデータによると、全ての国内投信の比較では、アクティブファンドよりもインデックスファンドの方がリターンもシャープレシオも高いというデータがあります。
しかし、インデックスファンドは必ずしも最適な選択肢とは限りません。
それはインデックスファンドにも欠点はあり、それを補うことができるのが一部のインデックスに勝ち続けられているアクティブファンドだからです。
インデックスファンドとアクティブファンドの説明やメリットなどについてはここでは省略し、インデックスファンドの注意点について解説します。
インデックスファンドは、特定の市場指数の動きに連動するように設計されています。
そのため、対象の指数の銘柄入れ替えが行われない限りは個別の銘柄の選択や入れ替えができません。また、インデックスファンドは運用方針が固定されているため、市況の変動に柔軟に対応することができません。
マーケット全体の動きからもたらされる利益のことを「ベータ(β)」と言い、投信信託を運用するマネージャーの銘柄選択や配分によってもたらされたリターンのことを「アルファ(α)」と言い、つまりアルファとは超過リターンのことを指します。
戦略的にマーケット通りの動きだけをポートフォリオに組み入れるのであればインデックスファンドでも十分ですが、投資の世界では相場よりも大きな利益を得ることも重要な戦略の一つでもあり、それを狙うのであればアクティブファンドを活用する必要があります。
インデックスファンドは、特定の指数に連動する投資対象に限定されるため、リスク分散が制限されることがあります。一方で、アクティブファンドは複数の投資対象を組み合わせることで、リスクを分散させることができます。
例えば、株式と債券など複数の資産を組み合わせるものや、相場環境に応じて銘柄数を増やしたり減らしたりする分散の調整などを行います。
そしてそのような資産や銘柄の配分を機動的に変更することができます。
もちろんインデックスファンドでも、複数組み合わせればそれが可能ですが、自分でそれぞれのインデックスファンドの最適な比率を計算したり機動的に調整する必要があり、それはとても難しいことです。
インデックスファンドは、指数そのもののパフォーマンスに連動するため、市場全体の下落にもそのまま影響を受けます。
特に、バブル崩壊や金融危機などの大きな市場変動が起きた場合、インデックスファンドの価値も大きく減少します。インデックスファンドはそのようなほとんどの銘柄が大幅下落する局面でも特に何かのアクティブに銘柄の入れ替えなどの対策を講じることができません。
一方アクティブファンドであれば、同じように下落の影響は受けるものの、その後の対応が可能です。相場が大きく崩れた場合、それ以前の銘柄ごとの比率は一気に変動します。また、そのタイミングで上場廃止やM&Aなども起きます。
そのような急激な値動きに応じて、銘柄比率を再調整するリバランスや短期的な業績の変化などに機敏に対応し、リバウンド時にしっかりと値上がりが取れるような投資行動を行うことができるのはアクティブファンドの特徴です。
実際にリーマンショック時には、大幅下落を被るもののリバウンドが早かったアクティブファンドも多くあり、現在も運用実績がしっかりしているアクティブファンドはその経験を活かした運用を行っているのです。
インデックスファンドは、市場指数の銘柄構成比率に忠実に従うため、市場のバブル状態を反映する可能性があります。つまり、市場のバブルが発生した場合には、インデックスファンドのポートフォリオにもそのバブル銘柄が含まれてしまうのです。
また、インデックファンドの性質上、時価総額が大きいものを組み入れることが多く、いずれ市場から退場させるべき銘柄まで購入してしまうことがあります。
バブルが崩壊した場合には、インデックスファンドの価値も大きく減少する可能性があるため、投資家はこのリスクを理解しておく必要があります。
投資効率が高いとされているインデックファンドですが、このように注意すべき点はいくつかあります。盲信的にネットなどでの神話を信じるのではなく、アクティブファンドとインデックスファンドの良い点、悪い点の両面をしっかりと理解した上で判断することが最も重要です。
富裕層の方であれば、銀行や証券会社などの担当者から、投資信託を具体的に勧められた経験もあるかと思います。ただ、金融機関やIFAには未だに手数料目当ての販売や、投資家目線で考えていない営業担当者が数多くいます。
低金利の現状では投資信託は金融機関にとって儲かる手数料の高い商品であり、投資家は注意が必要です。
誤解のないようにお伝えしておきますが、全ての金融機関やIFAが悪いわけではありません。しかし、今回はこんな投資信託を勧めてきたら要注意、という一例をご紹介します。
投資信託を選ぶ際には、セールストークに惑わされないように気をつけましょう。
特に、以下のポイントに注意する必要があります。
本来あまりリスクを取る必要のない商品である投資信託ですが、「かなり儲かる」、「リターンがとても高い」、「運用実績がとてつもない」などといったリターンを特に強調した営業を行う金融機関もあります。
投資はリスクとリターンがセットです。
高いリターンを謳う投資信託にはリスクがつきもので、注意が必要です。
