トランプ政権の通商政策とドルの信認危機
2025年、トランプ政権による相互関税政策は世界経済に波紋を広げ、米国のドル基軸通貨体制を揺るがしています。米国株のみならず米国債まで売られる展開となり、「ドルの信認」という根本的な問題が浮上しています。背景には米国の一方的な通商政策に対する世界的な不信感があります。
特に注目すべきは中国による米国債売却です。かつて1兆3000億ドルを超えていた保有額は、2025年1月時点で7608億ドルまで減少し、過去最大級の売却となっています。これは米中貿易摩擦だけでなく、台湾問題など地政学リスクに備える動きとも解釈できます。
一方、日本は依然として1兆ドル超の米国債を安定保有し、米国から「安定勢力」と評価されています。しかし、中国主導の「脱ドル化」が進めば、日本にも資産再配分の圧力がかかる可能性があります。また、ドル安進行による急激な円高リスクも懸念されます。
歴史的視点からの分析
1985年の「プラザ合意」では、ドル高是正により急激な円高が進行しました。現在も、トランプ政権が提案する「現代版プラザ合意」(通称:マール・ア・ラーゴ合意)に類似した動きが起こり得ます。しかし当時と異なり、現在の米国は中国と直接的に覇権を争う状況にあり、為替調整が単なる経済政策ではなく、安全保障やサプライチェーン再編を含む総合的な国家戦略の一環となっている点が大きな相違点です。
1971年のニクソン・ショックでは、金とドルの交換停止と10%の輸入課徴金導入により為替市場が大きく変動しました。今回のトランプ関税も同様に保護主義的で、為替への影響は避けられないでしょう。円高進行により日本企業の輸出採算は悪化し、特に輸出企業中心の日本株は外需減退と円高による二重の圧力に直面する恐れがあります。
新たな日米関税交渉の焦点
4月16日から本格化する日米関税交渉では、ジョージ・ソロス氏に師事したベッセント米財務長官が中心的役割を担います。ベッセント氏は「ブレトンウッズ体制」の再編を志向し、今回の交渉をその第一歩と位置づけています。交渉の柱は、①米国の再工業化、②ドル高是正と基軸通貨ドルの維持、③安全保障における同盟国の応分な負担、の3点です。
特にドル高是正に向けた取り組みが注目されており、ベッセント氏はプラザ合意を参考に、マクロ政策協調による段階的なドル高修正と貿易不均衡の是正を目指しています。ただし、単純な為替介入には否定的な姿勢です。
また、トランプ関税が交渉材料として使われる可能性があり、ニクソン・ショック時と類似の手法が採られることも予想されます。米国は造船や半導体分野への日本からの投資も求めており、通商と安全保障が絡み合う交渉は日本に複雑な対応を迫るでしょう。
ベッセント氏は同盟国を「緑、黄、赤」で分類しており、日本が「緑」の立場を維持するには、経済・通貨政策や防衛面での協力が不可欠としています。この方針は日本の通商・外交戦略に大きな転換を要求する可能性があり、国際協調と対立のはざまで、日本の外交力が試されることになります。
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