コロナ禍は、私たちの生活様式だけでなく、世界の富裕層の「危機管理」に対する意識を根本から変えました。感染症のパンデミックという未曽有の事態を経験した今、富裕層は単なる資産増加だけでなく、いかにして不測の事態から資産と家族を守るかという視点から、ライフプランを再構築し始めています。

本記事では、この新たな潮流を「危機管理」という観点から分析し、富裕層が今、不動産、教育、そして海外投資に動く理由とその具体的な戦略について、専門家の視点から徹底解説します。

1. コロナが変えた富裕層の価値観：「プランB」という新潮流

パンデミックによる移動制限や社会の分断は、富裕層に「自国に依存するリスク」を強く認識させました。この経験から生まれたのが、「プランB」という考え方です。

• プランB: 予期せぬ事態が起きた際でも、資産と家族の安全を確保するための、「第二の選択肢」や「バックアップの拠点」を持つという危機管理戦略です。

この「プランB」を具体化するために、富裕層は従来の資産形成に加えて、以下の3つの分野に積極的に動き出しています。

1-1. 国内における「ワーケーション不動産」への投資

リモートワークの普及は、働く場所の概念を劇的に変えました。富裕層は、都心部のオフィスビルや住居だけでなく、地方やリゾート地での「ワーケーション不動産」への投資を活発化させています。これは、単なるレジャー目的ではなく、緊急時に都心から離れて安全に生活・仕事を継続できるバックアップ拠点として機能させる目的があります。

1-2. グローバルモビリティと海外投資の加速

国や地域の政策によって感染拡大や経済活動に大きな差が生まれたことは、富裕層のグローバルモビリティへの関心を高めました。特に、政治的・経済的に安定した国への移住や投資を検討する動きが活発になっています。

投資先としては、ニュージーランドやオーストラリアのような「安全な場所」としての投資家ビザが人気を集めています。また、日本でもニセコのような、外国人投資家に寛容なエリアへの投資が継続的に行われており、これも「グローバルに分散する」という危機管理の一環と言えるでしょう。

2. 子供の未来を守る「教育投資」への新たな視点

富裕層にとって、子供の教育は最も重要な投資であり続けています。しかし、パンデミックを経て、その目的は単なる学力向上から、より本質的なものへと変化しています。

2-1. 「海外教育」が持つリスクヘッジの機能

海外でのロックダウンや入国制限を経験したことで、富裕層は、子供に「複数の国で生活できる基盤」を与えることの重要性を認識しました。海外での教育は、単に語学力や国際感覚を身につけるだけでなく、いかなる状況下でも柔軟に対応できる、真のグローバルな人間力を育むためのリスクヘッジ戦略となっています。

2-2. 投資家ビザが果たす「教育の安定化」

海外教育を考える上で、ビザの問題は避けて通れません。学生ビザはあくまで就学期間中のみ有効であり、卒業後のキャリア形成に不確実性が伴います。

そこで富裕層は、投資家ビザの取得を検討することで、子供の教育とキャリアを長期的に安定させる戦略を取っています。これにより、現地学生と同等の教育費で学べるメリットや、卒業後の就職活動でのビザの制約をなくすことができます。

【関連記事：投資家ビザが重要な理由とは？子供の海外留学・キャリア構築で後悔しないための全知識】

3. なぜ今、専門家への相談が不可欠なのか？（FAQ）

3-1. 自分で情報収集するだけでは不十分ですか？

A1: インターネットやSNSには情報が溢れていますが、その多くは断片的です。資産形成、教育、ビザ、税務といった複数の専門分野にまたがる「プランB」戦略は、全体を俯瞰して最適な計画を立てる必要があります。

個別の専門家（例：税理士、弁護士）に相談するだけでは、それぞれの分野での最適解は得られても、全体としての最適解にたどり着くのは困難です。全体をコーディネートする専門家（例：ファミリーオフィス）に相談することが、時間と費用の無駄をなくす最短ルートとなります。

3-2. 日本も海外の富裕層を誘致していますか？

A2: はい。日本政府も「金融人材」などの優秀な人材誘致に意欲的です。しかし、言語や教育制度、ライフスタイルの観点から、多くの海外富裕層にとって、日本はまだ移住先として優先順位が高いとは言えません。

その中で、北海道のニセコは、外国人投資家に寛大な「特異なロールモデル」として、世界の富裕層から継続的に注目されています。

まとめ：資産形成は「守り」の時代へ

富裕層にとって、2025年現在は、単に資産を増やすだけの時代ではありません。いかにして、グローバルな視点から資産と家族を守り抜くかという「危機管理」が、ライフプランニングの最重要課題となっています。

不動産投資、海外教育、そしてビザ戦略といった各分野の専門家と連携し、ご家族にとって最適な「プランB」を構築すること。これこそが、不確実性の高い時代を生き抜くための、賢明な資産家の新たな潮流と言えるでしょう。

【関連記事】「富裕層のためのライフプランニング完全ガイド｜早期リタイアから多世代にわたる幸福設計まで」という記事も合わせてご一読いただくことで、より包括的なライフプランを検討することができます。

監修・執筆：渋谷 豊

ファミリーオフィスドットコム株式会社　代表取締役 大学卒業後、邦銀にてキャリアをスタート。大学院を修了後、Citibank N.A.、仏銀ソシエテ・ジェネラル信託銀行、Societe Generale Bank & Trust Singapore において、プライベートバンキングおよびアセットマネジメント業務に従事。海外勤務7年間を含め、グローバルな資産管理の実務経験を有する。 帰国後は、上場企業グループ傘下の投資顧問会社の代表取締役として、富裕層および上場企業オーナー向けの資産運用助言・ファミリーオフィス業務を統括。資産運用・管理領域における実務歴は25年以上に及ぶ。 2019年設立のファミリーオフィスドットコム株式会社において、中立的立場から資産管理・運用に関する総合的支援を提供。また、2019年より、厚生労働省年金局資金運用課（GPIF 所管）の資産運用研修にて講師を務めている。慶應義塾大学大学院修了。

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