また、一部業種に特化しているため短期的に値上がりしている場合や、投資対象資産とは異なる指数と比べてかなり良いなんていう場合もあります。
例えば、新興国株ファンドで、「S&P500やTOPIXよりもかなりリターンが高いためとても良いファンドです」なんてことがあります。
しかし、新興国株ファンドでも、新興国の指数と比べるとそれに勝るファンドは多くなく、そもそもS&P500やTOPIXと比べること自体ナンセンスです。
最近、特にインド株ファンドにおいては、多くの金融機関のセールストークでも使われ、投資信託を分析する立場としては、なんでこのファンドの残高増えているんだろうと不思議に思うファンドが存在します。
リターンだけで見ず、過度な期待を持たずに、しっかりとリスクとリターンのバランスを見極めましょう。
一時的な好成績を誇る投資信託もありますが、長期的なパフォーマンスが持続するかどうかは別の問題です。
例えば、過去1年のパフォーマンスは絶好調で他のどのファンドよりも上昇しているものの、過去5年やそれ以前で比較すると全く良くないなんていうファンドです。ファンドや株価のチャートは、好調な期間だけを絞ることによって見え方が全く異なります。
特に短期的なパフォーマンスだけで判断してしまうとその後、後悔することがほとんどです。そのため、過去の動きを見る場合は短期的なものではなく5年やそれ以上の長い期間で見る必要があります。
短期的な成績にだけ注目せず、長期的な見通しを考慮することが重要です。
投資信託の手数料には、買付時にかかる購入時手数料と保有している間ずっとかかる信託報酬があります。保有期間にかかる信託報酬は、運用管理にかかる手数料なのでファンドごとに決められています。そのため、どの金融機関から購入しても信託報酬は一律です。
しかし、買付時にかかる手数料は、実は販売会社が決定し、その取り分は販売会社に入ります。つまり、同じ投資信託だとしても販売する金融機関によって買付手数料が異なる場合もあるのです。
例えば、全く同じ投資信託だとしても、A銀行だと3%、B証券だと2%、Cネット証券だと1%というケースも起こります。
全く同じ商品を買うのであれば、手数料は安い方が良いでしょう。そのため、手数料、特に買付時にかかる購入時手数料が過剰に取られていないか注意が必要です。
しかし、実際にはその金融機関との付き合いやIPOの配分が有利になるなど、さまざまな要素もあるので、そのあたりはご自身で総合的に判断する必要があります。
特定のテーマや業種などに特化したテーマ型ファンドは、それぞれに良し悪しがありますが、その多くは販売する金融機関や運用会社側のためにあると言っても過言ではありません。
それは、相場において注目されているテーマによって販売しやすい、残高が増えやすい、などといった理由からです。近年だと「AI」をテーマにしたファンドが乱立しています。
実際にAI関連銘柄は注目されており、株価上昇もしているので魅力的だと感じてしまいますが、AIをテーマにしたファンドでも実際にはただ米国株のテクノロジー関連に投資しているだけのものや、NASDAQの時価総額上位銘柄に指数と同じように投資しているだけといったファンドもあります。
少し前だと、「環境」、「SDGs」などというテーマのファンドも多くありました。
このようなテーマ型ファンドは、金融機関が販売しやすいだけでなく、相場の注目度が落ちた場合大きく値下がりし、残高も急減するなんてこともよく起きます。
全てのテーマ型ファンドが悪いというわけではありませんが、本当にそのファンドがしっかりとテーマに沿った運用ができているのか、そのテーマは一過性の流行りだけではないのか、などに注意が必要です。
投資家が気をつけなければいけないファンドとして最も当てはまるのは、新規設定ファンドや設定されて間もないファンドです。
金融機関としては、未だに新規設定ファンドの販売ノルマや目標がある場合も多く、実際に勧められた経験のある方も多いはずです。新規設定ファンドはもちろん過去の運用実績もなく、果たしてそのファンドが優秀なのかどうか判断がつきません。そのため、むやみに手を出すことは禁物です。
新規設定ファンドだけでなく、設定されてから1年や3年といった間もないファンドでも、その期間でいくらパフォーマンスが良いとは言え、それは短期的な実績であり、投資判断をするときは注意が必要です。
しかし、新規設定ファンドの投資先である海外ファンドは長期の運用実績があり、それに国内投信として投資するために新たに設定されるというファンドもあります。それについては実績があるファンドに投資するだけ、ということになるため、その投資先の実績を見れば検討可能です。
新規設定ファンドの目論見書や販売用資料に、「投資先ファンドの実績」なのか、「類似ファンドの実績」なのかを確認し、既に運用されているファンドに乗っかるのか新たに運用するのかを確認しましょう。
また、経験豊富な上級者の方には是非知っていいただきたいのですが、新規設定ファンドを避ける本当の意味は、過去のトラックレコードが確認できないという理由よりも、もっと大事な、そのファンドマネージャーの「癖」が確認できないことにあります。新規設定のファンドの売買回転率、順張り・逆張りといった手法、スタイルリスクがあるのかないかなど目論見書では確認できない「癖」が確認できません。この癖は、その後のパフォーマンスに大きく影響を与えるため、上級者の方は是非このような点でファンドを分析してください。
