富裕層の資産管理において、ファミリーミッション・ステートメント（FMS）は、単なる投資戦略の文書ではありません。それは、家族の絆、信頼、そして次世代が資産を適切に管理するためのリーダーシップという、金額には換算できない「無形資産」を構築するための設計図です。

多くの資産家が抱える「資産は残せても、家族の絆が壊れてしまうのではないか」という不安に対し、FMSはどのようにしてその解決策を提示するのでしょうか。本記事では、FMSがどのようにして資産の保全と家族の幸福を両立させるのか、その本質的な価値について専門家が解説します。

1. FMSが守り育む「無形資産」とは？

ファミリーオフィスにとって、現金や不動産といった「有形資産」の保全は当然の責務です。しかし、FMSの真価は、その裏側にある「無形資産」を強化することにあります。

1-1. 家族の絆と信頼の強化

FMS策定のプロセスは、家族全員が「なぜ資産があるのか」「資産をどう使うべきか」という共通の価値観を話し合う機会となります。この対話を通じて、メンバー間の資産に対する理解のギャップが埋まり、家族としての共通のアイデンティティが生まれます。

• 効果: 相続時や大きな投資判断の際、感情的な対立や「誰が一番得をするのか」という不信感が生じるのを防ぎます。資産管理の土台となる「絆と信頼」を強固にします。

1-2. FMSは「失敗しないためのDNA」

FMSは、一族が過去に成功した経験や、あるいは失敗から学んだ教訓を言語化し、次世代へと受け継ぐ「DNA」としての役割を果たします。これにより、世代交代によって資産が散逸するリスク（富の三代目の法則など）を、哲学と知恵で回避します。

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2. 資産だけでは継承できない：FMSが次世代に植え付ける「富の守り手」のDNA

FMSは、資産そのものではなく、「資産を運用・管理する能力と倫理観」を次世代に継承するための最強のツールです。真のリーダーシップとは、資産を消費することではなく、「守り手」としての責任を果たすことにあります。

2-1. 「責任」を伴うリーダーシップの定義

FMSは、単に「お金を渡す」のではなく、「資産を家族の理念に基づいて管理する責任」を明確に定義します。次世代のメンバーは、このFMSを読むことで、自分たちが単なる資産の「消費者」ではなく、一族の価値観と資産を未来に伝える「守り手（スチュワード）」であるという自覚を持つことになります。

• 具体的な継承項目:
  • 資産管理の倫理観: 「リスクを過度に取らない」「法令遵守を徹底する」といった、FMSで定めた行動規範。
  • 意思決定の枠組み: FMSに沿って、投資委員会や家族会議でどのように合意形成を行うかというスキル。
  • 社会貢献への責任: 一族の富を社会にどう還元するかというフィランソロフィーの理念。

2-2. FMSを基盤とした教育とトレーニング

FMSを策定したら、それを次世代の教育プログラムに組み込みます。FMSは、次世代メンバーに対する資産管理教育の教科書となります。

1. FMSの解説: FMSが生まれた背景や、そこに込められた創業者の想いを教えます。
2. 実務への参加: FMSに基づく投資判断や、財団運営などの実務に、若いうちから参加させます。
3. 家族会議での発言: 家族会議でFMSの理念に照らして意見を述べる機会を与えることで、リーダーとしての「当事者意識」と「責任感」を養います。

このプロセスを通じて、次世代は単なる資産の受け取り手ではなく、FMSという一族の哲学を体現する真のリーダーへと成長していきます。

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3. FMSに関するよくある質問（FAQ）

Q1. FMSはいつから次世代に開示すべきですか？

A: FMSの理念や社会貢献に関する部分は、早い段階（例：10代前半）から共有し、家族の価値観として教育に取り入れるべきです。資産運用に関する具体的な戦略部分は、次世代が一定の金融知識を身につけた成人後（例：20代前半）に開示し、実務的なトレーニングを開始することが一般的です。

Q2. FMSは一度作ったら変えてはいけないのですか？

A: いいえ、FMSは「生きた文書」であり、時代や家族構成の変化に応じて定期的に見直し、進化させるべきです。一般的に、5年ごと、または一族の主要なイベント（世代交代、大きな事業売却など）が発生した際に、家族会議で見直すことが推奨されます。

Q3. FMSがないと、相続対策はうまくいきませんか？

A: FMSがなくても相続対策（税務・法務）は可能ですが、FMSがない場合、対策は「節税」や「法律上の形式」に留まりがちで、「家族の思いや価値観」が反映されません。FMSは、相続対策を「家族の幸せを実現する資産承継」へと昇華させるための、最も重要な精神的な土台となります。

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まとめ：無形資産を重視するファミリーオフィスの選択を

ファミリーミッション・ステートメントは、有形資産を守るだけでなく、家族の絆、信頼、そして次世代のリーダーシップといった無形資産を構築・継承するための、最も強力なツールです。

資産の「量」だけでなく、「質」と「未来」を重視したファミリーオフィス型資産管理を構築したいとお考えであれば、まずFMSの策定から始めることを強くお勧めします。FMSの作成、そしてそれを基盤とした多世代への資産承継計画についてお悩みの方は、中立的な専門家集団であるファミリーオフィスドットコムにご相談ください。

監修・執筆：渋谷 豊

ファミリーオフィスドットコム株式会社　代表取締役 大学卒業後、邦銀にてキャリアをスタート。大学院を修了後、Citibank N.A.、仏銀ソシエテ・ジェネラル信託銀行、Societe Generale Bank & Trust Singapore において、プライベートバンキングおよびアセットマネジメント業務に従事。海外勤務7年間を含め、グローバルな資産管理の実務経験を有する。 帰国後は、上場企業グループ傘下の投資顧問会社の代表取締役として、富裕層および上場企業オーナー向けの資産運用助言・ファミリーオフィス業務を統括。資産運用・管理領域における実務歴は25年以上に及ぶ。 2019年設立のファミリーオフィスドットコム株式会社において、中立的立場から資産管理・運用に関する総合的支援を提供。また、2019年より、厚生労働省年金局資金運用課（GPIF 所管）の資産運用研修にて講師を務めている。慶應義塾大学大学院修了。

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