3.ネット上の情報にも気をつけたい
ここでは金融機関によるセールストークや営業について取り上げましたが、ネット上でのファンド情報にも注意が必要です。
特に、投資情報や個別のファンドについて良いことばかり書いているサイトやブログも多く存在します。その多くはネット証券での購入をリンク付きで促すことや口座開設を勧めることがあり、そういった記述やリンクがあれば広告収入目当ての記事だと判断できます。
自分に合った投資信託を選ぶために、冷静な判断力を持ちましょう。
投資信託を選ぶ際、多くの金融機関において、ファンドラップやラップ型ファンド、バランス型ファンドなど、安定性を推した商品を勧められることがあります。
しかし、実はラップ型や安定を推しているものが良いとは限りません。特に富裕層の方々は、そのようなファンドにはより慎重になる必要があります。では、どう見極めれば良いでしょうか。
本章では、富裕層であれば知っておきたいバランス型ファンドの見極め方についてお伝えします。
バランス型ファンドの多くは、リスクの低さが最も求められるポイント、かつ最大の特徴です。しかし、その多くはリスクは低いもののそれに見合うリターンがあげられていないのが実情です。
そのリスクに見合ったリターンがしっかりとあげられているのかを見るために、シャープレシオを確認する必要があります。
例えば、リスクが5%のファンドだとすると、一見それだけ見れば低リスクで安定したファンドだと思えます。
ところが、リターンが2%や3%しかあげられていない場合、シャープレシオは1未満となり、リスクに見合ったリターンはあげられていないことになります。リスクが5%の場合、リターンも5%あればシャープレシオは1となり、低リスクながらもしっかりとリターンもあげられる優秀ファンドと言えます。
つまり、バランス型ファンドを見極める場合は特にシャープレシオが重要で、中長期でのシャープレシオが1以上、もしくは1に近いファンドの中から選択していけば間違いが少なくなるということになります。
リスクが低いということは、下落時のクッションがあるということです。
バランス型ファンドを見る際には、過去の最大ドローダウン、つまり最大下落率を確認する必要があります。具体的には、ほぼ全ての資産が大きく下落した局面、直近だと2020年初頭のコロナショックや2008年のリーマンショックのファンドの下落率を把握しましょう。
そのようなショック時には、いくらリスクを抑えたファンドであっても下落は避けられません。
しかし、その下落率がどの程度に抑えられているのかを見ることで、仮に今後同じような局面になったときにパニックになることなく落ち着いていることができます。
例えば、リーマンショック時には、円ベースの世界株平均の最大ドローダウンは-49%でした。
バランス型ファンドで-40%だったとすると、いくら下落率を抑えられているとはいえ、それだと大きく下がりすぎです。実際に優秀なバランス型ファンドではリーマンショック時に-10%や-20%程度に抑えられたファンドも多くありました。
万が一、リーマンショック級の相場が再度訪れたとしても、下落率が-10%などで抑えられていればパニックになることなく、その後の回復のための投資行動をしやすいと言えます。
複数の資産を組み合わせたファンドや運用において、資産配分の変更方法については2種類の投資手法があります。
「SAA(戦略的資産配分)」と「TAA(戦術的資産配分)」です。
わかりやすく言うと、SAAは資産配分が固定されており、基本配分比率を決めたあとはそれに沿って配分をすることで、TAAは相場環境に応じて機動的に資産配分を変動させるというものです。
どちらの方がパフォーマンスが良いかや、どちらが優れているかは相場次第になるため、なんとも言えません。
ただ、資産配分固定のSAAは5〜10年でのリターンを逆算して基本配分比率を決定しているため、長期的に安定したリターンがあげやすいです。
機動的に配分変更するTAAは、数ヶ月スパンでのリターンを最大化しようとするため、1〜3年といった中期的なリターンは高くなりやすいです。
重要なのは、バランス型ファンドの運用手法には2つあり、それぞれ特徴があるということです。
より安定したポートフォリオを構築する場合は、それらの異なる手法を行うファンドを組み合わせて保有することをお勧めします。
今回は、当信託に関する誤解を受けやすいポイントをお伝えしました。新NISAがスタートしたこともあり、本屋に行けば「資産運用コーナー」、ネットでは様々な投資情報が溢れています。その情報が、皆さんのためになる真実を語っているという保証はありません。やはり自分自身で最低限押さえておくべきポイントを知っておくことで、無駄な投資を回避することができます。今回の内容を参考にしていただければと思います。
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